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書評

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#読書

【読書記録】『狭き門』

【読書記録】『狭き門』

『狭き門』
A.ジッド著

ジッドの自伝的な小説。
主人公・「僕」(ジェローム)と姉妹(姉・アリサ、妹・ジュリエット)の三角関係の恋愛物語なのだけど、けっこう深い。登場人物はいずれも、敬虔なクリスチャン。日々祈り、礼拝も欠かせないクリスチャンたちの物語なのだけどね。
ジェロームも敬虔なクリスチャンで、美しく、品のあるアリサに恋する。アリサは、自分が、汚れている者なのだという思いがあって、ジェローム

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【読書記録】『秘密』

【読書記録】『秘密』

『秘密』
谷崎潤一郎著

主人公・「私」は、日常生活に飽きて、近くのお寺の離れに住み着く。そして、女装して、遊女のような装いで、街を闊歩し、周りから受ける熱い眼差しに満足する。
そんなある日、自分よりも遥かに妖艶な女性に遭遇する。そして、その彼女は過去自分が振った女性だったことを思い出すと、彼女も、「私」のことを覚えていて、密会の約束をする。

文章が、非常に美しいのですが、内容はかなり、変態的で

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【読書記録】『結局、人生の最後に欲しいもの』

【読書記録】『結局、人生の最後に欲しいもの』

『結局、人生の最後に欲しいもの』
曽野綾子著

カトリックの曽野綾子さんのエッセイ。

素直なひとなのだろうなあと思わされた。過去、いろいろ問題発言が、多かったのは、それゆえなのだろう。本書の中でも、こんな過激な発言を〜と思うことが何箇所かあったけど、共感できる面もあった。

基本的な主題は、人には必ず何か使命が与えられている。その使命に気づいて、その使命を全うすることが人生なのだということなのだ

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【読書記録】『観光旅行』(『人生ベストテン』より)

【読書記録】『観光旅行』(『人生ベストテン』より)

『観光旅行』(『人生ベストテン』より)
角田光代著

主人公・私は、イタリア・シチリアに一人旅に出ていた。カターニャからタオルミーナ、イソラベッラ付近を散策していた。そこで、老婦人と30代くらいの女性の日本人親子に遭遇する。二人は何かというと「私」の前で口論を展開する。

「私」は、ハシヅメ君 と6年同棲を続けている。6年と言っても、4年目くらいからお互い愛は冷めていて、今日まで、惰性で、日々を過

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【読書記録】『1992年の秋空』

【読書記録】『1992年の秋空』

『1992年の秋空』(『家族シアター』より)
辻村深月著

1992年9月、日本人宇宙飛行士・毛利衛さんが、エンデバー号に乗って宇宙に飛び立った。まさにそんな時代の小学6年生・はるかと5年生・うみかの姉妹の物語。

はるかは、学研の『学習』を定期購読していて、うみかは、『科学』を読んでいる。二人は外見も似てないし、趣味も全く異なる。

うみかの夢は宇宙飛行士といういわゆる理系女子。はるかは、恋愛物

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『本を守ろうとする猫の話』

『本を守ろうとする猫の話』

『本を守ろうとする猫の話』
夏川草介著

幼い時に両親を亡くし、古本屋を営む祖父と二人暮らしをしている夏木林太郎。

ある日、その祖父が亡くなった。
そこへ、言葉を話す猫が現れて、本を解放する冒険が始まる。

読書オタク向けのファンタシーアドベンチャーというスタンスで物語は展開する。

いわゆる古典に分類されるような世界文学をじっくり読むことの重要性が説かれていて、なかなか頭の痛い所だ。

いま流

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【読書記録】『プロポーズの心得』(『ツナグ 思い人の心得』より)

【読書記録】『プロポーズの心得』(『ツナグ 思い人の心得』より)

『プロポーズの心得』(『ツナグ 思い人の心得』より)
辻村深月著

ベストセラー『ツナグ』の続編。

俳優・紙谷ゆずるは、使者(ツナグ)を訪ねる。想いを寄せている女性・美沙(前作に登場)に亡くなってしまっていた彼女の親友を会わせたいと思っていた。ところが、依頼者本人からでないと繋ぐことはできないとして断わられてしまう。

