SNSはなぜヒトを過激にするのか? 『ソーシャルメディア・プリズム』/クリス・ベイル
こんにちは!
「noteの本屋さん」を目指している、おすすめの本を紹介しまくる人です!
皆さんは、SNSでこんな経験ありませんか?
誹謗中傷やフェイクニュースに心を痛める
つい感情的な投稿をしてしまい、後で後悔する
自分の意見に賛同してくれる人ばかりが目に入り、視野が狭まっている気がする
メディアリテラシーの欠如を嘆く
そんなあなたに読んでほしいのが、クリス・ベイルの『ソーシャルメディア・プリズム』という本です。
この本は、計算社会科学の観点から、SNSが人々の過激化を促すメカニズムを解き明かす書籍です。つまり、書店によくあるメディアリテラシーや倫理を問いかけるようなSNS警鐘本ではありません。
データ・サイエンスと統計に基づいており、そこには科学的なエビデンスが存在します。
では、今日も紹介していきましょう!
クリス・ベイルについて
まずは著者についてかるく紹介。デューク大学社会学および公共政策教授。同大の分極化研究所(Polarization Lab)所長。研究分野は政治的部族主義、過激主義、社会心理学。ソーシャルメディアのデータを、計算社会科学の手法を用いて研究。
この本にでてくる用語で、少し難しい単語を先に解説します。
そのほうが、あとにつづく文章が理解しやすくなると感じたからです。
「エコーチェンバー現象」
「エコーチェンバー現象」とは、自分と似た意見や価値観を持つ人々が集まる閉鎖的な空間でコミュニケーションが繰り返され、自分の意見や価値観が増幅・強化される現象のこと。
SNSでは、自分がフォローするアカウントや、アルゴリズムによって表示される情報が、自分の興味関心に基づいて選別されるため「エコーチェンバー現象」が起こりやすい環境が蓋然的に整ってしまう。
それでは「エコーチェンバー現象」の事例について挙げていきます。
ああ、なるほど! と……納得するはずです!
意見の偏り 自分と異なる意見に触れる機会が減り、自分の意見が正しいと思い込む傾向が強まる
過激化 同じ意見を持つ人々との交流の中で、意見が先鋭化し、過激な思想に傾倒しやすくなる
分断 異なる意見を持つ人々との対話が減り、実社会との分断を深める
誤情報の拡散 事実確認が不十分な情報が、エコーチェンバー内で拡散されやすくなる
このような影響が生じることが懸念されています。
「エコーチェンバー現象」は、SNSに限らず現実社会のコミュニティでも起こり得る現象ですが、SNSの普及によって影響力がより広範囲に及ぶようになったと指摘されています。
そんな「エコーチェンバー現象」を防ぐために、以下のような対策が必要だと講じられています。
多様な意見に触れる 異なる意見を持つ人々の意見も積極的に聞き、自分の意見を相対化する
情報源を多様化する 特定のメディアや情報源に偏らず、様々な情報源から情報を収集する
批判的思考力を養う 情報を鵜呑みにせず、その信憑性や根拠を自分で考える
SNSを利用する際には「エコーチェンバー現象」に陥らないよう、意識的に多様な情報に触れ、批判的思考力を養うことが重要だと、クリス・ベイルは述べます。
では、前置きが長くなりましたが、内容を深く見ていきましょう!
主な内容
エコーチェンバーの伝説
従来のエコーチェンバー理論を再検証し、SNSが必ずしも思想の似た者同士を集めるわけではないと指摘
しかし、SNSのアルゴリズムは、ユーザーの興味関心に基づいて情報をフィルタリングするため、結果的に特定の意見に偏った情報ばかりが目に入る状況を作り出す可能性を指摘
エコーチェンバーを壊したらどうなるのか?
仮にエコーチェンバーを解消できたとしても、人々の分断や過激化は止まらないとクリス・ベイルは主張
異なる意見に触れるだけでは、対立が深まる可能性もあり、むしろ建設的な対話を促す仕組みが必要だと論ずる
実際に壊すとどうなるか?
政治的対立の激しいアメリカを舞台に、SNSにおける言論の分断と過激化の実態を調査
異なる意見を持つ人々が交流する実験を行い、その結果からSNSの設計や地場が人々の行動に与える影響を分析
ソーシャルメディア・プリズム
SNSを、現実を歪めて映し出すプリズムに例え、その特性を解説
プリズム効果によって、人々は自分の意見を過大評価し、他者の意見を過小評価する傾向にあると指摘
大して合理的ではない大衆
人々がSNSで感情的な反応を示しやすい理由を、進化心理学や社会心理学の観点から分析
特に、承認欲求や集団心理が、過激な言動を誘発すると指摘
ソーシャルメディアとステータス追求
SNSでの「いいね!」やフォロワー数などが、ステータスシンボルとして機能している現状を指摘
ステータス競争が、過激な言動や誤情報拡散を助長する可能性を論じている
プリズムの威力
プリズム効果が、個人レベルだけでなく、社会全体にも影響を及ぼす可能性を指摘
具体例として、フェイクニュースの拡散や政治的分断、社会運動の過激化などを挙げる
プリズムが過激主義をあおる仕組み
過激なコンテンツが拡散されやすい理由を分析
SNSのアルゴリズムと人間の心理メカニズムの双方からアプローチ
プリズムは穏健派を"ミュート"する
穏健な意見がSNS上で埋もれてしまう現状を指摘し、その原因を探る
アカウントを削除すべきか?
