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【短編小説】週3日投稿

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SF・ミステリー・コメディ・ホラー・恋愛・ファンタジー様々なジャンルの短編小説を週に3日(火〜木)執筆投稿しています。 全て5分以内で読めるので、気になるものあればご気軽に読んで…
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2023年11月の記事一覧

【短編】『ベイエリア・トライアングル』(完結編)

【短編】『ベイエリア・トライアングル』(完結編)

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ベイエリア・トライアングル(完結編)

 ウェーブオルガンに向かう途中、急に滴がフロントガラスを叩きつけた。ぼくは傘を持ってきていなかったがこの量の雨であれば問題ないと思った。海岸に到着する頃には雨は小降りではなくなっていた。ウェーブオルガンに続く細い道にあともう少しで波が到達しようとしていた。誰もいない道を揺れる小型ボートを横目に一人駆け抜けた。ウェーブオルガンにたどり着くと

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【短編】『ベイエリア・トライアングル』(後編)

【短編】『ベイエリア・トライアングル』(後編)

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ベイエリア・トライアングル(後編)

 その日は運よく霧が晴れており難なく海岸へと辿り着いた。目の前に小型ボートがいくつも停められており、その先には岩で固められた細い道が海の上にひっそりと続いていた。道を歩いていると、停められた小型ボートが目に入っては、どれがハリウッド俳優の所有物だろうかと目を輝かせて眺めながら、友人もこの中の一隻を持っていたのだろうかとふと思った。道の終点ま

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【短編】『ベイエリア・トライアングル』(中編)

【短編】『ベイエリア・トライアングル』(中編)

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ベイエリア・トライアングル(中編)

 気がつくと、ぼくはとある病院の個室のベッドで横になっていた。ドア付近には警察が数名立っており、廊下を看護師が定期的に通り過ぎた。すると、ドアを開けて警察官が入ってきた。

「やっと目を覚ましたか。体調が戻ったら後ほど署まで来てもらう。現場の状況から見て君は犯人ではないという判断になった。すでに双方の身元確認も終わって、友人関係ということも

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【短編】『ベイエリア・トライアングル』(前編)

【短編】『ベイエリア・トライアングル』(前編)

ベイエリア ・ トライアングル(前編)

 昼下がりに飛行機は空港に着陸した。ゲートを出ると、見たことのある顔の男が手ぶらで人だかりに混じって立ちすくんでいた。男は軽く手をあげると後ろに下がり姿を消した。ぼくはつい先ほど発見した小さな凹みのある買ったばかりのスーツケースを転がしながら人だかりを通り過ぎてロータリーへと向かった。すると後ろから男は現れた。

「ようこそ。長旅ご苦労だったな」

サンフ

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【短編】『ヘラクレスの休日』

【短編】『ヘラクレスの休日』

ヘラクレスの休日

 今日は休日というのに、仕事に行かなければいけない。それも昨日退勤する直前に急遽王様から凶暴なライオン退治を依頼されたのだ。王様の頼みだから断ることができず渋々引き受けたが、本来であれば自宅で愛用の剣に磨きを入れることができたのに非常に間が悪い。ぼくは早朝から妻のデイアネイラを寝床に残して家を出ると、同じ町内に住む叔父のリキュムニオスが玄関でビールを片手にロッキングチェアに揺ら

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【短編】『あなたはアンドロイド』

【短編】『あなたはアンドロイド』

あなたはアンドロイド


 僕は授業を終え、次の教室へと向かっていた。廊下は生徒がちらほら歩いており、彼らを避けながら前に進んだ。僕は向こうから女子生徒が歩いてくるのを確認した。少しばかり女子生徒のことが気になり軽く彼女の顔を見た。するとなんの偶然かお互いに目が合ったのだ。しかもそれは一瞬どころではなく数秒目が合っていたと言ってもよい。僕は一目惚れをしてしまったのである。彼女の歩き方、服装、そし

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【短編】『監獄』

【短編】『監獄』

監獄

 私は全面コンクリートの打たれた狭い個室の中で、男を待っていた。目の前には分厚い強化ガラスが取り付けられており、どこか自分が独房にでも入れらているかのような錯覚に陥った。終始部屋の中の蛍光灯がついては消えを繰り返し、有名なゾンビアクション映画に出て来た場所に似ていた。向こうの部屋はこちらと同様塵一つなく、ただ何もない空間だけが異様な空気を漂わせていた。すると突然ベルが短く鳴り響き向こう側の

