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創作ものがたり

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#小説

私は小説が書きたい

私は小説が書きたい

――まぁさ、こういうの書ける人って俗に言う「天才」だよね。――

人の前で、格好つけて言ったその言葉で片付けた、
大事にしてきた自分の夢を、
あの時、追わなかったことに酷く後悔していて。

目の前にあるショートショート作品集を手に取り私は表紙の埃を払った。

――書いていればきっといつか書けるようになる。――

そう思って書き続けた日々が私にもあった。

その日その日目にしたものをメモして、それを

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はさみとホチキスどちらが普通?

はさみとホチキスどちらが普通?

僕の彼女はサイコパスらしい。
周りの人が全員そう言う。
そしてメンヘラらしい。よく分からないが。

確かに、彼女の言動には理解できないことが多い。
立ち寄ったデパートのアクセサリーを見ても可愛いと言わないのに、ヘンテコな血にまみれたドクロをモチーフにしたブローチを可愛いと言う。
さらに、僕が女友達とLINEしていただけで数時間機嫌が悪くなり、大概物を投げてくる。
あとはそうだな。
この前、家の出刃

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世界を繋ぐロッカーの噂

世界を繋ぐロッカーの噂

そこは翠ケ丘附属中サッカー部の部室。
万年補欠組の2年生、大輔と拓也、そして健一が座って話している。

健一「おい、拓也、大輔。知ってるか」
拓也「何を」
大輔「健ちゃんっていつも主語無いよね」
健一「悪い。つい早く言いたすぎて」
拓也「で、何を?」
健一「ロッカー3つを順番通り開けた時、開けた人は     もう1つの世界の自分と入れ替わるって話」
拓也「なんだよ、もう1つの世界って」
大輔「…で

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正しいティッシュの使い方

正しいティッシュの使い方

「ティシューちょうだい」
「何に使うの」
「コンタクトの液こぼしちゃったから拭きたい」
「だったらこっちのティッシュ使わないで、あっちの使って」

私は棚の上にあるティッシュ箱を指さした。

「なんで」
「こっちは高いの。セレブリティなティッシュなわけ。肌に触れること以外は使わないで欲しいの」
「なんだよ、それ。変わらねぇだろ」
「変わるんですー。お高いんですー。肌ざわりが違うんですー」

捲し立

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夏、大人になった俺たちは

夏、大人になった俺たちは

茹だるような暑さの日。
俺はノートを持って外に出た。

34歳、俺。現在無職。
いや、漫画家志望の夢見る少年。
いや、実家暮らしのくそニート。

室内でも少し熱くなった小銭を握って、コンビニに入る。
氷入りのカフェラテと、ソフトクリームを持って、レジに小銭を置く。
無人でもガラガラと音を立てて収納される小銭を眺め、レシートを取らず外に出た。

外に出て、公園のベンチに座った。
もちろん日陰。ただそ

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絵描きの私と5人の男 #1

絵描きの私と5人の男 #1

とある昼下がり。人里離れた少し寂れた私の家に、知らない女の子が飛び込んできた。
どうやら売れない絵描きの私の家に住む男、木山と知り合いらしい。
その木山も数カ月前突然家にやってきて、
「家なくなったから一緒に住んでいい?」と言ってきた。
まぁ知らない人では無かったし、いいよと答えたのだ。
まずは人を信じることが大切、と、昔から教わってきたし。

