山本てら
四季折々
さまざまな言の葉の綾
ショートショートは2000字前後まで、短編小説はそれより長めの読み切りです。
古典文学のお気に入りの部分を、現代を舞台に小説にしてみました。
夢もうつつも一緒くた
日向にて風冴えわたる独りかな
あんよ出し毛布にまろむ寝息かな
ふと音の途切れしとき 秋の陽はかくもやさし アイロンから立ち上るスチームに わが涙はおほはれて 昇華され浄化され かの俤に歩みより 雲にかくれ思ひこがれ 見えぬほどそばにゐることを 衿を揺らす吐息にて知る 夏の朝の上高地の ひいやりとした空気を ともに吸ひ込むまでは たとへ化け物にならうとも この世に漂ふであらう執着を いかにせむ いかにせむとは思へども 変はる気はなし 変へる気もなし 石となるまで待つ 雨に溶けるまで待つ 地下に侵みて地獄にしたたり 地獄の底を抜けて気化
いつはりのなき笑みかはす秋日和
秋雨や犬も物憂き窓辺かな
生も死も甘味の笑みに踊る夜
秋雨や叶はぬ夢も遠のきて
風さめてつれなき秋の夕まぐれ
遠くより目と目交はせどうらながし
ひめごとの名残かくせぬ薄月や
女郎蜘蛛に道を変へかへ秋日和 *女郎蜘蛛は今が旬(関東南部)。
傍らに在るべきものを弦月や
曼珠沙華長雨に尽くるほむらかな
秋暁や雲に消え入る声はなし
逆光の秋津はなやぐセピア色
ひそかなる虫の吐息や月の道