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ハイフン-ダッシュ–水平線——など、紛らわしい横棒の使い分け方

欧文、和文ともに、横棒のたぐいは無数にある。ハイフンとダッシュとマイナスと水平線と罫線と、それに漢数字の一と……。さらに半角(欧文)と全角(和文)の別があり、とても紛らわしい。どのように使い分けするのかを、簡単にまとめておきたい。厳密な使い分けは、小学館辞典編集部編『句読点、記号・符号活用辞典。』や、Chicago Manual of Style等のスタイルガイド、もしくは各語の文法書を参照されたい。

以下、「U+」に続く4桁の16進数の数字はunicodeを示し、その後に続くのはunicode称号です。
(今回は、全角(1倍)=和文、半角(2分)=欧文のそれぞれ一文字分とお考えください。細かい使い分けはしていません)

*注意:投稿論文等の執筆にあたっては、各学会等のスタイルガイド(規定)をご確認ください。

それからmacでの記号類の入力方法については、以下の記事もお読み下さい。


- ハイフンマイナス(半角ハイフン) U+002D Hyphen-Minus

いわゆる(欧文・半角の)ハイフン。欧文英字入力でキーボードの [-] を押下すると出てくるのがこのハイフンマイナス(hyphen-minus)。ハイフンなのかマイナスなのか分かりづらい名前だが、その両方で使われる。

ただしunicodeではほかにもハイフンとマイナスがいくつかある。代表的なものはU+2010 (Hyphen)とU+2212 (Minus Sign)(いずれも後述)。列挙することは趣旨と外れるので、ここではしないが、こちらを参照されたい。

なお、ダブルハイフン[゠]と区別してふつうのハイフンを「シングルハイフン」と呼ぶこともある。

ハイフンが使われる場面は言語によって異なるが、いずれにおいても後述のダッシュと混同されがちなので、注意されたい。英文法では、次項のenダッシュとの使い分けが詳細に決まっているので、以下に簡単に解説しておきたいが、詳細はこちらこちらを参考に。また校正上のハイフンマイナス、enダッシュ、emダッシュ、カンマの使い分けについては、メアリ・ノリス『カンマの女王』が詳しく、また読みものとしても面白い。

入力方法

Mac、windowsともにキーボードの[-]

①語と語をつなぐ場合(の一部)

たとえばaward-winning authorのような2語以上からなる修飾語句や、self-educatedやanti-capitalismのように接頭辞を入れる場合、sister-in-lawのような前置詞を含む複合語にはハイフンを使う。

②数字をスペルアウトする

twenty-threeのように数字をスペルアウト(つまり「23」ではなくてアルファベットで表記する)ときにもハイフンを使う。

③欧文の負符号・減算記号

-10°Cのように負の数字を表すとき。これはハイフンではなくマイナスとしての意味なので、後述のマイナスを使っても良い。

④複合名

Jean-Luc GodardとかClaude Lévi-Straussのような複合名・結合姓の場合、ハイフンでつなぐ。

※注意※ ジャン゠リュック・ゴダールやクロード・レヴィ゠ストロースのようにカタカナ表記する場合は、全角ダブルハイフン゠等号[=]ではない)を用いるのが基本。普通に変換しても出てこないので、単語登録しておきましょう。

また、住所や電話番号、型番やコード番号などもハイフンでつなぐ場合が多い。これはダッシュとどちらが正しいかはよく分からない。
なお、和文におけるハイフンは全角ハイフンの項で説明する

【補足】最近では特にweb媒体などで、enダッシュの代わりにハイフンが使われることがある。これは必ずしも誤用とは言えない。ジャーナリズムにおいて用いられるAP Style Guideでは、本来enダッシュを使うところもすべてハイフンを使うように定めている。

– enダッシュ(2分ダーシ) U+2013 En Dash

「N」の幅をもつダッシュ。ハイフンマイナスとよく混同されるし、次のemダッシュとも混同される。見た目上のハイフンマイナスとの違いは、①少し高い位置にあることが多いことと、②書体によってはハイフンマイナスが右肩上がりなのだが、ダッシュは真っ直ぐ。出版では伝統的にダッシュを「ダーシ」と言っていてややこしい。今はいわゆる2分(半角)ダーシというとこのenダッシュを指す。英語における使い分け方は以下の通り。(詳しく日本語で読める記事がこちらにある)

入力方法

Mac:[Option] + [-] 
Windows:[Alt]を押しながら0150を入力し[Enter]
また、windows上のwordでは[Ctrl] +テンキーの [-]で出せる。

