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【読書ノート】『滅びの前のシャングリラ』

【読書ノート】『滅びの前のシャングリラ』

『滅びの前のシャングリラ』
凪良ゆう著

一ヶ月後に小惑星が地球に衝突する。9割の人々は消滅するのだと言う。

登場人物は、いじめられっ子の友樹、ひとを殺めたヤクザの信士(友樹の父)、静香(友樹の母)、雪絵(医者の家庭に養子された少女)、売れっ子シンガーの山田路子(Loco)。それぞれが、辛い日々を嘆いて過ごしている中、一ヶ月後に地球が滅亡するというニュースを聞く。

人生は有限だと言うことを突き

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【読書ノート】『冬の夜』(『父と私の桜尾通り商店街』より)

【読書ノート】『冬の夜』(『父と私の桜尾通り商店街』より)

『冬の夜』(『父と私の桜尾通り商店街』より)
今村夏子著

短編集で、全編通して、人生の不条理みたいなことが、テーマになっているのだけど、本編は、

赤ちゃんの幽霊が出る病院で同じ306号室に生まれた「かっちゃん」と「なみちゃん」という二人の赤ちゃん。なみちゃんの家族は幸せそうで暖かい一方、かっちゃんの家族は冷たい印象を受ける。かっちゃんは早産でトラブルがあるのに、世の荒波の中に連れて行かれる。一

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【読書ノート】『ゆらゆら』(『からまる』より)

【読書ノート】『ゆらゆら』(『からまる』より)

『ゆらゆら』(『からまる』より)
千早茜著

主人公(「私」・「田村」)は、クラゲのようにゆらゆら人生を漂っていて、少しでも、男に言い寄られるとくっついて、付き纏っていると、振られてしまう。振られるといつも、華奈子に連絡して、英気を取り戻す。

華奈子は、美しくて芯のある女性なのだけど、女性しか愛せない。

そんな華奈子は田村のようにゆらゆらしている生き方をかわいいと言う。

キーワードを挙げてみ

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【読書ノート】『パアテル・セルギウス』

【読書ノート】『パアテル・セルギウス』

『パアテル・セルギウス』
トルストイ著

トルストイの短編小説で、森鴎外が訳したもの。

ステパン侯爵は、将来を嘱望されるイケメンの仕官で、努力家として常にトップを目指していた。しかし、ある事件をきっかけに世捨て人となり、パアテル・ゼルギウス(ゼルギウス神父)として出家する。出家後も賞賛を受けるが、その度に欲望に悩まされ、山に篭って修行を始める。

ある日、美しい女性が彼を誘惑し、ゼルギウスは誘惑

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【読書ノート】『ニベア』(『強運の持ち主』より)

【読書ノート】『ニベア』(『強運の持ち主』より)

『ニベア』(『強運の持ち主』より)
瀬尾まいこ著

主人公(「私」)は、ルイーズ吉田を名乗る占い師。短大を出て、事務員として就職したものの、半年で会社を辞めてしまい、アルバイトとして、占い師になったところで、物語は始まる。恋愛ものの相談が多い中、ある日、小学3年生の男の子が占いに来たのだった。

キーワードを挙げてみる。

①占い師
1.未知の未来に対する人々の不安を和らげる存在。知識を求める人々

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【読書ノート】『かたつむり観察者』(『11の物語』より)

【読書ノート】『かたつむり観察者』(『11の物語』より)

『かたつむり観察者』(『11の物語』より)
パトリシア・ハイスミス著

 主人公(ピーター・ノッパード)は食用かたつむりが交尾する姿をもくげきしてから、非常に興味を唆られて、かたつむりを書斎で飼うようになった。それからというもの、仕事の業績も上がるようになっていった。仕事で忙しくなってしまい、二週間ほど、書斎に入らっておらず、久しぶりに、書斎に足を運ぶと部屋は一面、かたつむりに占拠されていた。そし

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【読書ノート】『太陽の座る場所』

【読書ノート】『太陽の座る場所』

『太陽の座る場所』
辻村深月著

地方のある高校の同窓生の物語。
有名な女優(キヨウコ)が同窓生にいるので、同窓会(クラス会)の幹事は毎年のように、同窓会を開く。

高校時代を振り返りながら、生徒一人ひとりが、自分の物語を語って行く。

天照大神が岩戸に隠れる物語に少し引っ掛けている当たりも興味を惹かれた。

ビデオも見たのだけど、なかなかわかりにくかった背景が、小説では、細かく書かれていて、いろ

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【読書ノート】『刺繍する少女』

【読書ノート】『刺繍する少女』

『刺繍する少女』
小川洋子著

「僕」は、母親の付き添いで、ホスピスに泊まっている。ある日、ボランティア室で、刺繍する女性を見つける。そして、彼女は12歳の時に、別荘で知り合った喘息持ちの少女であることを思い出す。
生と死について取り上げた内容なのだけど、不思議な感覚にさせられる。

