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二女のキセキ

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難病の二女のこと。
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#娘

パパ友な歯医者さんたちの、優しいバトンパス

パパ友な歯医者さんたちの、優しいバトンパス

「かぜさんが でますよー」
「みずさんが いきますよー」

この穏やかな言葉に、私は何度もほっこりしてきた。

娘が小さな頃からお世話になっている歯医者さんは、娘が20歳を過ぎても、いつも保育士さんのように娘に話しかけてくれていた。

お顔は、若き日の大江千里さんそっくり。

娘は難病で、現在では人工呼吸器を使って寝たきりの生活をしているが、小さな頃は医療的ケアは必要なくて、ご飯も食べられていた。

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なんでもない毎日を愛おしく思う

なんでもない毎日を愛おしく思う

久しぶりに、大切なママ友と会った。
肢体不自由の二女と一番仲良しだった幼なじみのママだ。

25歳という若さで幼なじみがお空に行ってから、もう半年が経った。

しばらくは、彼女が少し長い入院をしているだけような、ふわふわした感覚だった。
しかしそれも、もう会えない、という覚悟に少しずつ変わってきた。

娘が通う生活介護施設へ娘を迎えに行くと、幼なじみが置いていった茶色のマットに、違う子が寝転んでい

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4年ぶりに、車椅子の二女とショッピングする

4年ぶりに、車椅子の二女とショッピングする

もうそろそろ、二女と一緒にお出かけしてもいいんじゃないか、と、やっと思えるようになった。

この4年間は、娘を数回ほど実家や冠婚葬祭には連れて行ったが、外出といえば、病院か施設にしか連れて行ってやれなかった。

繰り返されてきた同じような日常から、彼女がちょっとはみ出せる日を、ずっと待ち望んできた。

あと数日で娘は26歳になる。

だから、誕生日プレゼントを買いに、夫と一緒に娘をショッピングセン

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生徒としてだけでなく、人としてあなたが好き

生徒としてだけでなく、人としてあなたが好き

noteを始めたばかりの頃、出会えて嬉しかった大切なエッセイがあります。

読ませていただき、ポロポロ泣きました。
そうなんです、ねいびーさんが書いておられるように、我が子を「可愛い」って思ってもらえることが、親ってすごく嬉しいと思います。

身体にも知的にも重い障がいのある二女のゆうは、就学前は療育施設に5年間通い、その後は、肢体不自由の特別支援学校に12年間通いました。

その間、たくさんの先

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本の声に耳を澄ませて、娘の言葉を重ねてみる

本の声に耳を澄ませて、娘の言葉を重ねてみる

帯の言葉に、ドキッとして、胸がチクリと痛む。

「私の身体は生きるために壊れてきた。」 

『ハンチバック』

市川沙央さんの、芥川賞受賞の作品だ。

芥川賞受賞者の記者会見をたまたまニュースで観た。
気管切開した首のカニューレを指で押さえながら、ゆっくりと話をしている車椅子の女性作家の言葉に、グッと惹きつけられた。

市川さんは会見で、
「重度障害者の受賞者や作品がこれまであまりなかったことを考

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いい香りのする子だね、って思ってもらえるように

いい香りのする子だね、って思ってもらえるように

「ゆうさんって、いい匂いがするね。いつも、ほんとにきれいにしてもらっているわね。」

先日、訪問診療の眼科の先生から、こんな、とっても嬉しいことを言われた。

彼女を毎日お風呂に入れてやれなくなって、何年が経つのだろう。

25歳になる二女のゆうは、筋肉が壊れていく難病で、現在は気管切開をして人工呼吸器を常時つけている。
動いたり、食べたり、話したりすることが、今ではできなくなってしまった。