①数値の範囲を示す

たとえば10から20キロメートルを示すときに10–20と書くし、生没年を示す際には1876–1948のように示す。ハイフンでつなぐ用法が散見されるが、正式にはハイフンマイナスではなくenダッシュでつなぐのが正しい。数値に限らず時間・空間などの範囲を示す場合もenダッシュ。

※重要※ 論文等の出典表記において頁番号を記載するとき、「pp.10–15」のように書きますが、この時に使うのはハイフンではなくダッシュです! (※スタイルガイドにもよる)
しかし正確にダッシュで書かれた原稿を、わたしは滅多にお目に掛かりません。(原稿整理の際に編集者が直しています。wordの置換機能で一括で直すので、そんなに手間ではないですが……。)

②ふたつの語をつなぐ場合(の一部)

ハイフンマイナスと同様に語と語を繋ぐ場合にも使われるが、enダッシュが使われるのは、おもに以下の場合。

  1. 対立するふたつのもの Yankees–Red Sox rivalry

  2. 対等なふたつのもの US–Japan partnership

  3. 範囲を示す(from A to B / between A and B) NY–Boston connection

  4. 2語以上からなる語と語をつなぐ post–World War II period

※基本的に、ふたつの人名や地名をつなぐ場合はダッシュを使う。たとえばワトソンとクリックのモデルはWatson‒Crick Modelと書く。これをWatson-Crickとしてしまうと、「ワトソン゠クリックさん」という(Lévi-Straussみたいな)ひとりの人のモデルになってしまうので注意。

地名の場合も同様。たとえばルーマニアにCluj-Napoca(クルジュ゠ナポカ)という都市がある。「ブカレストとクルジュ゠ナポカ」を示したい場合は「Bucharest‒Cluj-Napoca」としないといけない。これを「Bucharest-Cluj-Napoca」としてしまうと、「ブカレスト゠クルジュ゠ナポカ」というひとつの地名になってしまう。

③emダッシュの代用

主にイギリス英語において、emダッシュのかわりにenダッシュを使うことがある。この場合は前後をベタで(つまりスペースを入れないで)emダッシュを使うかわりに、前後にスペースを入れてenダッシュを使う。つまりこういうこと。

  • Jeff Bezos—who is the founder, chairman, CEO, and president of Amazon—is one of the richest people in the world.

  • Jeff Bezos – who is the founder, chairman, CEO, and president of Amazon – is one of the richest people in the world.

— emダッシュ U+2014 Em Dash

「M」の幅をもつダッシュで、和文の全角ダッシュ。日本語入力の場合、「だっしゅ」と入力したり音引を変換したりして出てくるダッシュはこのemダッシュ。

入力方法

Mac:[option]+[shift]+[-]
Windows:[Alt]を押しながら0151を入力し[Enter]
他に、和文入力で[-]を変換する、「ダッシュ」で変換、などがある。

使い方

英文では、挿入節の前後の区切り、文と文を軽くつなぐ(セミコロンの代替)や例示(コロンの代替)として使われる。また、余韻や間を表すためにも使われる。
引用の後ろに出典や誰の言葉なのかを示すために使われる場合もある(quotation dash)。

"A day without laughter is a day wasted."

—Charlie Chaplin.

日本語の場合もemダッシュに相当する使い方として——たとえばこんなふうに——挿入する句がある場合に使われたり、言い換えに使われたりする——つまりこういうことだ。書籍や論文の副題を示す場合もこれが使われる。いずれの場合も、2文字続けて使うのがルール(副題で前後にダッシュがつく場合は1倍でも使われる)。ほかにも2倍ダッシュは心の声を示す場合や、quotation dashとしても使われる。

また和文の1倍ダーシとしては、五—六頁とか十九—二〇世紀、あるいは明治—江戸時代のように範囲を示す場合に用いられる。これは英文のenダッシュに相当する機能をもつ(後述するが、ハイフンとの使い分けに注意)。

Garamond Premier Pro のハイフンマイナスとダッシュ

‒ フィギュアダッシュ U+2012 Figure Dash

めったに使われることはないと思うのでとりあえず忘れて良い。プロポーショナルフォントで数字と同じ幅を持つダッシュ。電話番号をリストにするときなど、字幅を揃えたいときに使う。

— 水平線 U+2015 Horizontal Bar

emダッシュは日本語の全角ダッシュとして使われる、と前節で書いた——しかしながら書籍の場合、特に縦組みの場合、このemダッシュは文字の中央に表示されないのでU+2015の水平線(horizontal bar)(もしくはU+2500の横罫線素片)が使われているはず(下図)。この点を立ち入ると難しい問題になるのだけど、組版のことは詳しくないので、専門の方にお任せしたい。なんでやねんDTPなどを参考にしていたければ。


筑紫明朝Lの水平線(左)と全角(EM)ダッシュ(右)