ゆずるは、ふと、幼少期に家をでていったまま、数年前に亡くなった父親に会ってみ

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【読書記録】『余命10年』

【読書記録】『余命10年』

『余命10年』
小坂流加著

著者の実話をベースにした物語。

20歳で難病を患って、余命10年と宣告される茉莉。人生を完全に諦めてふわふわ生きていたところに、小学生の頃の同級生・和人と再会して、恋愛する。そして、改めて、死ぬということを肌で感じながら、今、生きているということを実感する。

あまりにも、現実的で、泣ける。

著者自身、かなり、物語に近い人生を送って、その幕を閉じているわけだから、

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【読書記録】『アドルフ』

【読書記録】『アドルフ』

『アドルフ』
ベンジャミン・コンスタン著

主人公・アドルフは、裕福な家庭で育ち、将来を嘱望される青年。アドルフは、世話になっているP伯爵の愛人・エレノールに恋してしまう。アドルフはエレノールに何度も愛を語り、ついにエレノールと結ばれる。

その後、アドルフのエレノールへの愛は冷めていく一方で、エレノールはアドルフを束縛していく。
アドルフは何度も別れを決意をするのだけど、エレノールのことを思うと

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【読書記録】『弟』(『すいかの匂い』より)

【読書記録】『弟』(『すいかの匂い』より)

『弟』(『すいかの匂い』より)
江國香織著

姉が弟の葬儀に参列する物語。物語は、姉が火葬場から家に戻り、喪服を脱いで過去を回想するシーンから始まる。そして、幼い頃に弟と一緒に行った「葬儀ごっこ」を思い出す。

この「葬儀ごっこ」は、祖母の葬儀中に時間を持て余した姉と弟が始めた遊び。遺族役と故人役を交代しながら行う。

キーワードを挙げてみる。

①蛾
1. 蛾は成虫になるまでの過程で、幼虫(毛虫

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【読書記録】『彼女は頭が悪いから』

【読書記録】『彼女は頭が悪いから』

『彼女は頭が悪いから』
姫野カオルコ著

東大の男子5人組が、ひとりの女子大生を全裸にして、平手で叩いたり、蹴ったり、肛門に割箸を刺してドライヤーで性器に熱風を浴びせたりした。でも、レイプはしていない。

判決後も、加害者は形式だけ反省したことにして、自分たちが(彼らの親も含めて)やったことに対して全く悪いと思っていないことが酷く現実的な話だと思わされた。

物語の主題は何か?

論点が沢山あって

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【読書記録】『白ゆき姫殺人事件』

【読書記録】『白ゆき姫殺人事件』

『白ゆき姫殺人事件』
湊かなえ著

美容会社で働く美人女性社員・三木典子が山林で惨殺され、灯油を撒かれて焼かれてしまう。物語は、週刊誌の記者・赤星雄治が関係者に取材し、事件の疑わしい人物として、地味な印象の同僚・城野美姫をSNSや週刊誌で発信する。

ひとの噂話、SNSやメディアによって事件は、どんどんおかしな方向に展開していく。

物語の主題は何か?
SNSやマスコミは、けっこう恣意的に主張を展

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【読書記録】『世界から猫が消えたなら』

【読書記録】『世界から猫が消えたなら』

『世界から猫が消えたなら』
川村元気著

30歳の郵便配達員である主人公(僕)が、末期癌の告知を受けた後に現れる悪魔との取引を通じて、生命や愛の本質を探求する物語。この作品は、死というテーマを扱いながらも、独自の視点で生きる意味や人間関係の大切さを考えさせられる。

キーワードを挙げてみる。

①電話
1. 人間同士の物理的距離を超えてつながる手段。電話を通じて、ひとは他者の存在を確認し、その声を

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【読書記録】『嘘をもうひとつだけ』

【読書記録】『嘘をもうひとつだけ』

『嘘をもうひとつだけ』
東野圭吾著

バレエ団の事務局長をやっている美千代は、公演直前の舞台裏で忙しく動き回っていた。そんなところに刑事の加賀が現れた。

美千代と同じマンションに住む元バレエ団員の早川浩子がマンションのバルコニーから転落したのだという。

読み進めると、同情したくなるような犯行動機で、被害者は、恨まれるようなことをやっているわけだからね。加害者の方が、被害者みたいな状況で、自分の

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