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短編小説・ショートショート

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ショートショートは2000字前後まで、短編小説はそれより長めの読み切りです。
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#多様性を考える

【ショートショート】持続可能な共同体

【ショートショート】持続可能な共同体

自治区の住民「祭りだー! みんな踊れー!」

ある新興国家の外部調査員「何だこの祭りは、みんな好き勝手に踊ったり爆竹を鳴らしたりして、まるでカオスだな」

自治区の広報担当「1年に1度の大イベントですからね。海に囲まれたこの自治区では、住民の大半が漁師なのですが、祭りの期間は漁に出ることが禁止されているのです。娯楽の少ないこの地では、全住民、この祭りで日頃の憂さを晴らすのです」

自治区の警察「祭

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【ショートショート】音楽的生活

男「俺は一日中、好きな音楽に触れていたいYO! でも、嫁も子どももいるから無理な話だYO! YEAH!」

老人「君は音楽を勘違いしているね」

男「えっ? どういうことだYO?」

老「子どもがいると言ったね。子どもほど音楽的な存在はいないのだよ」

男「分からないYO! 説明してくれYO!」

老「4つの『KYO』を教えてあげよう。子どもは何度も同じことを繰り返すね。そして、それを受け入れてく

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【ショートショート】オスとメス

【ショートショート】オスとメス

「来てたのか」

「遅かったわね」

「ししゃもを2匹手に入れたよ」

「ししゃもか……私、卵が苦手」

「君の好きなオスもあるぞ、ほら」

「えっ! 本当? 嬉しい……美味しい」

「俺は卵が好きだ……うん、うまい」

「口元に付いてるわ。舐めてあげる……卵の味」

「ははは、くすぐったいよ……結婚しよう」

「ええ」

 次の日、C国から輸入されたししゃもで食中毒が大量発生とのニュースが世間を

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【ショートショート】メッシ

【ショートショート】メッシ

太郎「吉男くん、お待たせー」

吉男「太郎くん、行こっか」

太「うん。はあ、塾行きたくないなあ」

吉「僕もだよ」

男「君たち、塾に行きたくないのかね?」

太・吉「おじさん、誰?」

男「名乗るほどの者ではないよ。なぜ行きたくないのかね?」

太「だって、お腹空くし」

吉「遅く帰ってからも、塾の宿題が終わるまで眠らせてもらえないし」

太「僕たちは4年生だけど、寝不足でクマができてて、パン

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【ショートショート】第3夫人よ、さようなら

【ショートショート】第3夫人よ、さようなら

若者「前国王の第3夫人の葬儀だというのに、反対する人たちが城を取り囲んでいますね」

老人「夫人とはいえ、外国から来たお妾さんだからのう。国の金でやるほどのものかねと、よろしく思わない人々もいるのだ」

若「たしかに、下剋上のようにして国を乗っ取った王からすれば、敵にも等しい存在ですしね」

老「まあ、現国王と故第3夫人との間に、よからぬ噂がなかったこともないがのう……懐の深さをアピールする意味も

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【ショートショート】理系くんと文系くん

【ショートショート】理系くんと文系くん

 ぼくたちは双子だ。顔も声も一緒、周りからいつもどちらがどちらか分からないと言われながら育ってきた。しかし学校に入ってからは、頭の出来が違うことが判明した。兄は数字に強く、弟は文字に強い。理系と文系に完全に分かれたのだ。

「一卵性なのになぜかしら」

「ふたりでひとりだな」

 両親からも不思議がられた。成長して行くにしたがい、それぞれの分野で周囲よりも抜きん出た才能を発揮した。補い合っていると

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【ショートショート】おふくろさん

【ショートショート】おふくろさん

 この山間の地方には、出産に関して、珍しい風習がある。その年の春までに初潮を迎え、結婚を済ませた娘たちが握りこぶし大の卵を産むと、夫はそれを取り、息を吹き込んでから、

「飛んでけー!」

という叫び声とともに空へ投げる。ある程度の高さまでいくと、卵は自然に空に吸われるが、投げる力が足りず、中空で弧を描いて地上に戻ってきたときには、地面へ落ちて割れてしまい、その年の子種はそれ切りとなる。そのため、