また、英文のquotation dashはem dashと区別してこのhorizontal barが使われる場合もある。水平(horizontal)という名前だが、縦組の場合は鉛直になる。

いずれにせよ普通に変換しても出てこないので単語登録しておく必要があるが、書体や環境によっては全角ダッシュ(U+2014)になってしまうし、Indesign上の2倍ダッシュの組み方は組版者によって異なるので、原稿段階ではとりあえず全角ダッシュを使っておけばあとは組版者にお任せすればよいので、お気にしなくて良いかもしれない。

⸺ 2-em dash U+2E3A

emダッシュの二倍の長さのダッシュ。
使うのは、①引用するとき欠落している文字や語句や判読不能な文字を示す場合と、②伏せ字として隠したい文字の部分に用いる。

——— 3-em dash U+2E3B

emダッシュの三倍の長さのダッシュ。
文献一覧のリストで、上と同じ著者を示す場合に使われる。

ー 音引 U+30FC Katakana-Hiragana Prolonged Sound Mark

エレベーターとかアーケードとかいうときの、俗にいう「伸ばし棒」のこと。実は平仮名も片仮名も同じものが使われている。長音符というと音引に限らず長い母音を示す符号を指すので、「Â」とか「Ā」とかの長音符号も含んでしまう。

使い方は、長音を示す場合に使う。その他の用途には使わないこと。たまにこれをダッシュのかわりに使っている場合(変換ミスかもしれないが)を見掛けるのですけど、やめてほしい。ゴシック体だと見分けがつかなかったりする。

‐(全角)ハイフン U+2010 Hypen

Unicodeでハイフンマイナスとは別に用意されたハイフン。欧文書体にも使われる字なので、ブラウザ上では半角で表示されているが、wordやindesign上の和文フォントでは全角ドリで表示される(と思う)。編集上はこれが全角ハイフンと呼ばれる(と思う)。日本語入力ソフトにもよるが、音引を変換するか、「はいふん」で変換すれば出てくると思う。

word上の全角ハイフン(游明朝体R)
Indesign上の全角ハイフン(筑紫明朝L)

使い方としては、英文のハイフンに相当する和文の約物として使われる。つまり語をつなぐ場合、たとえば反‐反相対主義とか、血液‐脳関門など。時折これを反—反相対主義のようにダッシュで書く例が散見されるが、ハイフンとダッシュは完全に別物であることに注意したい。つまり多くの場合、語と語を繋ぐためにダッシュを使用するのは、厳密に言えば正しくない。特に学術書・専門書の翻訳において原文がハイフンで繋がれていれば、訳文もハイフンで(もしくはダブルハイフンで)訳出すべきであり、原文がダッシュで繋がれていれば訳文もダッシュで繋ぐべきだ。

そのルールを適用するなら、語と語を繋ぐためにダッシュが使われるのは、ヤンキース—レッドソックス戦とかリベラル—コミュニタリアン論争、近世—近代のような(上でハイフンとダッシュの違いを解説した通り)限られた場合のみと言える。ただし範囲を示すために数値をつなぐのはダッシュであるから、ハイフンは使わないように。

-全角ハイフンマイナス U+FF0D Fullwidth Hyphen-Minus

ハイフンマイナスの全角版。unicodeがFFではじまる、全角半角のブロックはハコ組の言語のために作られているのだと思う。横書きではハイフンとしてもマイナスとしても使われるが、縦組みにした場合に90°回転されないので、ハイフンとして使うのは避けるほうがいい。

− (全角)マイナス U+ 2212 Minus Sign

ハイフンマイナスとは別に、数学記号として用意された負符号・減算記号。

ソフトハイフン U+00AD Soft Hyphen

通常は表示されないが、行の末尾に来た場合に表示されるハイフン。折り返しのハイフネーションの位置を示すために使われる。

U+2011 Non-Breaking Hyphen

折り返しをしないハイフン

さいごに

ほかにもかつては二重ダッシュや二分二重ダッシュが使われていた(今も作字して使われているのかな?)が、現在一般に使われているのは概ね上に挙げたものでカバーされると思う。英文のハイフンとダッシュの使い分けができれば、和文はその応用としてenダッシュは1倍、emダッシュは2倍に置き換えればだいたい間違うことはないと思う。

また、書体や環境によってはU+2015(水平線)、U+2212(マイナス)は入っていなくて、それぞれemダッシュやハイフンマイナスになってしまうことが多いと思うし、全角ハイフンを欧文書体にするとハイフンマイナスになってしまう。とりあえず原稿整理〜入稿の段階ではハイフンとenダッシュ、emダッシュ、全角ハイフンの区別さえできていれば大きな問題はないのではないかと思うんだけど、間違っていたら教えてください。

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