キーワードを挙げてみる。

①刺繍
1. 自己表現の手段の一つ。

2.  刺繍は手作業で行われるため、非常に多く

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『前進、もしくは前進のように思われるもの』(『号泣する準備はできていた』より)

『前進、もしくは前進のように思われるもの』(『号泣する準備はできていた』より)

『前進、もしくは前進のように思われるもの』(『号泣する準備はできていた』より)
江國香織著

主人公(長坂弥生)は、空港にアマンダを迎えに行く途中、夫との冷えた関係や、認知症の母親(夫の)の老齢の猫を夫が「海に捨てた」と言ったことを思い出す。かつては自信に満ちた弥生だったが、夫への不信感が募り始めている。アマンダと合流すると、彼女はボーイフレンドのジェレミーと共にホテルに泊まると告げる。そこで弥生

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【読書ノート】『床下の日常』(『人生ベストテン』より)

【読書ノート】『床下の日常』(『人生ベストテン』より)

『床下の日常』(『人生ベストテン』より)
角田光代著

主人公(「僕」)は、クロス屋の見習い。彼女は、役者志望のフリーター。2人は半同棲の状況。というのも、お互いアパートに泊まり合いながら旅行者のごとく生活している。生活はすれ違っているのだけど、何だか幸せに生きている。

507号室からの漏水で、407号室の住人が被害を受けたらしく、「僕」は、407号室て作業を行なっていた。

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【読書ノート】『カルチャーショック』(『信仰』より)

【読書ノート】『カルチャーショック』(『信仰』より)

『カルチャーショック』(『信仰』より)
村田沙耶香著

「均一」という街を愛する少年「僕」が、「カルチャーショック」という街に連れて行かれる物語。

「均一」という街は、ひたすら真っ白な巨大な空間。そこの住人は、ある年齢になると、均一な顔になる手術を受ける。「僕」の父親は、そんな「均一」の街が嫌いで、定期的に「僕」を連れて、「カルチャーショック」の街に行く。

「カルチャーショック」という街は、色

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【読書ノート】『ボボーク』(『可笑しな人間の夢』より)

【読書ノート】『ボボーク』(『可笑しな人間の夢』より)

『ボボーク』(『可笑しな人間の夢』より)
ドストエフスキー著

ドストエフスキーの短編小説。
狂人扱いされている作家が、ある日、親戚の葬式に出席する。
併設されているお墓で横になっていると、埋葬されている人々の会話が聞こえてくる。

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ボボーク(豆)
1. 生命の循環や成長の象徴とされる。この観点から、豆は潜在能力や可能性を表し、個人の自己成長や変化の過程を象徴する。

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【読書ノート】『茜空のリング』(『ギフト』より)

【読書ノート】『茜空のリング』(『ギフト』より)

『茜空のリング』(『ギフト』より)
原田マハ著

「私」には、長年付き合っている彼氏がいる。なかなか、彼は、プロポーズをしてくれない。そんな時、彼の親友の間宮君から結婚式の招待を受けた。

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①茜空
1. 昼から夜への移行を示す。変化や過渡期の象徴を象徴する。この変化は人生のサイクルや、個人の成長、成熟を示唆する。

2. 夕焼けの美しさは一瞬のものであり、その儚さは人生

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【読書ノート】『愛の適量』(『スモールワールズ』より)

【読書ノート】『愛の適量』(『スモールワールズ』より)

『愛の適量』(『スモールワールズ』より)
一穂ミチ著

主人公はバツイチの高校教師(慎悟)。元々情熱的な教師だった慎悟。文字通り、全てを捧げて、生徒たちに愛情を注いでいたのだった。ところが、ある事件をきっかけに、自分が注いでいた愛情は、むしろ、生徒にとってはありがた迷惑なものでしかなかったということが、わかり、離婚もして、幼い娘とも離れ離れに暮らしていた。

時が過ぎて、娘(佳澄)が、息子のような

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