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加速主義

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#読書感想文

御田寺圭『フォールン・ブリッジ 橋渡し不可能な分断社会を生きるために』読んだ

御田寺圭『フォールン・ブリッジ 橋渡し不可能な分断社会を生きるために』読んだ

白饅頭こと御田寺圭さんの新著が出たので読んだ。

本書は、スタジオジブリの機関誌『熱風』に連載された記事を中心にしたものらしい。

熱風に連載を持っているのは知っていたが、同誌はやや入手しにくいこともあり読んでなかった。ありがたい。

しかし、著者の文章を何年もほぼ毎日読んでいる私でも暗い気分になってしまう記事がいくつかあり、おいおい、これをジブリのファンに読ませたんかい、、、と驚いてしまったので

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長宗我部友親『絶家を思う』読んだ

長宗我部友親『絶家を思う』読んだ

知人に面白そうって教えてもらったので読んでみた。

著者は長宗我部家の何代目かの当主であり、タイトルのとおり世継ぎがいないらしい。。。

名家がこうなってしまうのは個が重視される今の時代ではしかたないことだと思うし、著者もそう慨嘆しているのだが、子孫を残すためにどういう努力をしたのかは書いてない、、、まあ無策だったわけじゃないと思うが。

長宗我部家のハイライトは、四国を制圧した元親の時代である。

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H. L. A. ハート『法の概念』読んだ

H. L. A. ハート『法の概念』読んだ

めちゃ時間かかったけど無理やり読み終えたことにした。

邦訳書は2冊あって、ちくま学芸文庫のほうが電子書籍あり、かつお手頃価格である。みすず書房のほうが訳は読みにくいが、正確とのことである。さすがみすず書房だ。

そもそも法律の文章は日本語であっても読みくい。というかたぶん日本語は法律に向いていないかもしれない。そういうことをラテン語を学んでいると考えてしまう。

法律の文章は、英語の意味は取れる

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サミール・オカーシャ『哲学がわかる 科学哲学』読んだ

サミール・オカーシャ『哲学がわかる 科学哲学』読んだ

オックスフォード大学のVery Short Introductionシリーズの科学哲学編である。

文章は平明にみえるのだが、中身はそれなりに骨太であんまり理解できなかった。

科学のルールは言語ゲームのそれとたいして変わらず、あるとき突然ちゃぶ台返しされる可能性がある。そういう意味で、科学と疑似科学の線引きは簡単ではないのである。

東浩紀ならそれを訂正可能性に開かれているというだろうが、そんな

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ニック・チェイター『心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学』読んだ

ニック・チェイター『心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学』読んだ

一昨年くらいから時間とか意識についてチマチマと本を読んでいる。

だから一部で話題のニック・チェイターを読んだのである。

本書の原題はThe Mind is Flat、つまりマインド(知性、意識、心、、、どれもしっくりこない訳だ)はツルペタということだ。

私達は主に視覚情報から、意識において外界について稠密なコピーを作っていると考えている。ところが様々な実験から、人間の視覚は中心窩でしかまとも

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納富信留『世界哲学のすすめ』

納富信留『世界哲学のすすめ』

納富信留先生シリーズ。

ちくま新書の世界哲学史シリーズの成果をもとに、より普遍的な哲学を模索するという内容。

まず言葉、地図、暦などを例にとって、私達の思考がいかに自国中心あるいは西洋中心主義的であるかを解説する。

また西洋の哲学者がいかに西洋中心にものを考えているかも紹介されており、ポストモダニズムやらカルスタポスコロを経てもまだそれかよってやや呆れた。

現在欧米で主流となっている分析哲

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ジュリアン・ジェインズ『神々の沈黙』読んだ

ジュリアン・ジェインズ『神々の沈黙』読んだ

いやあこれは面白かった。

原著は40年以上前、邦訳は約20年前に出ているが、まだ読んでなかったなんてもったいないことをしていた。

意識はいつ、どのように生じたかというありふれたテーマだが、大胆な仮説を立てて検証した意欲的な作品だ。

まず意識とはなんでないかから始まる。

意識は学習に必要でない。概念の習得、形成に必要ではない。意識は経験の複写ではないし、知覚されたものを貯蔵しているのではない

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『ストーリーが世界を滅ぼす』読んだ

『ストーリーが世界を滅ぼす』読んだ

一部でちょっと話題になっていた本を読んだのだ。

内容としては『反共感論』とほぼ同じ。

古来よりナラティブのもたらす破壊的影響力は知られており、プラトンが『国家』において、詩人を追放しようとした事例などが引かれている。

他の例としてはキリスト教があげられている。言うまでもなくイエス・キリストとその物語は世界で最も影響を及ぼしてきたナラティブである。その一神教的な不寛容さが理由の一つである。

