短歌連作「絶望に見えたひとつの混沌へ」 80首
※閲覧は要注意です穏やかじゃない表現を含んでいます
平静を欠いたブリキの槍兵は「すべてお前のせいだ」と言った
不安定な愛着ゆえに不安定な人らとひびき妙にからまる
自らの業から逃げる気はないが他人の罪を背負う気もない
考える葦 その前に一匹の獣だ 肉と愛情を喰う
ほんとうは些細なことのはずなのに気にされすぎて気にしすぎてる
あの頃は強酸性の土でしたみんな痩せててぎりぎりでした
幸せじゃない人たちの混沌を終わらせるため白線を引く
亡くなったひともいるけどそんなこと興味なさげに笑う街並み
飽きているゲームをひとり続けると未来が曇るように感じた
終わりなきインフルエンザの高熱をさまようように駅へと向かう
内科にて血液検査受けてみる 異常はなし 異常はなし
老婆は出しゃばりながら豪語した「きみの笑顔を取り戻せる!」と
「つらい気持ち・悩みごとなど気楽に」とはっきり書いてある看板
調子悪いから来てるのに「悪いのはお前のほうだ!」と老婆が急に
ホリエモンのツイートとかにマジギレのリプライ付けるようなキレ方
荒んでるヘラってはいる尖ってる あなたが裁く罪ではないが
君というレンズ通すと黒なんだ 黒黒黒白黒黒白黒
婆さんは休養をとる病人に甘えとか言う ジェスチャー付きで
名前すら名乗れないのに人のこと助言みたいににこにこ貶す
作り笑いして本心を隠せてるつもりの顔が怒らせている
社会問題だろうよそれは病人じゃなく政治家にぶつけてくれよ
利用者に甘えておいてお断りされると「甘え」と叫んだ甘え
経歴や用語をまくし立てている君の心を僕は見ている
絶対にそうとしか思えない病 愛されなかった獣の月夜
密室の若者とふと重なった愛されたかった様々な影
測れない白黒の渦へと投げた自我の破片が膨らみわらう
どこまでが我でどこから彼なのか 月下に溶ける窓なき小部屋
怒鳴りつつせがむあなたはヒナじゃないエサはやらない母親じゃない
「学生の風情が」じゃなく料金を受け取りながら仕事してない
役立っているふりだけをする人がなぜか揺れだす振り子のように
傲慢と甘えと媚びを煮たジャムが腐りきってて殺戮したい
利用者の問題としてとうとうと語る目を逸らしたい半生
自身とは向かう勇気が出ないので誰かに向かいぶつけたんだね
カレー屋に入るとなぜか牛丼が出たうえ毒入りだったみたいな
ひどく疲れてたゆうべの事ばかり拾って練った泥人形ね
本当に困ってるだけなのになぜ城から城から城から城へ
引き継いだ女は書類だけを見て氷の態度を決め込んでいた
偉ぶった女は前の婆さんのことを「勝手」と批判している
カミサマになりたい人が捏造の出土品から断じた歴史
「数時間あればアタシの眼力で坊やの二十年などわかる」
本人が違うと言うもカミサマは「お前の過去はお見通しだよ」
通り魔が刺した動機は善意だと君が悪いと別の通り魔
零れ落つごと感想を文句として拾うあなたの痩せた田園
中二でも出来ることだけ妙に褒める 調教される気分にもなる
安っぽい演技やテクで騙せると見下している心がのぞく
あえてギャグなんかを投げてみたところはっと素になる大根役者
この女に怒ると指導するような立場に怒る僕としてくる
思い通りにならないと腹いせに重症とする診断基準
経験や自己や他人の評価などばかり気にする君のほうこそ
「アタクシの言うことが聞けないのなら未来は暗くなっていくけど?」
見下した伝え方しか出来ない病 愛されなかった獣のなみだ
まぼろしのあなたにひどく似た人を怒鳴るあなたを見てはいる僕
同意見ではないひとを敵とするあなたの部屋の光なき窓
自らと同じものしか認めない人と同じになりたくもない
物言わぬ羊になんてなる気ない合意も価値もないから詐欺だ
絶対に非を認めない 絶対に辿り着けないおだやかな海
(不都合な現実が来る)「ちがうよね?ちがいますよね?ちがいますよね?」
喜ばせられないけどさ認めてよ 知ったかぶりと否定の砦
「このアタシが念じてあげたのにハトが消えない!」みたいな重い溜め息
脳内ではそうなんですね 現実の懐中時計はちがいますけど
アンフェアな尋問によるトーテムはソ連のようにあかく崩れた
気づかせてあげたよこんな真面目かつ協力的な人はいないよ
その日から慌ててさがすバラバラになったイメージ 顔色悪いよ?
どうしても隠したかった脳漿が嬰児のゆめがついに漏れ出す
結局は自分が咲けなかったから、お前も咲くなと言いたいんだね。
ケアをするふりをしながらケアされる人をケアする僕になってた
やわらかくなれば誰かが圧し掛かる不満ここぞと圧し掛かり来る
「つらい気持ち・悩みごとなど気楽に」とやっぱり書いてある看板
僕で152人目 なら君はそのまま行っていいと思うよ
生物の教師のかたい支配欲の裏にたたずむ怯えた少女
別問題として課題は山積みだ 向き合っていく歌を詠みつつ
自らと向き合えなくて運もなくずるずる行ったのが彼女らか
絶望に見えたひとつの混沌へかつて迷子の僕のアンサー
そこにもう自分はいない誰もいない 停まった時はもう流れてる
特別に良くもなければ悪くもないただの自分を見つける旅だった
六月を忘れないあの苦しさを救急車呼ぶ程の損傷を
見下され笑われていい外道でも自分の道だ自分で歩く
吐き出すのではなくあふれ出るようにまずは自分をきらきら満たす
「僕なりのやり方でやるつもりです。待ってる人がいるので失礼」
すべて詩に変えたあとにはうららかな空洞があり海からの風