
【ショートショート】理系くんと文系くん
ぼくたちは双子だ。顔も声も一緒、周りからいつもどちらがどちらか分からないと言われながら育ってきた。しかし学校に入ってからは、頭の出来が違うことが判明した。兄は数字に強く、弟は文字に強い。理系と文系に完全に分かれたのだ。
「一卵性なのになぜかしら」
「ふたりでひとりだな」
両親からも不思議がられた。成長して行くにしたがい、それぞれの分野で周囲よりも抜きん出た才能を発揮した。補い合っていると思う反面、それぞれが片端の人間であることを認めるよう突きつけられているようで、同じ空間にいることがつらくなり、顔も合わせないようになった。大学入学とともにふたりとも親元を離れ、別々に暮らすようになった。
15年後、両親が不慮の事故で同時に亡くなった。久しぶりに顔を合わせたぼくたちは、年の取り方も服の好みもそっくりで、まるで鏡を見ているようだった。通夜や葬式がひと段落し、親戚や近所の人々が帰ったあとに、生きていたときの両親の生活の息吹がフリーズされた家で、ぼくたちは向かい合った。
「今何してる?」
「社会の根本を外側から変えるシステムを作れないかと模索している。君は?」
「僕は、人心を内側から変化させられるようなものを書くため、日々勉強中さ」
言い終えて、互いにはっとした。アプローチは真逆でも、やろうとしていることは同じじゃないか。今の世のハードを変える試みと、現象におどらされている人々に本質を見抜くための気づきを与える試みと……。そうだ、ぼくたちはまるで電磁波だ。電場と磁場は水平と垂直に90度離れ、並走することはないけれど、進行方向は同じなのだ。今は漠然とした潜伏期間だ。やるべき時が来たら、より具体的に波長を短くし、エネルギーを増大させて行くぞ。そのうち一緒に仕事をする日が来るかもしれない。きっとふたりならできる、ふたりなら……。
ぼくたちはぐっと抱き合った。目には涙をためていた。これからは、離れていても、互いに共通のビジョンを描き、身近に感じながら前進して行くだろう。放置されたままになっていた体の半分同士が、心を通してやっとつながった。やはりぼくたちは、ふたりでひとりだったのだ。
(了)