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山本七平『空気の研究』読んだ

山本七平『空気の研究』読んだ

日本における空気支配についての有名な著作、いまごろ読んだ。

空気支配について有名な例は、戦艦大和による海上特攻であろう。制空権も十分な燃料も訓練もなく突っ込んでいったらどうなるか、当時の幕僚たちは百も承知であったろうが決行され、多くの命と艦艇、技術の粋を尽くした戦艦大和が失われた。
これについて戦後、当時軍令部次長であった小沢治三郎は「全般の空気よりして、その当時も今日も当然と思う」と述べた。

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西部邁『学者 この喜劇的なるもの』読んだ

西部邁『学者 この喜劇的なるもの』読んだ

西部邁は中沢新一の人事を巡るゴタゴタに嫌気がさして1988年3月に東大教養学部教授を辞任しているのだが、その顛末を記したのが本書である。

西部らは東大教養学部の慣習に従い中沢新一の招聘を決めたのだが、ドタキャンをくらってしまう。

おそらくは当時の中沢の学者にしてはチャラチャラした雰囲気を一部教授たちが嫌がりひっくり返したもので、西部は中沢とその師である山口昌男への義理立てから最後まで奔走するの

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磯野真穂『他者と生きる』読んだ

磯野真穂『他者と生きる』読んだ

こちらの記事で取り上げた文化人類学者の磯野真穂さん、なんとなく気になって近著を読んでみたよ。

タイトルからわかるとおり、疫病のようなリスクといかにつきあうか、つまり他者とのあり方を考察した一冊である。

近年の日本ではゼロリスク志向が蔓延している。本書では狂牛病やHIVにまつわるおぞましい事件も取り上げられているが、別の疫病で現在進行中なので割愛。

リスクには、リアルな実感を伴うものと、なんか

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西部邁『ニヒリズムを超えて』読んだ

西部邁『ニヒリズムを超えて』読んだ

年末だからまた西部邁の本を読んでしまった。

1989年出版の評論集である。

まず三島由紀夫についてであるが、晩年の三島は政治的であったと西部は繰り返すのだが、それは現代の私の目からは当然のように思われる。

ただ、生前を知る人々からすれば三島は市ヶ谷駐屯地で自裁した人というよりは文学者だったのだろう。だからその死をも文学的に語りたくなるような時代背景であったと推察される。

西部は全共闘から転

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平井靖史『世界は時間でできている: ベルクソン時間哲学入門』読んだ

平井靖史『世界は時間でできている: ベルクソン時間哲学入門』読んだ

アンリ・ベルクソンの記憶や時間についての哲学には以前から関心があったが、いきなり原著を読むわけにもいかんし、どうしたもんかと思っていたら、ちょうど良さそうなのが出版されていた。

客観的な計測された時間と、主観的な時間が異なるのは誰でも知っているだろう。例えば、おとなになると1年が短いというように。

というようなことを、本書を読めばよく理解できるようになるかと思ったが、難しすぎワロタ。

という

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佐藤優『獄中記』読んだ

佐藤優『獄中記』読んだ

この本の二人は入獄するにあたり佐藤優氏のお世話になたという。そして佐藤氏は拘置所で512泊したとかおかしなことが書いてあり、氏の『獄中記』を入手するのやむなきにいたったのである。

Kindle Unlimitedだった。ラッキー。

鈴木宗男事件に連座して逮捕された佐藤優氏であるが、現在も続くロシアの周辺情勢を理解しておくのが有用である。

ソ連崩壊後、NATOは東方拡大を進めた。これはロシアの

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