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哲学とビジネス

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ビジネスのトピックスについて哲学的にアプローチしたものをまとめています
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記事一覧

『7つの習慣』を読んでみた2:霧

『7つの習慣』を読んでみた2:霧

 『7つの習慣』のなかでは、有名な人物からネットで検索しても正体不明の人物まで様々な人名が挙げられます。その中で、言及される数が最も多いのはヴィクトール・フランクルです。著者はフランクルから多くの示唆を得ているわけですね。例えば、心理療法としてのロゴセラピーなどが挙がっていました。そういうわけで一つの試みとしてフランクルのテクストと比べて読んでみようってことなんですが、私は、『夜と霧』(ヴィクトー

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本の紹介:『ダーウィンの呪い』(3)

本の紹介:『ダーウィンの呪い』(3)

 今回は『ダーウィンの呪い』(以下、本書)における著者の主張と思われるものを中心にまとめます。それは即ち、現代的意義(あるいは社会課題への提言)と言えるものです。さらに、最終回ですから、私の見解も(著者の主張を弁別しつつ)書いてみたいと思います。
 ちなみに、シリーズものですが、この記事だけ「ビジネスと哲学」ジャンルとしておきます。理由はもちろん、現代のビジネスに関わることが含まれているからですが

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読書ノート:「個性とは幻想である」

読書ノート:「個性とは幻想である」

いきなりハイライトから 「生きることの困難を取り扱うのが精神医学」――ここで取り扱うと中立的に言及されているものの、その目的は当然困難を少なくするため。だからサリヴァンは「(個性という)幻想を取り除くことができれば、生きることはずっと素朴に、そして喜びの多いものになります」と言う。

 医学の側面から言い換えられているのが、「新しい医学(=精神医学)の進歩」の「最大の障壁」が――

ということにな

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スキルやアビリティについて:「受動的」に関する考察

スキルやアビリティについて:「受動的」に関する考察

 リスキニングという言葉の旬は過ぎたかもしれません。もっとも「学び直し」かどうかは別にしてビジネスにおいてスキルを身につけていくことは、新入社員に限らず大事なことです。
 今回は、そのようなスキルといわゆる能力(アビリティ)について、哲学的に――つまり言葉の面からアプローチして考えてみたいと思います。内容(主張)としては、これまで何度か記事の端々で触れてきた、ビジネスの場で能動性/能動的であること

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ヴェイユに捧ぐ#2:集団と人格

ヴェイユに捧ぐ#2:集団と人格

 河出文庫『アンソロジー』所収の「人格と聖なるもの」の偏った読解です。
 「人格と聖なるもの」には、いろんなテーマが盛り沢山で、今回は「集団」に関することを中心にしたまとめになります。読解ではありますが、堅苦しくならないように、基本的には私の言葉を中心に書いていきます。もちろん、破壊的なセンテンスは引用のかたちで拾っていきますよ。あと、あくまで読解なので、いわゆる解釈はしますが、私の意見は含めませ

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エンゲージメントについて

エンゲージメントについて

 哲学とビジネスの記事の割合が少ないのはしょうがいないことです。そもそもあんまり関係ないわけですからね。
 というわけ今回はエンゲージメントについて、いつものように言葉にこだわってラフに整理してみます。

ビジネスシーンでの用途

 社員のエンゲージメントを高める――比較的最近耳にするようになった用途といえるでしょう。意味合いは、後でもう一度戻ってくるとして、さしあたって、参加意欲程度のニュアンス

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民主主義は時代遅れなのか

民主主義は時代遅れなのか

民主主義は時代遅れになりました。たまにタイトル回収を最後に回すこともありますが、今回はさくっと書いておきます。
この手のテーマのときには毎度のアナウンスですが、政治学、歴史学、経済学といった専門知識に疎い視点……哲学の側面+ビジネスの視点からつらつらと書きたいと思います。

今になって言われたことではない

 少なくとも哲学の領域ではわりと長い時間軸で見て、民主主義は、貶されるか、消去法で選択され

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排除する/排除される人たち:人生観・労働観の変化についてのメモ

排除する/排除される人たち:人生観・労働観の変化についてのメモ

自分の人生をどのように生きていくか。多くの人にとって人生の中で大きなウェイトを占める仕事をすること(労働)についてどのように考えるか。その中身は当然、時代とともに変わっていきます。この記事では、哲学的な視点から若干の情報整理をしてみます。経済や政策の専門家ではないのであくまでラフなメモです。

変化の要因について

 時代とともに変わると書きましたが、変化の要因の幅は非常に広いと思います。まさに「

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地獄への道は善意で舗装されている(SDGs・脱炭素)追記

地獄への道は善意で舗装されている(SDGs・脱炭素)追記

久しぶりのビジネスジャンルの記事です。SDGsと脱酸素の取り組みについて吟味してみます。

SDGsの利害関係 SDGsはとても立派でまっとうな内容です。デザインも優れていますよね。そして内容についても、解決した方がいいに決まっていることが書いてあります。そしてその規模感ゆえに、解決するためには「だれもが」取り組まないと無理だ、といえる内容になっています。つまり、賛同している国や企業だけでなく、人

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SDGsはバズワード?

SDGsはバズワード?

「そんなことはない」と思われるかもしれません。実際に企業のwebサイトでは投資や採用のページで、SDGsについて実業と紐付けていることは、好印象の材料になっています。

一方で、メディアで耳にすることが減ったというのは、ニュース記事の通りだと思います。実は過去に遡れば逆に、「なぜ急にSDGsが取り上げられることが増えたのか」というニュース記事があったりします。
今回はニュース記事とは少し違った角度

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知識と体験

知識と体験

知識だけでは役に立たない。大切なのは行動を変えることができるかだ。
よくある主張です。同じように……
頭で考えるじゃなくて、実際にやってみろ
言葉よりも実践
などがあります。このようなビジネスシーンでよくある主張は常識的で実際的。経験に裏打ちされたまともな意見だと思います。
ところが、分かりやすい主張である一方で、独断というか、前提としているものの曖昧さがありますよね。今回は、哲学的な観点から整理

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本質ってなによ

本質ってなによ

問題です。本質の反対語はなんでしょうか。
哲学の分野における正解は、現象になります。
ということで、今回は本質と現象について、ビジネスの場面を想定して考えてみます。哲学の用語理解を通して整理することで、複雑なビジネスの現場を、少しでもクリアにしてみようという試みです。

まずは言葉の意味

本質は、英語でいうとエッセンスですね。ものごとの「目に見えない」核心といった言い換えができるでしょうか。一方

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モチベーションについて

モチベーションについて

正確には、言葉の扱いについて、モチベーションという言葉を題材にして考えてみます。哲学研究者は言葉をとても丁寧に扱います。その姿勢というか、流儀でもって、ビジネス用語を吟味しようという試みです。ただし、吟味にはいっていくと私個人の考え方に偏るので、その点あしからず。

導入言葉には歴史がある

何か調べものをするとき、まずググるというのは私も同じですが、言葉(単語)を調べるなら、オックスフォード英語

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ダイバーシティへの哲学的アプローチ

ダイバーシティへの哲学的アプローチ

私などが、ビジネスにおけるダイバーシティを説明する必要はないです。その重要性を強調する必要もないでしょう。とても優れた記事を一つご紹介しておきます。

さて、必要がないのに取り上げるのは、哲学的に考えてみたいからです。
本来なら、ミシェル・セールの著作の紹介の後に記事にしようと思っていました。しかし、一応年代順に紹介していく方針上、ものすごく先になりそうだったので、フライングします。

ダイバーシ

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