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月ふたつ

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嬉しかったこと、楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと。生きてたら、みんなそれなりに何かある。それを全部ひっくるめて私という人間ができあがる。もちろん、あなたも。日常と、想…
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#人生

ふたりの日々

ふたりの日々

重たい灰色の雲が空を覆っている。まさに「どんより」という表現がぴったりの景色だ。吐く息は白く、凍えそうな空気が頬に痛い。春の訪れはまだ感じられず、たまにうっすらとさす日差しは、すぐにまた分厚い雲にかき消されてしまっていた。

そんな冬空の下、私たちは近所の川沿いの遊歩道を二人並んで歩いている。手にはたくさんの食料とお酒が詰まった袋を携えながら。つないだ手はひんやりと冷たい。「寒い、寒い」と言いなが

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いまこの時がすべてだけれど...

いまこの時がすべてだけれど...

いまこの時がすべてだから、精一杯いまを生きる。けれどいまこの時の思考や感情は、そのすべてではない。

それらは経験や知識を積み重ねていくことによって変化を遂げる。そして時が経ち、ふいに過去の「あの時」を思い返す。すると「あの時」には思いもしなかった感情や、その事が起こった意味、それによって得たもの。そういったことが不思議と次々と見えてくる瞬間がある。そしてストン、と心の中にあった何かが腑に落ちるの

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終わりを迎える関係

終わりを迎える関係

あと何回この悔しい思いをしなければならないのだろうか。虚しさが心のなかを占拠する。

そんなふうに簡単に人を切れるのか。そうか、そうだったのか。

これで自分のことを「人見る目が無い」なんて言ったら、それはいま私を支えてくれている人たちに失礼になる。じゃなぜ?

遅かれ早かれ決別の時はきたのだろう。そんな内容だった。

共感能力の欠如。おごり高ぶった心。損得勘定で決められた優劣のついた人間関係。

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いまこの時に

いまこの時に

雲のすき間から差す黄金色の光の柱。溢れだす光。神々しく輝くその光のまぶしさに目を細める。

離れてしまった大切な人。今そばにいてくれる大切な人。そのすべての人を愛しく想う。

おだやかな日々。めぐりゆく季節。私たちはみな幸せになるために生きている。

この美しい夕景に心満たされるような日々を、大切にしようと想う、いまこの時。今日という日が終わりろうとしている。

移ろう季節

移ろう季節

抜けるような青空。木々はほのかに色づき、澄んだ空気がひんやりと頬に触れた。透き通った美しい水が流れてゆく。とどまることを知らない、永遠の清らかな流れ。その流れゆく様を、ずっとずっと眺めていたくなる。

世界がどんなに困難な状況にあろうとも、季節はいつも通り移ろいゆく。今年もまた、美しい季節がやってきた。日々変わりゆくこの景色を一瞬たりとも見逃したくはない。この美しい世界にずっと身を委ねていよう。そ

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時の流れ

時の流れ

ずっと待ち続けていたその時を、もう待たなくていいことへの安堵と少しの罪悪感。そんなもの、持つ必要はないのだけれど。

ずっと望んでいたその時は結局来なかった。けれどおそらくそれを上回る時に巡り会えたから、きっとこの道で合っているのだろう。

私のこころの中に、きっとずっと居続ける人。忘れることはないであろうその人。

私の時は、おそらくあの瞬間で止まってしまっていた。動いてはいけないような気もして

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選択

選択

導きだされる答え。頭のなかを埋め尽くす無数の選択肢。なにが正解かを決めるのは自分自身。果てしなく続く、選択するという行為。決断できずに途方に暮れることもある。

幸せであるために生きているのに、終わりの見えない苦しみで、ときどき胸のなかがいっぱいになってしまう。

私は何をしたらいいのだろう。私に何ができるのだろう。しがらみの中に生きる。そんな世界はもうおしまいにしたいから、終わりのない選択をし続

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人生のスタート地点

人生のスタート地点

気づかぬうちに、自分の本当の感情や想いを押し殺していた。ようやくその事に気づいて、慌ててそこから抜け出した。いままではその場所がとても居心地のよい場所だと思っていたが、どうやら途中からは、自分で自分に「ここは居心地のいい場所だ」という暗示をかけていたようだ。疑問符はたびたび浮かんでいたのに、見て見ぬふりをしてしまった。ここに限ってそんなはずはないと。

ある事をきっかけに、それまで見えていた光景が

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何かを求めて

何かを求めて

よどんだ空気。汗ばむ首すじ。暗澹とした気持ちを抱えたまま歩きだす。

何を求めているかもわからない。わからないけれど、確実に何かは求めている。どこへ向かうべきなのか。彷徨えど答えは見つからず。

なぜこんなにも重苦しい気持ちを抱えているのか。その理由さえわからずにいる。いや、それは正確ではないかもしれない。正確には「わかろうとしてこなかった」だろう。自分と向き合うことが、なにかとてつもなく恐ろしい

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どんなに言葉を尽くしたとしても…

どんなに言葉を尽くしたとしても…

人は平等じゃない。

「どんなに言葉を尽くしてもわかりあえない人っているでしょう?」

その問いに、それは言葉が足りないだけだと言いきれてしまう人たちもいる。

そう言いきれる彼らのほうが幸せなような気もするし、羨ましいなと思うその一方で、どうやってもわかりあえない人がいるという現実を知っている私のほうが、この人たちよりは多少他人の痛みがわかるような気もしている。

彼らの「それは言葉が足りなかっ

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真夜中のおしゃべり

真夜中のおしゃべり

あのコは今も得意気に話してるみたい。本当のことから目を逸らしながら。誰かがそう言っていた。

キミは今日も自分のおしゃべりに夢中。まるで自分以外存在していないみたい。そんなに一生懸命、誰にむかって話してるの?まるで言い訳するかのように。

誰もキミのせいだなんて言ってないよ。だから聞かれてもいない言い訳はしなくて大丈夫。

暗がりにいる時間が多すぎたのかな。
明るい場所は苦手だなんて、神妙な顔して

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夏のせい

夏のせい

暑い。
うだるようなこの過酷な暑さに、私の頭が正常な判断をしてくれなくなった。まるで熱に浮かされたように。

あまりに久しぶりのそれは、思っていたよりとても素敵なことだった。

もうあの人に対しての罪悪感も感じなかった。
それくらいには時間は経ったのだと、実感した。
もともと罪悪感を感じる必要性など、なかったのだけれど。

あたたかさに、心から安堵した。
そのあたたかさは、私の中のずっと頑なに閉じ

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孤独の覚悟

孤独の覚悟

38歳の女性が独り身でいると言われること。

結婚しないの?
子供生まないの?

初対面の方に言われることもあって、しばしば面食らってしまう。

正直、私にはそこまでの結婚願望も、子供を欲しいという願望もない。
けれどそういった疑問を投げかけてくる方たちの大半は、本当はすごく結婚したいんだよね?子供も欲しいんだよね?しないと不幸になってしまうよ。まだできなくて可哀想に。
そういった物言いをしてくる

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愛を知った日

一緒に毛布にくるまりながら映画を見た。
君は途中で寝てしまったけど。
そんなきみの寝顔を見ていたら、なぜだか妙に安心したのを覚えている。

なんだか、もうずっと前からこれが日常だったみたいに。そうして2人で過ごすことが当たり前みたいに思えたのだ。

いま思い返すと、あれがすべての始まりだった。

あの時の光景を思い出そうとすると、いつだって、まるで世界が突如として煌めきを放ったように、あの場面がキ

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