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2023年10月の記事一覧

【読書ノート】『世界でいちばん透きとおった物語』

【読書ノート】『世界でいちばん透きとおった物語』

『世界でいちばん透きとおった物語』
杉井光著

かなり話題になっている本で、ネタバレ厳禁で、事前情報は、あまりないまま、読んでみた。

一言でいうと、著名なミステリ作家、宮内彰吾が61歳で癌で亡くなり、彼の息子から連絡を受けた主人公(「僕」:藤坂燈真)は、宮内の愛人の子供なのだけど、遺稿「世界でいちばん透きとおった物語」を探すことになる。業界関係者や父親(宮内)の愛人たちから父親の人物像を理解し、

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【読書ノート】『ファミリー・アフエア』

【読書ノート】『ファミリー・アフエア』

『ファミリー・アフエア』(『パン屋再襲撃』より)
村上春樹著

五年前から主人公(「僕」)と妹が二人暮らしをしていた。ちょうど、「僕」は、就職し妹は、大学に進学したときだった。兄妹は、非常に仲が良かったのだけど、妹が彼氏・渡辺昇との婚約を明かしたときから、「僕」は彼の存在を素直に受け入れることができなくなって、妹との関係が拗れていくという話。

印象的な言葉をいくつか挙げてみる。

①「スパゲッテ

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【読書ノート】『姥捨』

【読書ノート】『姥捨』

『姥捨』
太宰治著

妻・かず枝は、浮気をしてしまったのだけど、そもそも、原因は、夫・嘉七の荒廃した生活。責任をとって、かず枝は、自死することを伝えると、嘉七も、心中することを提案する。最後に質屋で金を借り、映画を見たり、お寿司を食べたりして、楽しんで、死ぬ場所として水上を選ぶ。列車でウイスキーを飲みながら、嘉七は自殺の無意味さを考え、かず枝に説く。二人は昔訪れた温泉宿へ行き、山中で心中を計る。と

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【読書ノート】『余興』

【読書ノート】『余興』

『余興』
森鴎外著

一言で言うと、同郷人の懇親会に出席したときの話。余興というものを大先輩の陸軍少将閣下が、主催して、若者のためにと言って、赤穂義士討入の物語を著名な浪花節の演者が、行うというものなのだけと、それが、主人公にとって、なかなか、聞いていられないほどに面白くない。よほど、席をはずしたかったのだけど、我慢して聴き終えたという物語。
文字通り読むと、そんなものだよなという話なのだけどね。

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【読書ノート】『あひる』

【読書ノート】『あひる』

『あひる』
今村夏子著

「のりたま」という"あひる"が「わたし」の家に来た。すると、「のりたま」を求めて、近所の子どもたちが訪れるようになった。その後、「のりたま」は体調を崩して、病院で、治療を受けることになって、2週間後戻ってきた「のりたま」は、どこか雰囲気が変わっていた。その後も何度か、「のりたま」は、入退院を繰り返して、その度、雰囲気が、かわっていたのだけど、やがて、死んでしまった。と言う

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【読書ノート】『乳と卵』

【読書ノート】『乳と卵』

『乳と卵』
川上未映子著

東京に住む、夏子(「わたし」)のもとを訪ねてくる巻子(「わたし」の姉)と緑子(「わたし」の姪)の親子。巻子は、10年前に離婚して、シングルマザー。東京にきて、豊乳手術を受けることを検討している。緑子は、何故か、筆談しかしない。

なかなか、色々な、テーマを内在していて、どう読んだら良いのか迷うのだけどね。

キーワードを追ってみた。
まず、タイトルの『乳と卵』より、

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【読書ノート】『引き出しの奥』(『さがしもの』より)

【読書ノート】『引き出しの奥』(『さがしもの』より)

『引き出しの奥』(『さがしもの』より)
角田光代著

主人公(しの)は誰とでも寝る。そのため、「やりまん」だとか、「公衆便所」などの陰口を叩かれる。
(しの)は、男性に対して、特別な好意を持っているわけでもなく、ご飯をおごってくれたり家まで送ってくれることへのお礼として寝るというだけで、それ以上の意味はない。ある日、古本にまつわる都市伝説のような話を聞く。古本の裏表紙にたくさんの書き込みがしてある

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【読書ノート】『他人の足』(『死者の奢り・飼育』より)

