#オリジナル小説
【短編】ロマンチックな猫と現実離れな煮干したち 2
歌が好きな従兄弟には昔の記憶がないらしい。
無理もないと思う。11年前の海で大事なものを全て失ったから。大地震の後に津波が来て街を飲み込んで行った。私はその話、話で聞いただけだから言葉以外では知らないんだけど。
目の前で飲み込まれる全てを見ながら従兄弟は気を失って、そのまま、うちに来たのだ。
従兄弟は生まれつきで金髪だった。
私は不思議に思いながら、羨ましくてその髪をよく触っては怒らせた。形のい
【短編】ロマンチックな猫と現実離れな煮干したち
僕は歌った。
今作った歌だ。震える星空の下。お金がない現実を伴奏もなく口だけで歌う。鼻歌ってやつだ。割と大きい声だからその域は超えているのかもしれない。アカペラってやつかな。
隣には誰もいないし。
握っているのは自転車のハンドルだ。10分前まで勢いよく走れたのに、運の悪いことに釘を踏んだらしくプシューと音を立てた。パンクってやつだ。その勢いで自転車ごと僕も飛んだ。運良く痛いところはないのだけど、
【短編】汚れた靴と寒い夜
誰でもない誰かの話
一生懸命生きたよね。
だから、ありがとうっていう気持ちで
さよならしようね。
一緒に生きてきた猫が、
朝日が登る雪の日にキラキラ輝く世界に
命の動きを止めた。
やけに物分かりの良い僕は、
冷たく硬くなっていく猫を撫でながら
大人みたいにありがとうを言って
お別れをした。
それからの僕はどんな猫を見ても
あの猫みたいに可愛がれる自信がなかった。
「え、殺すんですか…。」
【短編】もうすぐ君がきて
誰でもない誰かの話
コンビニに寄って、
眠気を覚ますために飲み物を買う。
それがノンカフェインのほうじ茶だから
目的を見失ってるなって思う。
足の先が冷えてくる季節になってきた。
帰り道でも運転中に眠くなる。
いや、眠いのはいつもだ。
頭がスッキリしている日なんかほとんどない。
事故を起こさないように
寄り道をしては眠気を覚ます。
いつからか、ずっとずっと眠い。
寝不足といえばそうかもしれな
【短編】笛に太鼓と自転車に
誰でもない誰かの話
前置きをちょっと書きますね。
この短編は、音楽系noterさんの #PJ さんのつぶやきにより
書かせていただきます。ありがとうございます。
お題を一つずつ出して短編小説を作ります。
#PJ さんからのお題は「塾」
38ねこ猫からのお題は「まつり」
…塾×まつり…
思春期真っ只中なイメージ。
じゃないすか?え?
甘酸っぱいやつ?青春?
果たして完結してるのでしょうか。
【短編】さよなら現実
誰でもない誰かの話
「高校野球が人生の全てではない。」
随分、無責任なことを言う医者がいるんだなって
病院を出た夕焼けの下、
頭の中で言葉が何度も再生された。
それが、4年前。
俺は、高校時代、試合で投げすぎて肘を壊し、
野球をやめた。
夕焼けを見るたび、
あの頃通った医者の言葉を思い出してしまう。
こんな綺麗な夕焼けが
こんなに痛いのはなぜだろう。
今日も面接に手応えがなかった。
【短編】ドリンクバーと幸せを
誰でもない誰かの話
誰にも気を使いたくないから飯は1人だ。
とりあえず、残業も終わって、
運転して
開いているチェーン店に来る。
個人店だと、なんか悪いなって思うから。
弁当屋が開いていれば、個人店も良いけど。
開いてないし、うちにゴミを増やしたくない。
今日はガストに寄って
「いらっしゃいませ、何名さまですか。」
俺は人差し指だけ立てて
「おひとり様ですね、空いているお席にどうぞ」
席に
【短編】深夜の飯〜親父と俺〜
誰でもない誰かの話
眠い。
毎日、毎日。
眠い。
深夜の夕飯。
もう慣れた。
ニューヨークのコントを見ながら
空になった器を洗わず、
寝そうになるのを耐えている。
お茶を一口ずつ飲みながら、
片付けない言い訳を自分にしている。
このお茶も夕飯のうち
飲み終わるまでは
食事が終わっていない。
そんな言い訳だ。
階段を降りてくる足音。
俺のいる部屋の引き戸が空いた。
「寝ろよ。」
親父だ。