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娘たちの女子会

娘たちの女子会

長女からLINEが来た。
「いとこたちで飲み会するから、うちを使っていい?」
姪からもLINEが来る。
「女子会するから、おうちを貸してもらっていい?」

私の妹家族は、同じ町内に住んでいる。
妹には娘が2人いて、姉の萌(仮名)はわが家の二女と同級生。妹の咲(仮名)はその2歳下だ。

私の子どもたち3人と、妹の娘2人は、5人きょうだいのように仲良く育った。
お互いの家に行き合ってご飯を食べたり、週

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いつも笑顔をくれた、小さくて強い人

いつも笑顔をくれた、小さくて強い人

8月の青すぎる空を睨みつける。
息が苦しい。
あっという間に濃い水色がにじんで、目の前の景色がゆがんで、ポタポタと涙がこぼれ落ちた。

夏空が、娘の親友を連れて行った。

25歳、13kgの小さな身体の女の子。
コツンとして可愛いけれども、娘のゆうと同級生の25歳だから、女の子じゃなくて、女性かな。

娘たちは一歳の時に、親子で通う療育の園で出会った。
療育の園での5年間、特別支援学校での12年間

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「安心してください、それ、習慣ですよ。」と言われたい

「安心してください、それ、習慣ですよ。」と言われたい

ひとりごとなのか、二女に話しかけているのか、誰と話しているのか、自分でも時々わからなくなる。

二女と2人の時は、いつも音楽をかける。
そして気づくと、私はおしゃべりしている。

これは、二女が幼児の頃に親子で通っていた療育施設の先生からのアドバイスと、二女の目の病気がきっかけだと思っている。

小さい頃の二女は、とにかく泣いてばかりいる子だった。
新しい人、新しい場所、新しい遊びや音など、特に「

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そして、バトンは繋がった

そして、バトンは繋がった

春は異動の季節だ。
娘のリハビリの先生が、遠くに異動になってしまった。
30代前半の若い男性の理学療法士さん。
かかりつけの国立病院で、難病の娘が約6年間、毎月の訓練でお世話になった先生だ。

彼は、「ボクは自分のプライベートを切り売りしながら仕事してるんすよねー。」と笑いながら、訊いてもいないのにいつもご自身のお話をされていた。

彼がお付き合いされている女性とのデート話から、実家を出てひとりで

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命を繋ぐ52本の水

命を繋ぐ52本の水

店に入り、右奥の薬売り場へ急いだ。下段のクリーム色のスチール棚には、いつもならぎっしり並んでいる青い蓋の容器が1本もなかった。

店頭からマスクや消毒液などの衛生用品があっという間に消えてしまい、先が見えない不安に世の中が包まれていた約3年前。
新型コロナウィルスの感染拡大で、当たり前に使っていたものが全く手に入らなくなった。

それでも最初の頃はまだ「精製水」は購入することができた。精製水とは、

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娘を連れ出すことをあきらめたくない

娘を連れ出すことをあきらめたくない

先月の雨の日、娘を抱っこしながら外へ連れだして、玄関先の階段で滑って転びそうになった。

もしも本当に転んでいたら、娘を骨折させていたかもしれない。

自分も大けがをしていたかもしれない。

転んだまま起き上がれなくなれば、昼間は近所に誰もいないのに、どうやって助けを呼べばいいんだろう。

ぞっとした。

そろそろ限界かな、と本気で思った。
夫には、

「もう、行くな。雨の日は、頼むから連れ出すな

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夢でもし会えたら

夢でもし会えたら

つくつくぼうしが鳴き始めると、夏休みも終わりだなぁと思う。ほっとするような、寂しいような。

子どもたちが大人になり、我が家の子どもたちとの夏休みはなくなった。今年は子どもの宿題やつくつくぼうしを意識することもなく、夏休みが終わる。

ワクワクしていたはずの真夏は、ふだんとあまり変わらない日々だった。
それでも夫の休みの日はいつもよりも多くて、少しだけ朝寝坊ができた。

夫の休みは、親の介護にほと

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もう平気だ、と思っていたんだけど

もう平気だ、と思っていたんだけど

大きな窓からの夏の日差しが、病院の待合廊下に遠慮なくふりそそがれている。廊下にもロビーにも、見渡す限り誰もいない。
保育園児の運動会なら充分にできるくらい、無駄に広いロビーだ。

冷房が効き過ぎて、娘の腕が冷たくなっている。ガーゼのブランケットを忘れてきたので、よだれを拭くためのフェイスタオルをカバンから2枚出して、娘にフワッとかけた。

娘の気管切開した部分がゴロゴロいうので、喉に繋がれている人

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