人新世のエチュード
毎日が指数関数的なスピードで加速していく世界
わたしのCPUの方が追い付かないや
引き返すことが不可能な転換点に
大人が勝手にディストピアを重ねないで
何でもわかっているような口調で語って
定数と変数をはきちがえないで
あんたたちが作った世界で
これからも生きていくんだから
わたしは掌を見つめて
できるだけ実態のある 個人的な夢を掌に重ねる
机上の空論を振りかざして
誰が正しいか争うよりも
魚を三枚におろせるようになりたい
パンクした自転車をさっと直したい
シャツにボタンだって付けたいし
免許を取って きみをドライブに連れ出したい
昨日のタイムを コンマ一秒でも縮めたい
森の中に 自分でログハウスを作ってみたい
三角関数や微積を理解できるようになったら
何世紀も前の数学者と会話してみたい
楽譜が読めるようになったら
ジャズを奏でてみたい
わたしが作った作品で きみを号泣させたいし
誰も買ってもらえなかった三十六色の色鉛筆で
世界を塗り分けてみたい
具体的なかたちがあること
軸がブレないこと
わたし自身が楽しめること
人新世を生き抜くうえで 何よりも大切なこと