【読書ノート】『他人の足』(『死者の奢り・飼育』より)

『他人の足』(『死者の奢り・飼育』より)
大江健三郎著

脊椎カリエスで未成年専用の療養施設に収容されている主人公「僕」は、外部から完全に遮断されていて、不思議な監禁状態にいるのだけど、脱走を企てたり、外部の情報を聞きこむようなことは、しない。「僕」らにはそもそも、外部がない。壁の中で、充実して、陽気に暮していた。

世間と完全隔離された世界では、少年たちは、基本的に、治る見込みはなく、排泄や下半

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【読書ノート】『ある夜の思い出』(『木になった亜沙』より)

【読書ノート】『ある夜の思い出』(『木になった亜沙』より)

『ある夜の思い出』(『木になった亜沙』より)

今村夏子著

主人公の「わたし」が、昔、引きこもりだった頃、ある男性にプロポーズされたということを思い出すという物語。

「わたし」は、学校をでてから、15年もの間、まるで出不精の猫のようにぐうたらに生活していた。暮らしていた。

ある日、「わたし」は、家から、飛び出した。「わたし」は、ネコになっていた。街で、「わたし」同様、ネコのような姿の男と出会

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【読書ノート】『美弥谷団地の逃亡者』(『鍵のない夢を見る』より)

【読書ノート】『美弥谷団地の逃亡者』(『鍵のない夢を見る』より)

『美弥谷団地の逃亡者』(『鍵のない夢を見る』より)
辻村深月著

DVの彼(柏木陽次)と主人公の女性(浅沼美衣)が、何の準備もせず、行き当たりばったりに九十九里界隈を旅しているという物語。

陽次とは、携帯のご近所サイトで出逢った。きっかけは、陽次が語る相田みつおの詩。

物語は、美衣の過去を行ったり来たりしながら、二人は何故、旅行の準備もせずに旅をしているのかというなぞに迫る。

①「うそはいわ

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『笑い男』

『笑い男』

『笑い男』
サリンジャー著

「私」が、ニューヨークのコマンチ団というサークル活動に入っていた時の物語。団長兼コーチのジョン・ゲダツキーの指導のもと、スポーツ、キャンプ、博物館めぐりなどで自由な時間を楽しく過ごしていた。団員同士の結束は強く、団長への信頼も篤い。団長は身長が低く、ずんぐりした体型で、黒い髪と大きな鼻など、明らかにアメリカインディアンの特徴を持っていました。

物語は、団長が語る『笑

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『デルフトの眺望』(『常設展示室』より)

『デルフトの眺望』(『常設展示室』より)

『デルフトの眺望』(『常設展示室』より)
原田マハ著

大手ギヤラーに勤める主人公なづきと弟ナナオの二人姉弟が、父親の最後に遭遇した時の物語。その時、なづきは、デン・ハーグで、フェルメールを見ていた。

物語の中に登場する絵画について、

①フェルメールの『デルフトの眺望』が意味すること。

1. 平穏と静寂:デルフトの眺望は美しい運河や風景が広がっており、穏やかで静寂な雰囲気を醸し出している。

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『石のまくらに』(『一人称単数』より』

『石のまくらに』(『一人称単数』より』

『石のまくらに』(『一人称単数』より』
村上春樹著

一言でいうと、大学生の「僕」がバイト先で知り合った女性(ちほ)と、彼女の送別会の日に結ばれる。ちほには、大好きな男性が、いるのだけど、その彼には恋人がいる。ときどき、その彼は、ちほの身体を求めてくると、ちほは、ホイそれと喜んで彼のもとに行くのだという。そんな、ちほは、短歌を詠む。そして、彼女の短歌集『石のまくらに』が「僕」に届く。という物語。

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『文化的な最低限度の生活』(『△が降る』より)

『文化的な最低限度の生活』(『△が降る』より)

『文化的な最低限度の生活』(『△が降る』より)
村崎羯諦著

健康診断の中で、「文化指数」という指標があって、一定の文化指数を備えていないといけないという世界の話。

訳のわからない、滑稽な物語なのだけどね。

「文化的な最低限度の生活」とは?
物質的な基本的な生活必需品(食べ物、衣服、住房など)だけでなく、教育、健康、文化活動へのアクセス、そして社会的な尊厳を保つための条件を含む生活を指す。

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