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八百屋編~2030年の食と農と食生活を考える~

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生産者&お客さんと20年以上コミュニケーションとりながら営業する八百屋。会話の中で話題にのぼる「農や食の時事」あれこれについて、思い込み文章ではない個人的見解を書いています。
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記事一覧

簡単に「直接販売・購入」というけれど【八百屋から見た“食”no.58】

簡単に「直接販売・購入」というけれど【八百屋から見た“食”no.58】

「生産者と消費者が直に繋がればよい」という話は簡単ではなく、はっきり言えば生産に注力したい農家にとって直販はまったく別の労力(普段の生産管理+追加労働)であり、出荷と異なる販売向けの別部隊を作る必要があります。多くが奥様が窓口になるパターン。もしくは旦那が目立つか。

窓口に寄せられる期待と支持と信頼と押し付けと思い込みと誹謗中傷の荒波に翻弄されない方法はただ1つ。「実際に会った・商品購入を繰り返

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稚拙なコメ騒動がなぜ起きたか【八百屋から見た“食”no.57】

稚拙なコメ騒動がなぜ起きたか【八百屋から見た“食”no.57】

8月後半のある週末。
普段当店でみかけない(少なくとも店主の私は見たことない)目の血走った人が何人か来て「オタク、お米ある?」と2㎏や5㎏の米を買っていきました。

至近のスーパーのコメ売場はガラガラ。一切なかったようです。
テレビニュースが東京/大阪の出来事(≒日本全体の出来事と勘違い)として全国に拡散します。国会に話題がのぼるほど。

肝心なコト忘れてません?

毎年8月9月は、全国的にコメの

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キッチンに立つ。一緒に食べる【八百屋から見た“食”no.55】

キッチンに立つ。一緒に食べる【八百屋から見た“食”no.55】

※夏野菜の象徴“オクラ”が今回の表紙です※

真夏です。梅雨明けです。
猛暑酷暑がやってきてしまいました。
東京は午前中から実測35度。夕方18時でも35度。22時で30度の日々。
2週間先までずっと同じ予報。その強烈さにゲンナリしてしまいます。

真夏はキッチンに立つ時間をなるべく減らしたい。
真夏に食事を作る全員、同じ感情同じ思考を持っているんじゃないかなと勝手に思ってます。

なにせ暑いし熱

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トマトから透ける生産・流通小売・消費の実情【八百屋から見た“食”no.54】

トマトから透ける生産・流通小売・消費の実情【八百屋から見た“食”no.54】

個人農家、特に少量他品目栽培の農家は、少人数の家族(チーム)経営・少ない労働力総量で多岐にわたる品目&工数をいかに効率的に合理的に労働投入少なく効率よく、栽培管理・収穫・調整・袋詰・梱包・受発注・出荷準備といった作業がこなせるかに、営農の継続(量✕単価≒売上)がかかっています。

生産や栽培にどんな理想や信念があっても結果的に上記に抗えません。
栽培品目&品種選択も、理想と作業合理性の狭間で揺れま

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都市生活の食はもっと値上がりする【八百屋からみた“食”no.52】

都市生活の食はもっと値上がりする【八百屋からみた“食”no.52】

毎月のように値上げのニュースが飛び交います。
物価高ではありません。今が普通。
“食”はまだまだ安いです。もっと価格帯は上がります。

コロナ禍前の20-30年値上げ幅を小さく我慢した反動。特に外食産業・食品全般・惣菜・中食は堰き止めきれません。

誰かが育て作って届けて提供される“手間”。すべての段階でヒトや動力が関わり価格に反映されます。食材自体も育てて獲って詰めて運んでの手間が価格に反映。ヒ

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病院食の実感【八百屋から見た“食”no.53】

病院食の実感【八百屋から見た“食”no.53】

持病の手術で4日ほど入院しました。術後2日目に退院。
ぱっと見は健康体。歩行速度がネジ巻のおもちゃ並みです。
ぼちぼち営業再開への準備をはじめます。
(スタッフ皆のチカラをいつも以上に借ります!頼りにしてます!)

