【お知らせ】近々、『ミコロボ』シリーズのオンデマンド頒布を企画しております。 画像は表紙の一部となります。 『ミコロボ』《反転》ルートの更新を、本日はお休みさせていただきます。 明日から、『7・供述の日』に入ります。 性的な匂わせがあるのでご注意下さい。 誠に申し訳ございません。
「変わってない、よな。」 「変わってない、ね。」 俺と兄貴が漏らした感想だった。 いつも以上にはしゃいでる未衣子をよそに、俺は兄貴に《夢》にまつわる話を始めた。 「兄貴。」「なんだい?」 「俺達の母さんが火星人って事、父さんやお爺ちゃんやお婆ちゃんは知ってるのか?」
とりあえずご飯と決まり事だけは守って、あとは兄貴の言葉に甘えてもらおう。 今日の予定はそれだけでいい。 まずは食堂へ向かって、歩いていった。 急な用事のない俺達は、慌てずにゆっくりと進んだ。 夢の内容を引きずりすぎて、俺と兄貴の間に、会話が弾む事はなかった。
「俺が10歳の時に、病気で…。」 「この世にはいないと。」「そうです。」 兄貴の軽い説明で、王子はうむ、と考え込んでいた。 だけど王子からの質問は、ここで終わらなかった。 質問じゃなくて、頼み事だった。 「母君の写真など…記録保存されている媒体は所持していないか?」
アレックスさんの1つだけ提示した守りごとに、俺達はわかりましたと答えた。 ノートはアレックスさんで夢の中身を保管した後、兄貴に返された。 これ以上は用事がないので、アレックスさんがいた医務室を出た。 転送装置の時計は《12:00》を表示する前だった。 ランチ食べようと思った。
未衣子は平然としていて、俺達の慌てぶりに首を傾げていた。 「ご飯はもちろん食べるぜ!」 「その前に未衣子、今わかった事を話したいんだ。『武人兄ちゃん』なんだが…。」 兄貴は事実を話そうとした。 妹の左肩に手を置いていた。 話が途切れたのは、未衣子の反応が割り込んだからだ。
クローゼットにしまっていた普段着に着替えていたから、外に出るのに何も問題はない。 しかし、俺達は未衣子が外に出るのを防いだ。 戦いが終わって呑気に過ごしている場合じゃない。 妹には、重大な話をしないといけない。 「何?どうしたの2人とも。 お腹空いたから軽食でも…。」
未衣子が眠る前と後で、一変した。 眠る前はずっと、『武人兄ちゃん』の帰還を待ち望んでいた。 土星圏の人が捜索に向かうと申し出た時、よろしくお願いしますと頭を下げたくらいだし。 だから、心配すんな、休めって、未衣子を俺と兄貴は寝かしつけたんだ。 それが引き金なのかはわからない。
未衣子は延々と黒ずくめの“アイツ“…『武人兄ちゃん』の話ばかり広めようとしていた。 結果、祖母が怒鳴りちらして、未衣子の同級生がドン引きして、未衣子が上級生にいじめられて…。 俺の妹は誰かに心を開こうとしなかった。 唯一、俺と兄貴だけは、ある程度相談してくれるけど。
★★★ 昨夜の夢。 小学校中学年になって、いろんな事を知るようになってきた。 私は本を読む事が好きで、文章の易しい物語本は沢山読んでいた。 おかげで長文の読解にも慣れて、国語の成績はかなり良かった。 逆に苦手なのは、算数とか理科だった。 手を動かして学ぶからかな。
巨大グモの影響で真っ黒な荒地と化した、火星圏タレスの出港口。 他のモニター画面からは、《DANGER》の文字がブリッジのあちこちで点滅していた。 アラームの音も騒がしく響く。 武人は脱出をせず、ただモニター前で立っているだけだった。 「…達者でな。」 飛行グモは爆散した。
『わかりました!』 鍛えられた兵士だから、返事の威勢は良かった。 『【コードW】、始動!』 前線に向かう兵達は【軍用機】の形態チェンジを行った。 訓練通りの声掛けを忘れずに。 遠方攻撃を仕掛ける兵達はそのまま、【コードS】のロッドを振り回した。 その間、武人は他の兵を呼んだ。
ビームと勘違いしたのは、白く光っていたからである。 実際は様々な物体に絡みつく、糸のような鞭だった。 目の前に飛んできたのを武人達が回避した。 すると、鞭の向かう先は宗太郎達のいる宇宙船だった。 武人達は落し穴に引っかかってしまった、と後悔していた。 宇宙船の回避行動は遅い。
エネルギー不足の問題がなければ、そのまままっすぐ巨大グモへ立ち向かうのに。 『我々はこのまま参加します。御二方はまず応急処置を!』 『いや、俺もこのまま行く。【パスティーユ】の調整だけやってくれ。』 『何を仰っているのですか!クーランに悪い治療でも施されたのでしょう!?』
そうだったんだ…。 あのへたっていたおじさんがクーランって人なんだ。 夢の中でニヤニヤ笑ったおじさんと、顔つきがそっくりだったのは覚えている。 宇宙船へ格納される前に、コックピット内のアラームが鳴り響いた。 武人兄ちゃんと同じ考えで、確かにおじさんが引き下がるとは思わなかった。
☆☆☆ 『クーラン…。まぁあれでへばったとは思えへんけどな。』 『やはり、あの男ですか?』 『そうや。広すぎるから誰か居るとか想像するやろうけど、施設内の管理なんかは自前のAIに任せたりしとんねん。 だから、あの研究所は奴の居城で、奴以外の民はおらんねんや。』
小さな事に気を取られる時間はないけど、残存兵の沈黙の間が気になった。 彼は武人兄ちゃんの異変に、気づいているんじゃないかと。 私は今、サブパイロットの状態で【パスティーユ】に乗っている。 脱出の合間に兄ちゃんと話もできただろう。 むせる姿を見せられたので、話はできなかった。
奇跡的にベッドは下の階に落ちずに済んだ。 ベッドをすっぽり収める大きな手が受け止めていた。 「お、おお…。」 クーランは壁を粉砕されたと同時に、尻餅をついてしまった。 目の前に現れた巨大ロボを見て、しばらく言葉が出てこなかった。 最近クーランが悩まされていた、地球産のロボ。
武人の本当の名を呼んだクーラン。 しかし、彼の平常心が崩れ去る時がやって来た。 2度目のアラームによって。 「チッ、うるせぇなあ…。」 2度目は送信後すぐに鳴らされた。 よってクーランは振り返るだけでモニター画面の文字を読み取る事ができた。 同じように、声を出して読み上げた。
「和希兄ちゃん、勇希兄ちゃん!」 『ああ、地図データが復活したんだ!』 『真正面の奥に示されてんのかよ!』 勇希兄ちゃんが怒鳴った。 ちょっと現状を嘆きたい気持ちもわかる。 光線のトラップを潜り抜けた先に、地図データが示す道のりが確保されているんだ。 潜り抜けないと進めない。