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【白井未衣子とロボットの日常】8・業火の日《5》

※予告なく変更のおそれがあります。
※設定上、残酷な描写があります。


『まずい、この速度にこの道のりは…!』『兄貴?』
和希兄ちゃんの反応がおかしかった。
私も同じ様に地図を再確認した。
「北極へ真っ直ぐに向かってる…?」
『な、新幹線より速くねえか!?』
『自分に有利な方に置きたいって訳か…。』
和希兄ちゃんの言い分に私は納得した。
『どうすんだよ!また同じ手でやられるのかよ!』
「勇希兄ちゃん、はっきり言うけど心理作戦は通用しないわ。きっと他の手よ。」
『アイツは寒さに強いが、俺達は【パスティーユ】に力を借りた普通の人間だ。寿命が縮むのは、俺達の方だ。』
私もつくづく思うよ。宇宙人の能力は便利だなと。
正直嫉妬している。
地球を壊すのに注げる力を、他の方法に利用すれば、平和に繋げれるのに。
今は感傷的になっている暇はない。
マルロは自然の利を生かして暴走を始めるだろう。
HRの能力をフルパワーにさせたら、勝ち目はない。

残された手段は…1つだけ。
私達兄妹で考えた作戦。
「アレックスさんに連絡をつけて、仮想空間を展開しよう?」
『え?』
『アイツ素早いんだろ!?偽物ってすぐにバレるって!』
勇希兄ちゃんはうるさいなぁ。
吠えられても仕方ないのは明らかだけど、状況的に。
「…ダメ元でも展開してもらおう?
北極と南極にはやってくる可能性はあったし。」

実は私達が期間継続の申請書を出した時に提出した作戦案は、実現が困難だった理由で却下された。
ところが、アレックスさんが部分的にはギリギリいけるだろうと検討してくれて、北極と南極の極寒地を指定した。
指定地に仮想空間を本物の様に見せるホログラム装置を事前に設置してもらった。その実現が、今こそ叶う時が来たんだ。

「私達は心理的ダメージをくらったけど、敵は何もくらっていないんだ。
せめて同じ様な痛い目に合わせてみたいんだ。
恐怖心を煽る効果って、強いんだから。」
『俺も同じかも。アイツ許せねぇよ。妹を傷物にしやがってよ…。』
「あの時よりは、大丈夫。」
『馬鹿野郎!俺や兄貴は凄く心配したんだぞ!お前の身体を!』
「勇希兄ちゃんが私の代わりに涙を流してくれているのは知っている。
私の涙はいじめの時に枯れ果ててしまったんだ。
読書で感動体験を試みても、無駄だったし。」
『…きっと、泣ける時くるって。』
勇希兄ちゃんが涙を流した。私の事になると感情移入して、喜怒哀楽を表に出してくれる勇希兄ちゃん。
ごめんね、私の我儘を庇ってくれて。

『未衣子、アレックスさんには展開の要請を依頼したぞ。』
「あ、ありがとう。」
和希兄ちゃんが準備を進めていた。
そうだ、今はまだ戦闘の序盤なんだ。
マルロを落とすのが先だ。

昔話は戦闘が終わってから。
全然良い思い出がないんだけどね。
共感する兄達がいるから、いいかな。

「進路は北極でいいよね、和希兄ちゃん、勇希兄ちゃん!」
『ああ!』『おう!』

2人の兄は肯定の意を示してくれた。
北極へ向いて、【パスティーユ・フラワー】は加速を上げていった。

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