病院食というと味も素っ気もない代表みたいに評されることもありますが、
可能な限り味がつき、惣菜も毎食工夫されています。ゆっくり美味しくいただきました。

病院食の特徴は以下6項目にあり

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オーガニック と 政策推進 の違和感【八百屋から見た“食”no.51】

オーガニック と 政策推進 の違和感【八百屋から見た“食”no.51】

オーガニック(農法/農産物)は、優劣を比較して自己賞賛や他者非難をするものではありません。環境負荷・特定物質・慣行農法との優劣善悪を比較/糾弾したとて解決しませんし(溜飲下げ案件でしかない)。オーガニックを選びたいかどうかは、好み(単純な好き嫌い)・生き方(ライフスタイル)の問題。要は個人の選択の範疇でしかありません。

よって、オーガニックを政策推進するという団体芸が私は大嫌いです。

“声を聞

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農薬不使用の栽培/食材普及を政策に嵌め込むのは無理筋【八百屋から見た“食”no.51】

農薬不使用の栽培/食材普及を政策に嵌め込むのは無理筋【八百屋から見た“食”no.51】

農薬を使わない栽培の最もプラスな点は【味が素直(≒品種・農地の特性・肥培管理に対して正直)】なこと。これ以外ないと言っていいです。

慣行農法との比較を各種記事で見かけますが、環境負荷面で優位かと言われると微妙です。病害虫を物理的に避ける際に使う農業資材は(トンネル・マルチ・ビニールハウスetc.)一緒。燃料も石油資材も使います。農薬に頼れない分、農業資材を慣行農法より多く使う場面もあり、大差ない

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梅の受難・果樹の受難【八百屋から見た“食”no.50】

梅の受難・果樹の受難【八百屋から見た“食”no.50】

画像:和歌山の梅農家へ梅もぎに行った際の選別作業。まずは目視と手作業で落葉や不稔の実を省き、機械で大きさを選別します。

梅の時期になりました。

が。

「今年は(梅の)実がつかない」の声、そこかしこで聞きます。関東以西ほぼすべての地域で(スレ傷の実と合算しても)収穫量は平年の半分以下。傷のない秀品率はさらに下がります。

↓2024年の不作凶作状況をわかりやすく伝えたニュースがこちら。

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4-5月と9-10月のブロッコリーが高い理由【八百屋から見た“食”no.49】

4-5月と9-10月のブロッコリーが高い理由【八百屋から見た“食”no.49】

現代の家庭で最も食べられている(当社比)であろう野菜、ブロッコリー。
栄養価高く&量も食べれて彩りもよい。指定産地野菜の仲間入り(2026年度)でさらなる安定供給が望まれています。

ところが、今年4月~5月初めにかけての店頭価格はちっちゃーい1個298円~標準1個400円前後。つぼみもフカフカで今にも花開きそう。出荷農協も売場もベストを尽くしていますが、高いし小さいし美味しくなさそうです。なぜで

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美味しい野菜を食べるという推し活【八百屋から見た“食”no.47】

美味しい野菜を食べるという推し活【八百屋から見た“食”no.47】

GWです。
私の地元埼玉(とはとても言えない)秘境も例年になく大賑わい。
美味しい水と特産品・鮮やかな新緑・青空・川の流れ・鳥のさえずり・早朝の雲海・夜空の星。温泉・神社・絶景ポイント・体験農園・直売所・地ビールに有名ウイスキーと日帰りでも一泊でも楽しめます。

全国各地にある「道の駅」は行楽の楽しみのひとつ。
道の駅に限らずですが、農園直売所でも土産物エリアでも帰り途中のサービスエリアでもいいで

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画面の中に「解」はない【八百屋から見た“食”no.9】

画面の中に「解」はない【八百屋から見た“食”no.9】

動画・雑誌記事・ワイドショー・健康番組。
すべて“話半分”、もしくは“すべてエンタメ”と思って接してください。

特に動画配信関連。
注目を浴びたいがために『キケン』だ『危機』だと大層な見出しを付ける。過激な物言いをする。皆、フォロワーを増やし、動画再生回数を上げて収入にしたい。要は胴元が囲い込みと換金に必死なだけです。

前回投稿でいうところの
“コダワリが強い・多い”人ほど、囲い込みに弱いです

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買い物と多様性【八百屋から見た“食”no.1】

買い物と多様性【八百屋から見た“食”no.1】

いつからか出てきた多様性というワード。
「多様性こそ大切」と言われてしばらく経ついっぽう、
興味の細分化(分散)と情報化社会が相まって
【共通認識(基礎知識≒一般常識)の低下】を招いている
「多様性は大切」と朧気には皆思いつつ「分断」が進んでいて、
極論の両岸から主張し合っている・相容れない状況が進んでいるように思えるのです。

日本史・戦国史・幕末に詳しい・詳しくない
海外居住・現地事情・外交に

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八百屋からみた“食” ー序章ー

八百屋からみた“食” ー序章ー

こんにちは。noteで出会えたこと、嬉しいです。
対面販売・小売り、学生時代からずっとやってます。
いつのまにか八百屋になってそろそろ20年。独立して10年以上経ちます。

「食」の対象は広いです。とてもとても広いです。
職業柄、青果・農産物に限定しても「原料生産・食品製造全体・世界の政治経済情勢・気候変動・農法(生産技術)・流通(輸送貯蔵技術)・市場出荷/非市場出荷・法律・栄養・ブーム・外食産業

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