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本のこと・読書の記録

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ニューヨークタイムズが選ぶ21世紀のベスト100冊(Part 2)

ニューヨークタイムズが選ぶ21世紀のベスト100冊(Part 2)

ニューヨークタイムズが文学界の著名人503人に対して行った21世紀のベスト100冊というアンケート調査の結果から自分が読んだことある16冊を拾って並べてみた。今回はそのPart 2。

50位 Hernan DiazのTrust
この本はAmazonが私の購入履歴をもとに薦めてくれた本だ。Amazonのロボットが選ぶものにははたまにとんでもないハズレがあるがこれは大当たりだった。本好きなくせに読ん

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読書の記録:『晩夏』 井上靖著 中公文庫

読書の記録:『晩夏』 井上靖著 中公文庫

毎年この時期になると読み返さずにいられない本がある。それが井上靖の『晩夏』だ。

この本に出会ったきっかけは、NHKラジオで日曜深夜に放送されている「ラジオ文芸館」だった。一時期、夜になってもなかなか眠れない時期があり、「どうせ眠れないなら……」と思い、ほぼ毎夜、枕元に置いたラジオのボリュームをしぼって流していた。そんな折に、短編小説の朗読が聴けるこの番組を知り、毎週日曜深夜の放送を楽しみに待つよ

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なんとなく使っていませんか? 括弧の種類と使い分け

なんとなく使っていませんか? 括弧の種類と使い分け

突然ですが、質問です!
以下の文章で、登場人物が実際に声に出して言っている部分と、心の中で思い浮かべている部分はどこでしょうか。

答えは簡単ですね。
「 」の中の言葉が声に出して言っている部分、( )の中の言葉が心の中で思い浮かべている部分です。
前後の文章からも読み取れると思いますが、括弧の使い分けがされていることで、より分かりやすくなっています。

このように括弧類は主に文章内で会話・引用・

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【本】紙の本はいつか終わってしまうのか?

【本】紙の本はいつか終わってしまうのか?

紙の本。
値段も高くなってきました。

初版での売上予想が少ないから、
発売段階の値段設定は
割高にせざるを得ないのでしょう。

というのは、
出版社や取次(問屋)の言い分かな…。

政治家が政治家削減を
なかなかしようとしないように、
出版社も、初期設定での利益、
つまり取り分を固く守ってる。
実はそれが一番悪い(汗)
それなのに、
紙質を下げたり、
著者の印税を数%下げたり、
苦肉の策に必死で

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読書の記録:『くもをさがす』読了

読書の記録:『くもをさがす』読了

読了 『くもをさがす』 西加奈子著 河出書房新社刊
1540円(税込み)

作家の西加奈子氏が居住先のカナダはバンクーバーで乳がんを患い、慣れない異国の医療事情やコロナ禍と闘った日々を綴ったノンフィクション。

こう書くと、ひたすら辛い内容だと思われそうだけど、けしてそうではない。彼女がバンクーバーで出会った、優しく頼もしい友人たちの心強い支援や、患者の名前をまちがえたりとやや雑ではあるけれど温か

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『名作ミステリで学ぶ英文読解』刊行

『名作ミステリで学ぶ英文読解』刊行

『名作ミステリで学ぶ英文読解』が刊行されました。早川書房がハヤカワ新書を創刊するにあたって、最初のラインナップ5作のひとつとして(しかも、その001番として)選んでもらえたことをうれしく思います。
 この本は、海外ミステリの名作を題材として、6つの作品から6か所ずつの英文を選び、訳文や注釈とともに5問前後の設問と解説をつけたものです。
 題材としたのは以下の6作品です。

『Yの悲劇』
『エジプト

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読書の記録:『終りなき夜に生れつく』アガサ・クリスティー 

読書の記録:『終りなき夜に生れつく』アガサ・クリスティー 

 車の運転手や修理工、ホテルのウェイター、セールスマンなど転々と職を変えて気ままに生きている主人公マイクは、”呪われた土地”といわれのある「ジプシーが丘」と呼ばれる地所を気に入り、同時にエリーという大富豪の女性に出会い、恋におちる。エリーもジプシーが丘をいたく気に入ったため、二人はこの地を購入して結婚、マイクの友人である天才建築家に依頼して、夢の家を建てて暮らし始める。ところが……。

 最初から

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締め切りに遅れそうなあなたへ 〜ひとりで悩まないで〜

締め切りに遅れそうなあなたへ 〜ひとりで悩まないで〜

この記事を読んでいるあなたは、ライターや作家、研究者など、書くお仕事をされている方でしょうか。それとも読者で、そういう世界に関心がある方でしょうか。デザイナーやイラストレーターなど、締め切りに関連する職業の方もいらっしゃるかもしれません。締め切りを守れなかった経験がある方もいるかもしれませんし、いま実際に締め切りに追われている方もいるかもしれませんし、あるいは、現に締め切りに遅れてしまって、気配を

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翻訳書ができるまで② 翻訳出版の契約と編集、そして読者のもとに届くまで

翻訳書ができるまで② 翻訳出版の契約と編集、そして読者のもとに届くまで

さて、前回にひきつづき、翻訳書ができるまでにどういう仕事を出版社の編集者が行っているのかを、ご紹介します。翻訳書以外の本(主に人文書)ができるまでは、先日ご紹介しました。

また、前提知識として「版権エージェント」「出版エージェント」という仕事があることを、前回ご紹介したので、未読の方はまずこちらをお読み下さい。

翻訳書ができるまでのおおまかな流れは、翻訳以外の本と大きく変わるわけではありません

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ハイフン-ダッシュ–水平線——など、紛らわしい横棒の使い分け方

ハイフン-ダッシュ–水平線——など、紛らわしい横棒の使い分け方

欧文、和文ともに、横棒のたぐいは無数にある。ハイフンとダッシュとマイナスと水平線と罫線と、それに漢数字の一と……。さらに半角(欧文)と全角(和文)の別があり、とても紛らわしい。どのように使い分けするのかを、簡単にまとめておきたい。厳密な使い分けは、小学館辞典編集部編『句読点、記号・符号活用辞典。』や、Chicago Manual of Style等のスタイルガイド、もしくは各語の文法書を参照された

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いとしい古本

いとしい古本

あるエッセイの原書リーディングを依頼され、この2週間ほどかかりきりになっていた。リーディングとは、"reading"だ。ただし単に原書を読むだけでなく、著者の紹介、梗概(あらすじ)、感想、類書の紹介と比較、原書の文体の分析、訳す上での留意点、日本での受け入れについての予測など、その原書をあらゆる方面から分析してA4数枚にまとめる仕事である。正直に言うと、訳すよりも難しく、ときとしてつらい仕事になる

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