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『GOAT 2024 Autumn』小学館
かつてない文芸誌、ここに爆誕!!!のコピーとともに2024年11月に創刊された雑誌。家からほとんど出ないために買いそびれ、12月末の重版分を購入。執筆陣が豪華。家事の合間などに読み続けたけれど、一日で全部は読み切れず。どれも面白くて、もし自分が小説家になれたとして、ここに参加して遜色ないものが書けるかと考えて無限に落ち込む。無理だわ。なら私は毎日パソコンに向かって、何をやっているのか。
小川哲さん『嘔吐』(男性ということで排除されたかに見えたとある作家のファンが、話が進むにつれ、じつは数年前に私設ファンクラブをつくって自意識をこじらせていたおかしな男だったと判明する)は、いまや歪んでしまった男の、その昔、作家に向けていたピュアな思いが切なかったし、市川沙央さん『音の心中』(ネット記事を書いて生計を立てている脚本家志望が、心音を録音したCDと出会うことによって自分の矜持を取り戻す)は、量産されるネット記事と、それを求める大衆の欲望について考えておぞましくなったし、嶋津輝さん『牛田家とわたし』(予約が一瞬で埋まる家事代行をしている主婦が、小学校のころよく通った友人の家のことを思い出す)は、私にも小学校のころ仲良くしていたのに中学に入ってから一言も口をきかなくなった友達がいたなと、なつかしくなった。他にもいろいろ面白い小説はあったが、一番響いたのは、Awichさんと細谷功さんの対談。細谷さんは、下の本の著者。
「他人のことは一般化して抽象レベルでとらえるが、自分のことは特別視して具体レベルでとらえる」というのが、心当たりあり過ぎて。Awichさんは自分が「シングルマザーラッパー」という一面でとらえられることがたまらなく嫌だった。だけど、そのフレーズで一般化することで、みんなに知ってもらえるのだということに、気づいたのだという。
これは、小説についても、小説の中の登場人物についても言えることで、「○○の話」「○○な人」と、簡単な言葉で集約できるものが、やっぱり売れるのだと、ここ数年、ようやくわかってきたのです。が、なかなかそうすっきりいくこともなく。
なので、この本は読まなくちゃ!と、チェックした。ら、オーディブルにあったので、また聞こう。
そしてこれを読んだ時、noteでも下の話が目に留まった。さっき、小説は抽象化できるものが売れると書いたばかりだけど、それを、どう具体化するかが、小説のキモになるのだと思う。小説って、人の心を打つものだから。パーンと、答えを言うのではなくて、具体的なエピソードを重ねて重ねて重ねて、滲ませるものだから。
具体と抽象について、しばらく考えることにする。
#読書感想文