突如来た彼女は、家に入ってきて早々、急に携帯を鳴らし

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埋もれる真実を叫ぶ男

埋もれる真実を叫ぶ男

「そこに全力で叫ぶ男がいた。

特定の誰かに向かってでは無く、
ただ自分の想いだけを一心不乱に叫び続ける男。

その名もMrs.Principal (大友悠大・29・東京都)。

彼は高校の時からMrs.Princes というバンドを組んでいたが、そのバンドはつい3日前、活動を休止した。

メンバー間の音楽性の違いで、というのが世間への発表だが
実際はメンバー内には誰1人、違いなど持ったものはいな

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とある奇人の指針 #1 「鍵のあるドア」

とある奇人の指針 #1 「鍵のあるドア」

さて、ここで質問です。

今、あなたの目の前に
沢山の鍵穴がついたドアがあります。
そして、あなたの手元には1つの鍵が。

どれも同じ鍵穴に見えますが、
全て違うドアのものです。

あなたの手元の鍵はマスターキーのようなもので、どのドアでも開けることができます。

1回差したらもう戻すことは出来ません。
そのまま右に捻って鍵を開けてください。

あなたなら、どのドアを開けますか。

急に聞かれても

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水面下の2人

水面下の2人

会社にあるウォーターサーバーの音が好きで
私、高坂楓は頻繁に喫煙所の横にあるサーバーに水を取りに行く。

同期や先輩はみんな水筒を持ってきていて、
(いや、水筒なんて言ったらまた笑われる。タンブラー的なアレ)
頻繁に身体の老廃物を外に出すことを促進している。

「未だにウォーターサーバー使ってるの、
うちのおっさん達かお客様くらいだよ」
そう言って今日も同期に笑われた。
「持ってきなよ、マイボトル

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嘘の色

嘘の色

「今日、先生休みだってよ」
僕は親友のアサヒに嘘をつく。
「え、マジで?」
アサヒは少し喜んだ。
「うっそー」
僕はアサヒに向けて舌を出す。
「だと思ったよ」
僕に指を向けて、小さいため息をつくアサヒ。

僕の顔に、1本線が入る。

「お、今日は緑だな」
アサヒは僕に鏡を見せる。
「ホントだ、緑だ」

よく分からないが、これは僕の体質である。
先天性のものではない。
ある日突然、嘘をついたら顔に線

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マンホール大魔神

マンホール大魔神

「あきと!!またあんた勝手に食べたわねー!!」

戸棚のお菓子を勝手に食べたら、怒られた。
でも食べたかったんだから仕方ないじゃないか。
でもそう言ったら怒るんだから、言えないし。

僕は不貞腐れて、小さな声で「食べてない」と呟く。

「嘘つくと庭のマンホールの中に閉じ込めちゃうからね!!!」

お母さんはいつもそうやって言う。
マンホールなんて工事のおじさんが使うやつなんだから、底が無いわけない

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死ぬことを恐れない男

死ぬことを恐れない男

ある昼下がり、俺は駅に立っている。
未曾有のウイルス災害によりテレワーク続きだった会社も、徐々に出勤となった。
しかし時差出勤とやらで俺はこの時間に会社に向かうことになったのだ。

午前にリモート打ちが無ければ昼前まで寝れることは嬉しいが、逆にそんなに長く寝てしまうと今度は起きることがしんどくなる。
それが俺にとっての最近辛いことだ。

瞼が重い。欠伸が出る。
電車はまだ来る気配がない。

ポカポ

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本と目薬

本と目薬

「あー、疲れた」

そう言って机の上の目薬を手にする彩未。
目の前には大量の本。

「まだ読めるけどなぁ」

時計を見るともう深夜2時を回っていて、
明日の朝も早いのにな、とため息をつく。

「さすがに、寝るか」

愛してやまないベッドに横になり
癒しのホットアイマスクをして目を閉じる。

今日読んだ本、どれが1番面白かったっけ。

彩未は頭の中でストーリーを整理する。

彩未にとって、この時間は

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教えてくれないQRコード

教えてくれないQRコード

帰りの電車でQRコードを見つけました。

いまや当たり前にあるこのコードの意味と
このコードの由来を知っている人はどれくらい居るのでしょう。

知らなかった私は、
調べてみることにしました。

このコードは1994年に誕生し、
QuickResponseの略でQRコードと呼ばれるそうです。

その名に恥じない、早い反応を試そうと思って私はそのQRコードにカメラを向けました。
一瞬で、大学の情報ペー

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