【読書ノート】『美弥谷団地の逃亡者』(『鍵のない夢を見る』より)
『美弥谷団地の逃亡者』(『鍵のない夢を見る』より)
辻村深月著
DVの彼(柏木陽次)と主人公の女性(浅沼美衣)が、何の準備もせず、行き当たりばったりに九十九里界隈を旅しているという物語。
陽次とは、携帯のご近所サイトで出逢った。きっかけは、陽次が語る相田みつおの詩。
物語は、美衣の過去を行ったり来たりしながら、二人は何故、旅行の準備もせずに旅をしているのかというなぞに迫る。
①「うそはいわない こころにきめて うそをいう」相田みつを
この言葉は、から、物語ははじまる。
自分の心に正直に生きることの大切さを表しています。この言葉の哲学的な意味は、人は自分の心の持ち方によって真実を認識したり否定したりするということ。つまり、真実とは客観的なものではなく、主観的なものだということ。この考え方は、西洋哲学ではニーチェやサルトルなどの存在主義者に通じるものがある。
②しあわせはいつも自分のこころがきめる。
この言葉は、詩人で書家である相田みつをさんの言葉。この言葉の哲学的な意味は、人は自分の心の持ち方によって幸せを感じたり感じなかったりするということ。 つまり、幸せとは外的な環境や条件によって決まるものではなく、内的な心の在り方によって決まるものだということ。
物語のなかで、美衣は、この言葉で、ダメな自分が救われた気になる。
主題は何か?
幸せだと信じて、DVの彼に従ってしまった悲劇でもあるけど、
想像すらできない悲劇が起こった時、人は状況を理解できなくなってしまう、真実をシャットアウトしてしまうものかもしれない。
皮肉にも、相田みつをの詩は、こころの持ち方で、幸せになれるといっているからね。
人が、人らしくない振る舞いをすると恐怖を感じるものなのだなあと改めて思わされた。
aiko 瞳