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わすれない

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#読書感想文

芥川賞を読む

芥川賞を読む

『文藝春秋 2025年3月特別号』

芥川賞関連しか読まないのだが、眺めてみると現代詩から短歌、作家情報など読むものが多くある。政治的なノンフィクションとかも読んだらおもしろそうだけど、あまり読まなかった。

『文藝春秋』は芥川賞の選評も出ているので面白いが昔のように石原慎太郎と宮本輝のご意見番がいなくなって、誰もが理解ある選者で最近はおもしろさも半減しているような。大体に似たようなことを言うので

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トラウマと向き合う精神科医

トラウマと向き合う精神科医

『樹をみつめて』中井英夫

『樹をみつめて』は精神科医が書いたエッセイで読みやすいのだが、ただエッセイとするには専門用語やその世界では有名な精神科医が出てくるので、わかりにくいところはある。最近の話題で「トラウマ」ということを取り上げているので興味が持てる。

「樹をみつめて」は樹木についてあれこれと。樹木は動けないし痛みを受けても何も言わないのでなすがままという感じだが(トラウマになる人の状態に

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『異常 アノマリー』エルヴェ・ル・テリエ(ハヤカワepi文庫)

『異常 アノマリー』エルヴェ・ル・テリエ(ハヤカワepi文庫)

面白かった。興奮した。素直にそう思う小説に出会ったのは久々だ。群像劇がもともと好きだというのもあるけれど、読みながらわくわくが止まらない。が、なんでだろう。始まりは、一人の殺し屋の仕事の様子が書かれている、普通の小説だ。なのに、すごく、話に入り込める。文体だろうか。解像度だろうか。

まず、第一章では何人かの人物の、三月と六月の様子が描かれる。殺し屋、作家、映像編集者、癌患者、7歳の少女、弁護士、

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思い出は美しすぎて

思い出は美しすぎて

『地下: ある逃亡』トーマス・ベルンハルト (著),今井 敦 (訳)

自伝五部作の二作目。『原因』の続きで暗い寄宿生生活から貧民街の団地の食料品店で働くことになる。職安ではもっといい仕事を紹介してくれるのだがベルンハルトは最低限の仕事を求めてザルツブルクの明るいほうではなく貧民街の方へ行くのだ。そこの経営者である男から商売の方法を学び商人も悪くないと思うのだが、あるきっかけで音楽の道に進む。ギム

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芥川賞と直木賞を当てたいんじゃ・・・。【第172回】

芥川賞と直木賞を当てたいんじゃ・・・。【第172回】

1、はじめに

やってきました1月15日。明日は本好きがソワソワする日です。
そう、芥川賞・直木賞の発表日でございます。

わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!\\\\٩( 'ω' )و ////
待ってましたよ!!!この時を!!

自称・本好きの私、前回の芥川賞・直木賞の予想を立ててみたものの、
見事大ハズレしました。
それは等しく全ての作品が素晴らしかったことが理由なのですが、
折角なら選考委員の方々

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『GOAT 2024 Autumn』小学館

『GOAT 2024 Autumn』小学館

かつてない文芸誌、ここに爆誕!!!のコピーとともに2024年11月に創刊された雑誌。家からほとんど出ないために買いそびれ、12月末の重版分を購入。執筆陣が豪華。家事の合間などに読み続けたけれど、一日で全部は読み切れず。どれも面白くて、もし自分が小説家になれたとして、ここに参加して遜色ないものが書けるかと考えて無限に落ち込む。無理だわ。なら私は毎日パソコンに向かって、何をやっているのか。

小川哲さ

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『檜垣澤家の炎上』永嶋恵美(新潮文庫)

『檜垣澤家の炎上』永嶋恵美(新潮文庫)

新年一冊目読書。場所は横浜。明治時代の始まりとともに絹織物系で財を成した檜垣澤家。創業者の妾の子が、母を事故で亡くし、7歳で檜垣澤家に引き取られることとなったところから物語は始まる。当時家にいたのは創業者である父、その妻、その娘と娘婿、孫娘三人(一人は婿付き)。血でいえば、娘の妹に当たるが、孫娘より年若く、はじめは使用人と同じ扱いを受ける。そこからの、主人公かな子の成り上がり物語。

父が死に、娘

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レイモンド・チャンドラー「待っている」読書感想文

レイモンド・チャンドラー「待っている」読書感想文

ハードボイルドの大作家とは知っている。
現代の作家にもお手本にされていて、あちこちの本の作中で紹介もされている。

1回は読もうとは思っていたけど、今までに読んだハードボイルドって、それほど好きにはなれなかったので躊躇させていた。

しかしながら。
期待してない読書のほうがおもしろい場合が多々ある。
試しに読んでみた。

この本には、5編が収められている。
4つの中編と、1つの短編。
終わりにある

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市川沙央『ハンチバック』を読んで「中絶願望に救いを求める釈華の生き様をみつめて」(※ネタバレあり)

市川沙央『ハンチバック』を読んで「中絶願望に救いを求める釈華の生き様をみつめて」(※ネタバレあり)

 はじめに…寡黙そうな作者が秘めている内なる牙に慄かされた。しぶとくたくましい弱者の骨は、儚くかよわい強者の肉をえぐることもできると知らしめられた。

 私は釈迦と仏陀の違いを知らずに生きていた。2023年7月1日、この本を読み進めるうちに、その違いが分かった方が良いだろうと思うようになり、調べてみると「釈迦が涅槃の境地に辿り着き、仏陀になった」という解釈ができた。つまり同一人物と言えるけれど、本

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