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アクセスの少ない記事

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全体ビュー(全期間)でアクセスの少ない記事を集めました。アカウントを開設した初期の記事が多いのですが、意外と面白いかもしれませんよ。下へ行くほどアクセスが少なくなっています。
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#文章

「読む」と「書く」のアンバランス(薄っぺらいもの・07)

「読む」と「書く」のアンバランス(薄っぺらいもの・07)


◆第一話
 文章を書くのは料理を作るのに似ています。天才と呼ばれる人は別なのでしょうが、私なんかはずいぶん苦心して文章を書いています。

 勢いに任せて殴り書きする癖があるにしても、文章を書くのには手間と時間がかかるのです。

 料理も手間隙かけてせっかく作ったのに、ぺろりと平らげられる場合があります。あっけないですが、作ったほうとしてはうれしいものです。

 書くのに時間と労力を要するのに、さ

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有名は有数、無名は無数

有名は有数、無名は無数

「これはね、森鴎外作『寒山拾得』から引用したもので、三島由紀夫の『文章読本』で激賞されている文なんだ」

「そうかそうか、さすがに名文だね。短いけど、すごい。なんというか、こう、気品が漂ってくるのよね」、「やっぱりね。違いますよ。短いけど、そんじょそこらの文章とはぜんぜん違う。なんというか、こう、文体が違います」、「分かります。そんな気がしたんだよな。言葉に独特のたたずまいがあるでしょ? なんとい

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でありながら、ではなくなってしまう(好きな文章・01)

でありながら、ではなくなってしまう(好きな文章・01)

「好きな文章」という連載を始めます。たぶん、同じ書き手の同じような文章ばかりをあつかいそうな予感があります。それでもかまわないので、好きな文章を引用して好きなことを書くつもりです。

 今回のタイトルは「でありながら、ではなくなってしまう」ですが、これまでに投稿した「【レトリック詞】であって、でない」や「であって、ではない(反復とずれ・03)」と似ています。「宙吊りにする、着地させない」とも似てい

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音読・黙読・速読(その3)

音読・黙読・速読(その3)

 シリーズ「音読・黙読・速読」の最終回です。

・「音読・黙読・速読(その1)」
・「音読・黙読・速読(その2)」

◆センテンスが長くて読みにくくて音読しにくいけど素晴らしい文章
 まず、前回に取りあげた文章を再び引用します。なお、あえてお読みになるには及びません。ざっと目をとおすだけでかまいません。

(Ⅰ)

(Ⅱ)

*節のある竹のような文章

 上で見た、井上究一郎訳によるマルセル・プル

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錯覚を生きる(錯覚について・02)

錯覚を生きる(錯覚について・02)

 シリーズ「錯覚について」の二回目です。

 今回は私の大好きな作家吉田修一の小説を紹介します。

     *

 冒頭の二ページ目の後半から続く三段落なのですが、吉田修一は文章も語り口もストーリー展開もうまくて、ぐいぐい引き込まれます。吉田修一の作品については、これまでに何度か記事で触れてきました。

 上は初めて載せるリンクなのですが、うまく反映されているでしょうか? 吉田修一の出てくる私の

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言葉は魔法(言葉は魔法・01)

言葉は魔法(言葉は魔法・01)

 言葉は魔法。
 言葉は魔法です。
 言葉は魔法でございます。
 言葉は魔法だ。
 言葉は魔法である。

     *

 こうやって並べると、それぞれずいぶん印象が違うなあと思います。

 私は「です・ます体」で書くときと「だ・である体」で書くときには違った自分を感じます。違った自分がいると言ってもかまいません。軽度の憑依(軽度を付けてもおおげさな言葉ですね)を覚えます。

 ようするに、人格が

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言葉は嗜好品(言葉は魔法・03)

言葉は嗜好品(言葉は魔法・03)

  言葉と文字は人にとって最強の嗜好品かもしれません。なにしろ、さまざまな嗜好品をつかって言葉と文字を呼びだそうとするのですから。

書くときに必要な物
 書くときのルーティーンみたいなものが、誰にもある気がします。

 まず、これがないと文章を書く気になれないという物、つまり書くときの必需品ついての話から始めましょう。

 文房具にこだわる人は多いですね。愛用している筆記具はいとおしいもので、他

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『コインロッカー・ベイビーズ』その1(好きな文章・02)

『コインロッカー・ベイビーズ』その1(好きな文章・02)

「好きな文章」というシリーズの第二回目です。私が一時期に心酔し、小説の手本にしていたことのある村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』を取りあげます。長い作品ですが、そのうちで私が参考にした部分を引用して、そのどこが好きなのかを具体的にお話しします。

読点、鉤括弧、リズム これで一段落なのですが、区切って、感想を述べます。

     *

・「ニヴァが中に進むと四人の美容師達が仕事を中断して挨拶

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音読・黙読・速読(その2)

音読・黙読・速読(その2)

「音読・黙読・速読(その1)」の続きです。

 今回は長いセンテンスと込み入った作りのセンテンスを読んでみます。音読や速読に適しているとは言い難い文です。かといって黙読し易いわけでもなさそうです。

◆読みやすい文章、読みにくい文章*井上究一郎訳のマルセル・プルーストの文章

 次の文を読んでみてください。長めなので、読む前に気合いを入れてくださいね。

(Ⅰ)

 めちゃくちゃ長いですね。『花咲

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言葉は約物(言葉は魔法・02)

言葉は約物(言葉は魔法・02)

 言葉は魔法。

「言葉は魔法。」
「言葉は魔法」
『言葉は魔法』
『言葉は魔法。』
『言葉は魔法……。』
「『言葉は魔法』という魔法」
(言葉は魔法)
(言葉は魔法。)
《言葉は魔法》
【言葉は魔法】
 “言葉は魔法”
<言葉は魔法>

     *

 こうやって並べると、それぞれずいぶん印象が違うなあと思います。あくまでも個人の感想ですけど。それぞれの違いについて考えると、いろいろな状況が頭

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宙吊りにする、着地させない

宙吊りにする、着地させない

 この記事では、蓮實重彦による二つの断片的な文章を読んでみます。

第一部:宙吊りにする◆「と」、傍点

 まず、一文だけ紹介します。

「理論と実践」、「真実と虚偽」、「問題と解決」

 以上の文字列が挙げられたあとに、次の一センテンスを含む段落が、『批評 あるいは仮死の祭典』にあります。

 数でいうと、センテンスが1、文字が211、「、」が8、「。」が1です。テーマは、並置の接続詞「と」と言

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とりとめのなさと付きあう

とりとめのなさと付きあう


写しに現れる
 写真を撮ったときに、写そうとした以外のものが写っている場合があります。写真は世界を切り取るなんてよく言われますが、写真では写そうとしたものが必ずしも写るものではないようです。

 写しに写ってしまうものがある。写しに期せずして現れるものがある。

 映画もそうであるにちがいありません。コマという言葉から、フィルムに写す映画は写真の集まりみたいなものだったのではないか、と無知な素人

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