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【短編】『女心』

【短編】『女心』

女心


 僕は荒波が立つ海沿いの丘にそびえる大きな松の木の下で彼女を待ち続けた。いくら時間が経っても彼女は姿を現さなかった。僕は渋々2時間かけて来た道を戻ろうと道沿いを歩き始めた。すると、道の向こうにうっすらと彼女の姿が映った。陽炎のせいでうまく見えなかったが、一瞬捉えた笑顔で彼女だと確信した。僕は彼女めがけて大きく手を振った。向こうも僕に向けて手を振り返した。

 彼女と出会ったのは西暦19

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【短編】『音が消えた日』

【短編】『音が消えた日』

音が消えた日

 ポツポツポツと雨粒が連続して落ちる音。食器を棚にしまう時にお皿とお皿がぶつかり合って響くカカンココンキンキンという音。隣の家の住人が勢いよく窓を開けて洗濯を取り込むガターカリカリカリガタンという音。テレビの中で皆が一斉に拍手するププププパパパパパパパタタタタという音。それらが順序良く私の鼓膜を通過した時、私だけが聴こえるオーケストラが世界に広がっていた。私はゴクリと御馳走を頬張る

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【短編】『ユマンの隘路』(完結編)

【短編】『ユマンの隘路』(完結編)

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ユマンの隘路(完結編)

 しばらく永遠と続く階段を降っていると突然コート男が呟いた。

「お前、リアル派のスパイだろ?」

私は急な質問に不意を突かれ、困惑した表情を露見したが、幸運にも階段は暗くコート男には見えていなかった。

「何を言っているんだ。おれはただここに来るようボスに言われただけだ。スパイだなんて面白いこと言うじゃないか」

「今ボスに指示を出されたと言ったな?

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【短編】『ユマンの隘路』(後編)

【短編】『ユマンの隘路』(後編)

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ユマンの隘路(後編)

 私はコート男の斡旋によって無事ドラッグ製造会社に再就職することができた。本部からの情報では、このドラッグ製造会社の表向きは薬物中毒者の更生施設を運営する非営利団体で、皮肉なことに更生施設のすぐ隣でドラッグが毎日製造されているとのことだった。灯台下暗しとはこのことを指すであろう。私の直感では、軍事作戦に反対した者がこの更生施設に収容されていると推測してい

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【短編】『ユマンの隘路』(中編)

【短編】『ユマンの隘路』(中編)

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ユマンの隘路(中編)

 世界各地で暴動は増していった。人々は災害の連鎖によってこれから本当に生存できるのかどうかと不安に駆られていた。希望が持てなくなり自殺する者もいた。そんな中、人々にとって唯一の希望がユマン教であった。人類こそ選ばれし存在とする考え方が人々を奮い立たせた。

 私はリアル派の特殊諜報員である。リベロ派が軍事作戦を計画している可能性があることを知った今、上か

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【短編】『ユマンの隘路』(前編)

【短編】『ユマンの隘路』(前編)

ユマンの隘路(前編)

 時は2350年、気候変動により数々の自然災害が起こり、地球は危機に瀕していた。気温や海水温の上昇、山火事の多発、世界各地を襲う大型台風、大規模地震や津波の発生。もはや地球は滅亡の一途を辿っていた。人々は、荒れ狂う地球環境に不安を募らせ暴動も多発した。そんな中、資本主義において主役を担ってきた企業にとって代わり、勢力を拡大していったのが宗教であった。キリスト教、イスラム教、

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【短編】『名前というジレンマ』

【短編】『名前というジレンマ』

名前というジレンマ

 人間はこれまで様々なものに名前を与えてきた。車のエンジンの名前から、化学現象の呼び名、古来に存在した恐竜の名前まで。そして名前はものに新たな価値を与えた。反対にいまだに名前のないものは価値がないということになる。なぜ人間は対象に名前をつけるのだろうか?そしてなぜ外部のものだけでなく自分の名前さえ持つのだろうか?

 一般的に名前をつけることには、その存在を認知し個人が現実を

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