問題のあるアカウントを削除することの是非や、その効果について議論
プリズムをハックする
SNSの負の側面を克服するための具体的な対策を提案
クリス・ベイルは、大量のデータ分析と社会心理学の知見を組み合わせることで、SNSが社会に及ぼす影響を多角的に分析しています。特に、従来のエコーチェンバー理論を再検証し、新たな概念である「プリズム効果」を提示することで、SNS研究に新たな視点をあたえました。さらに、SNSの負の側面を克服するための具体的な対策を提示し、建設的な議論の促進に貢献しようと試みています。
本書は、SNSを利用するすべての人にとって、自身の行動を振り返り、より建設的なコミュニケーションを考えるきっかけとなる!冊です!
感想
エコーチェンバー理論の再検証
従来のエコーチェンバー理論を再検証し、SNSが必ずしも思想の似た者同士を集めるわけではないことを示した点は、新鮮な視点でした。
SNSのアルゴリズムが、ユーザーの興味関心に基づいて情報をフィルタリングすることで、結果的に特定の意見に偏った情報ばかりが目に入る状況を作り出す可能性を指摘している点は、非常に納得感がありました。
プリズム効果という新たな概念の提示
SNSをプリズムに例え、現実を歪めて映し出す特性を「プリズム効果」と名付けた点は、非常に分かりやすく、問題の本質を捉えていると感じました。
このプリズム効果によって、人々は自分の意見を過大評価し、他者の意見を過小評価する傾向にあるという指摘は、まさに現代のSNSにおけるコミュニケーションの問題点を浮き彫りにしていると思いました。
進化心理学や社会心理学からの分析
人々がSNSで感情的な反応を示しやすい理由を、進化心理学や社会心理学の観点から分析している点も興味深かったです。
特に、承認欲求や集団心理が、過激な言動を誘発する可能性を指摘している点は、SNSを利用する上で自戒すべき点だと感じました。
本書は、SNSの負の側面に警鐘を鳴らすだけでなく、私たちがSNSとどのように向き合っていくべきか、建設的なコミュニケーションを実現するためには何が必要なのかを考えさせてくれる一冊です。
SNSを利用するすべての人にとって、必読の書と言えるでしょう!
一方で、本書で提示されている解決策については、著者と舞台のせいでアメリカに寄っており、根拠もそれらに依っている印象を受けました。
本書は主にアメリカの事例を基に議論を展開しており、日本の状況にどこまで当てはまるのかという点については、さらなる検討が必要だと感じました。しかし、私がCiNii Research - 国立情報学研究所で類似したワードを入れてみたところ、日本にはそのような研究が不足していると思いました。
とはいえ、本書が提起する問題は、現代社会において非常に重要なテーマであり、SNSを利用する私たち一人ひとりが真剣に向き合うべき課題でしょう。
SNS問題で私たちの記憶に深く刻まれている事例は数多くありますよね?
この本から脱落している日本のケースなので、列挙してみました。
東日本大震災 (2011年) 被災地で外国人による犯罪が増加しているというデマが広まり、差別や偏見を助長した。それにより、ネット右翼が暴走し、ヘイトスピーチの磁場となった
二度目の電通過労死事件 (2015年) 電通の新入社員であった高橋まつりさんが過労自殺した事件に関して、東大卒や美人であったことが話題となり、彼女の勤務態度や精神状態、プライベートな交際問題(クリスマスに投身自殺したから彼氏にふられたんだろう等)に関する根拠のない情報や憶測がインターネット上で拡散。裁判では電通が故意に行ったことが明らかにされている。一方で、彼女の遺したTwitterのテキストや投稿時間帯は、電通という組織や過労死を招く社会の異常性をあばく証拠にもなった
熊本地震 (2016年) Twitterに投稿された「地震のせいでうちの近くの動物園からライオンが放たれたんだが 熊本」というテキストと共に、路上にライオンが立っている画像が添付。デマがSNSで拡散し、混乱を招いた。南アフリカで撮影されたものであり、一瞬で見抜けるものであったが、災害時であったことも重なり多くの人が信じてしまった。熊本市動植物園には問い合わせの電話が殺到し、業務に支障をきたした
座間9人殺害事件 (2017年) 加害者が自殺志願者をTwitterで募り、ほう助する仕組みをつくりあげる等、エコーチェンバー現象の悪例である。被害者に対する誹謗中傷やデマも流布され、セカンドレイプという二次被害まで引き起こした
新型コロナウイルス感染症対策(2020年~) ワクチンの安全性や効果に関する誤情報、政府の対応に対する批判的なデマなどが拡散された。ワクチン接種後に死亡した事例が報告されていますが、因果関係は科学的に証明されていないので、ここに関しては何とも言えない。「ワクチン接種で不妊になる」「ワクチンにマイクロチップが入っている」「ワクチンを接種すると磁石がくっつく」は明らかなデマである
あわせて考えてみれば、「ああ、なるほど」と納得するはずです。
これらの事例を振り返ると、SNSがいかにデマや誤情報の温床となりやすいか、そしてそれが社会に深刻な影響を与えるかを痛感させられますね。
私自身も「note」というSNSで情報発信をしていますが、投稿内容には主観的な見解や、恣意的な情報の取捨選択が必ず入ってしまうというジレンマを抱えています。
本書をきっかけに、SNSとの付き合い方を見直し、より建設的なコミュニケーションを目指していくべきだと痛感させられました。
過激化するSNSのメカニズムを科学的に解明!
この本を手に取ってSNSの現実を理解し、建設的な対話を目指しましょう!
【編集後記】
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