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【ショートショート】頭があがらん

【ショートショート】頭があがらん

 "いつどこへでもドア"が開き、男がひとりあらわれた。目の前には、スーツを着た男がすでにスタンバイしていた。

「ようこそ、本日案内を担当させていただくエイです」

 エイと名乗ったスーツの男は、ドアから出てきた男と握手をした。

「ビイです。よろしくお願いします」

「この時代で子育てをご希望ということで、本日はさまざまな場所にご案内させていただきますね」

「はい、お願いします」

「まずはこ

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【ショートショート】マリの友達

【ショートショート】マリの友達

「マリ、金を拾ったんだ。アイスを買ってあげよう」

 呼び鈴が押されたので、マリが急いでドアを開けると、ひとつ上の階に住むジョーイの白い目が隙間に見えた。差し出された手の平には、色の異なる3枚のコインがのっている。

「いいの? ジョーイ」

「ああ、準備をしておいで」

「うん!」

 準備と言っても、猫のぬいぐるみのマルをソファーの上から取ってくるだけだ。

「準備できたわ、行きましょう」

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【ショートショート】ひょひょいのひょうい

「太郎くん、涙が……」

 吉男が太郎の顔を見て、びっくりして心配そうに言った。

 ──あれ? 僕、あの人を見ていると、なんだか懐かしいような悲しいような……なぜだろう、どこかで会ったことがある気がする……

「あっちの人も泣いているね」

 吉男が太郎の視線の先にいる初老の紳士を指差して、太郎の耳元で囁いた。

 ──やっぱり、あの人も何か感じるんだ……たまたま中学の修学旅行で来ただけだけど、

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【短編小説】ウサギ石③(最終話)

【短編小説】ウサギ石③(最終話)

 試合後の表彰式では、太郎は今大会のMVPに選ばれた。大洋が去っていくのを見て泣き腫らした顔は、人々の感動を誘うのに一役買った。写真撮影、インタビューなどを終え、ロッカールームへ戻る途中、チームの世話係として手伝いに来ていた母に呼び止められた。

「太郎、おめでとう」

「うん。これ、持って帰って」

 式でもらったMVPの盾を母に押しつけた。

「今ね、小学校のPTAで一緒だった人からメールが来

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【短編小説】ウサギ石②

【短編小説】ウサギ石②

 吉男が施設に入れられてからしばらくは、太郎の頭は吉男のことでいっぱいだったけれど、月日が経つにつれ、思い出す時間は徐々に減ってゆき、時折はっと吉男のことが思い浮かぶと、忘れていたことを申し訳なく思うのだが、忘却は、何もしてあげられなかったという罪悪感に押し潰されないための防衛本能かもしれなかった。あえて思い出そうとするのも、そのわざとらしさが失礼な気がして、おのれの内なる葛藤を鎮めるために、自然

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【短編小説】ウサギ石①

【短編小説】ウサギ石①

 コツコツ。
 太郎が吉男の家のドアをノックすると、失業中の父親が酒の匂いをぷんぷんさせて出てきた。

「おう、太郎くんか」

「おじちゃん、こんにちは。これ、吉男くんの連絡帳」

「おう、サンキューな」

「明日は学校来る?」

「ああ、行けると思うぞ」

「分かった、じゃあね」

「あっ、待て待て、広場にいるヤツらには気をつけろよ。あいつら、相手が子どもかどうかなんて関係ないからな。時間も金も

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【ショートショート】幸福な風船

【ショートショート】幸福な風船

「お父さん、お薬飲んだ?」

「ああ、飲んだよ」

「本当? あら、まだ飲んでないじゃない。お薬ポケットに残ってるわ」

「そうだったかな……」

「はい、飲んで」

「2度も飲んだら大変だぞ」

「今日はまだ飲んでないの! 飲まない方が大変なことになるの! ほら早く」

「ん? ああ……」

 太郎は渋々、娘のミオに出された薬を飲んだ。

 ミオが洗濯を干していると、息子の満男がやってきた。

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