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#世界

百億光年レター

百億光年レター

138億年前に生まれた自我が、意志を持って拡大した。

音のない爆発のあと宇宙は晴れ上がった。
爆発による膨張で零下270度まで冷えた宇宙の種。ゆらぎが深い夜を抱きしめて、結合して溶け合い成長した。そこには他者を分かつふちや輪郭のようなものはなかった。自我は目に見えず質量は存在する暗い物質を主食として、身ひとつを作り上げていった。

自我は、引き延ばされた夢を見ていた。
彼女が思い描いたアイデアは

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海底リフレクション

海底リフレクション

海底に沈んだらいいよな
仰向けで太陽を水中で透かしてさ
せんちめんたるな心情などお構いなしに
魚の大群が横切って 鱗で光を反射したんだ
閃光のように一瞬で
きらっとしてさ 一筆書きのように凛々しくて
なんで おれは海で生まれなかったんだろうって
思ったんだよな

水中で すぐ目あけたくなっちゃうんだよな
海中に降りそそぐ陽の光ってさ
プランクトンが雪みたいでさ
光線がおおきな柱みたいに安らかで

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スーパームーンが呼んでる

スーパームーンが呼んでる

まんまるの月は
このせかいから脱出するための
ひみつのすり抜け穴
氷をくり抜いた
やさしい円環

泣きたくなるよ
仰ぎ見るそちらのせかいは
隣の芝生
食卓を囲む団欒の暖色
窓から漏れる
優しい灯り

みんな
閉じ込められてる
折り合いがつかない
差し出したものに
割が合わない
なにもかも
悟ったような顔して
ほんとうは
声が枯れるほど
涙を流したい

十月のよるは雲の影
高い空に漂う
澄んだよるの

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サラダボウル

サラダボウル

不純物を濾過して必要充分な量のことばだけ皿に盛って。
いしき無意識なん層のたまねぎを降りていけばわたしはわたし自身を飲み込めるようになるの。何日もかけて深く深く内に入って地下に潜って掬い上げた水にきみを震わせるものがなかったらどうするの。ことばは陳腐。夢はフルカラー。一瞬の機微を切り取りサラダボウルで瑞々しいまま届けたい。きみの目の前に提示したい。突きつけてやりたい。こういうことなんだと。余計な説

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かなしきタイムトラベラー

かなしきタイムトラベラー

夢のなかでしか 本音がいえない
かなしき タイムトラベラー
じぶんの生を 賭してきた その反動で
どの時代がじぶんのルーツか 忘れてしまった
きのうと きょうと あしたが分断される
裂ける時代をつなぎ合わせ
危機を救ってきた
でも だれの記憶にも残っていない
歴史と歴史のあいだの やみにすいこまれて
それが 美徳とされて
知らないあいだに ひび割れた時空のはざまに
じぶんを殺されてしまった
かなし

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凪があれば

凪があれば

海から内陸部に吹き込んでくる海風が、唐突に止んだ。荒れくるっていた波自身も、じぶんでコントロールできない何かにのみこまれてこれまで無我夢中でからだを揺らして海面をたたいていたが、風がおさまると振動もおさまり、正気を取りもどしたようだった。わたしは長いあいだじっとめをつぶり嵐が通りすぎるのを待った。視覚を遮断することがいちばん大事だ。わたしは暗闇のなかで時間だけをかぞえることに集中する。5秒10秒と

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蝶と月

蝶と月

やはり私のこころのいくばくかは
あのとき壊死してしまったのだろうか
感応しない部分があるようで
生きるほどに
少しずつそういう患部が
増えていくようで
欠けていく月と同じだと思う
機能することをやめ
自分の一部ではなくなったはずのものが
まだ私のなかに残っている
物言わぬ多臓器不全に占領される
擦り切れた私の実体は
一体どこに連れ去られてしまったのだろうか
無軌道に少年が放ったボールは
一体どこに

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 おどろく

おどろく

おどろく という感情が
きみのいのちの みなもとだ
おどろきをなくしたとき
きみのせかいが しずかにとじる

なぜのまえに ただ、ある
ある とは どういうことなんだろうか

めのまえにいるということか
手ざわりがあるということか
あいするということか
いきているということか
ぜんぶすこしずつ ちがうきがする

はりつめる
緊張が ぱん、とはじける
おどろきが よろこびに 転化する

矛盾をかか

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こぼれる

こぼれる

ことばが こぼれる
ことばが にじむ

こぼれた ことばのしみが ひろがって
じわじわと その領域を 延ばしていく

ことばは 立ちあがる
ことばは 転倒する

倒れたことばは せかいをひき延ばす
疎外された自己から
わたしのからだから しみだす

やがてそのしみは
都市になり 国家になり
大陸になり せかいとなり
やがて わたしにもどってくる

わたしのからだは せかいの心棒だ
わたしの心房が 

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うちゅうひこうしのゆめ

うちゅうひこうしのゆめ

うちゅうひこうしは 
ねむるのがきらいだった
めをあけていれば
うつくしいわくせいや
ほうせきのような むげんのふしぎに
いつでもたちあえるから

うちゅうひこうしがみるゆめは
だれもかたらない
うちゅうのこわいぶぶんだ

くらくて おもくて 
ゆがんだ よるのそこ
まっくろなかたまりが 
まいばん かれをおしつぶす
たんしょくのよるが 
かれのそうぞうりょくを
けしてしまう

だから かれ

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ぼくのしゅうまつ

ぼくのしゅうまつ

おわりのひかりが そらに
こうこうとひかったとき
ぼくはさいごのみそしるをのんでいた

べらんだには 
ほしたばかりのせんたくものが
ぬれたまま かぜにそよいでいて
きょうがしずかに はじまるところだった

あさはだれにとっても
とくべつなひかりをはなっていて
だれにもじゃまされない 
しんみつさをもっている

せかいのしゃったーがとじるそのときが
もくぜんにせまっているのに
ぼくはいつもど

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知を希むもの

知を希むもの

知を希むものは歩いていた、
朝日を存分に吸収し、柔らかな感触の、
世界の手ざわりを、確かめていた、
誰かの正義をむげに扱うことはしなかった、
彼にも彼女にも、
相応の事情があったからだ、

知を希むものは泣いていた、
世界は人間では知り得ぬ
不思議に満ちていた、
その奇跡に泣いていた、

人類が試されていた、
転げ落ち、身体を打ちつけ、
簡単に死ぬ人たちの意味なんか問わない、
問えるはずがない

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Drop

Drop

一篇の詩が
だいじなものを連れ去ってしまう
世界の在り方を 変えてしまう

いつもと同じ帰り道が
突然 いつもとちがう
変異する
風景が がらりと様相を変える

不意に飲み込んだ大きなドロップ
異物がのどを通るとき
ぐえっ とえずく
身体が 反射で拒絶する

涙を拭いたとき 
きみは同じに見えるけれど
じつは再構築されている

決して詩を安酒のように
飲んではいけないよ
倒れてしんでしまうか

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人新世のエチュード

人新世のエチュード

毎日が指数関数的なスピードで加速していく世界
わたしのCPUの方が追い付かないや
引き返すことが不可能な転換点に 
大人が勝手にディストピアを重ねないで
何でもわかっているような口調で語って 
定数と変数をはきちがえないで

あんたたちが作った世界で 
これからも生きていくんだから
わたしは掌を見つめて 
できるだけ実態のある 個人的な夢を掌に重ねる

机上の空論を振りかざして 
誰が正しいか争う

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