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新・幻想小話 烏の沈黙③ 神よ酷い 神はいないのか いや、神の云う通りに 容易に家敷に足が進まぬと どすりと音がする 御隠居のヒサシに太猫が収まっている 目が合った気もするがたいして興味ない 一瞥す 手燈籠が珍しかったか 夜にふと 怪猫の調べ物をする 踊る猫又 手拭いを被る

新・幻想小話 烏の沈黙① 山が燃えているようだった 暁の焔が木々の階段を登ってゆくように 黒絵の間から艶めいた灯りが揺らいでいた どーん どーん 腹に響く太鼓の音 開けた途端に雨音 背中に冷たい風が吹いた からから ごとごと 風に転がされる何か 酷く悪い寝起き 来たのは歳神に非ず

新・幻想小話 烏の沈黙④ そういえば 手拭いを被る、そんな女がいたなと思い出す 最初は手拭いを絡げて 二度目は綿帽子で目を隠し 三度となく四角に折り込んだ箱頭巾を被り 洗濯物やら干していた 猫又は 死体をまたぎ 死に血を吸う 呪いをかけて成り代わる むんとした夕刻 神などいない

新・幻想小話 烏の沈黙② からから ごとごと 何かが風で転がる音 酷く悪い寝起き 来たのは歳神に非ず 烏はずっと静かだった 引きずり出すのはミミズであろう ただ低く飛ぶ 見ているとはぐらかされる 隣の地蔵が揺れている 龍雲が東に出ていたのを思い出す 烏はずっと鳴かなかったのに

幻想小話 第四十話

幻想小話 第三十五話

幻想小話 第四十三話

幻想小話 第三十六話

第二十四話 和魂 _夜、眼を閉じれば広がるのは葦の原 浮かぶ歩き草 見上げれば真上に高く半の月 泥茎の下にもウタヒメが休む 生半可な言葉では振り向かない 底に潜む瓶に震動して目を覚ます 一枚 また一枚 光の破片を私は紙に落としこむ 貴女を喚ぶのは幾度め 貴女に会ったのはいつの代か

幻想小話 第四十八話

幻想小話 第二十八話

第十五話 ふらん 澄(きよ)い水が流れている 沈んだ砂土の間でキラキラと金色が光る 親指の爪程もある『おたまじゃくし』が泳いでいるはずだった 太陽のもと彼らは金色の腹を打上げ絶命していた なんの仕業か あるいは水に戻せばまた泳ぎ出すかもしれなかった _夜 私の顔をヌラリと這うもの

幻想小話 第四十一話

第二十二話 華燭の典 私と万代はその日祝言を挙げた 虹にも雄と雌があるという 五色の虹龍が駆けつけ 門の間から月も覗いていた 契りの盃に花びらと ことほぎの梅の枝を手に舞う 天女の比礼と笛吹童子 万代の涙が一粒つたう 刻の声が牝鶏で不吉でも 欲しいまま 思うまま 私は生きるだろう

幻想小話 第四十七話 三六寺 精眼寺は散歩の帰りに回る事にした 行きがけに「三六寺碑文」を見つけた 気になっていろいろ調べたが手掛かりがない 視界が開けているのに雫が落ちて波紋する音 魚がはぜる飛沫と音、魚の尾鰭を脳裏に視る 銀杏の木の上に大蛇がいた 彼は翔ぶためにどすりと落ちた

第二話 下つ闇 気味の悪い雨が激しく降った後の闇夜 私は袖の中に両腕を隠して歩いていた 鼻歌で誤魔化して先を急ぐ 先の民家からササっと黒い影が飛び出でた 大きな商家と見える 姿なき娘があつらえて、仕付糸もそのままに、母御が売りに出す 他の母親が娘に買う度、その着物はどこぞに消える

幻想小話 第三十四話

第二十一話 穴二つ 妻と愛人が仲睦まじきことが 夫婦円満の秘訣 と言ってはばからなかったのは 武者小路実篤その人だったか 熱などと言うものはいつか冷めるもの 七日七晩、琵琶湖に裸で沈み 夫を呪って額に角を生やし鬼女となった姫は、深い嫉妬によりほんの数年で 年増の醜女となった 合掌

第二十七話 縛り曼陀羅③ その古本屋の戸をくぐると 私と万代は再び顔を見合せた 古本の棚の奥でなぜか脂と黄ばんだ汁が煮えている 薬草とは違うような、鼻の奥が痛む臭い まさか大黄とか? さらに『御勝手にどうぞ』の貼り紙と皿 お玉を掻き回すと、鶏の脂肉の欠片が入っている 屍カイセン中

第一話 筋違い 神田筋違橋での事 なにやら空が朱い夜でな 女が歩いてくる すれ違い はて、と思って 「もし娘さん」声をかけた 「どちらからきなすった?」 女は少し私を眺めて「森」と答えた 緋い足袋裏は成る程、土で黒い 「どちらへいきなさる」 「蘇芳の家」 そしてまたすたすた 逢禍

第三十二話 境界 硯屋の御堂は人がたの姿の曼陀羅布を背負うと、何もなかったかのように行ってしまった 「七福も付いていってしまった」 「文鎮だけに文鎮でしたわね」 代わりに置いて行ったのは硯屏風かと思いきや、香炉であった 「またなんの趣向を望みだろう」 「さあ?」 万代は刺繍に夢中

幻想小話 第四十六話

第二十話 行方 さる御新造さんの話である 明るく茶目っ気があるが、白地に黒抜きの蜘蛛の巣のような模様の着物をつけていて、個性的な人だ 私は万代にも仕立ててやりたくて、御新造さんを訪ねた 「あら」 御新造さんは飯の支度中だったらしく包丁を手にしている 後日その伝家の宝刀は川に沈んだ

第二十三話 窪み 門を出る 穴の中に鼻孔から上を出して 覗いている男がいる 「勝手に穴を掘られると困るのだが」 うわの空 しばらく行き振り返ると ズズズと穴が引きずられている 私は眼鏡を指で上げズレを直す どうにも引きずられているのは道のようで私は十歩すらも進んでいなかった

幻想小話 第三十九話

第三十三話 六境 サササササササ…ササササササササ... 竹の葉の擦れる音がする... 月明かりだろうか 身体の下にいる万代の顔がよく見える ではあの竹林の万代は誰か.. 私には万代にしか思えない 万代、篠笛を吹いていた 篠笛はどこにしまい込むのか 万代はなぜ、この庭に現れたのか

幻想小話 第五十話 越境、そして潮時 万代が本体として私とこの邸で過ごすよりも、万代の残映の影のほうが長居するようになった 万代本人は気付いてもおらず、話をしたら寂しそうに笑うのだった 私もどうすることも出来ぬのかなぁ、と鸞の頭を撫でるのだった そういえば、ぱたりと電虫が鳴かない

幻想小話 第四十九話 残映 竹林の夢から戻った私は間もなく 庭の茂みの陰で弱そうな鳥の雛を見つけたのだった 万代に見せると篭の中に布切れで巣を作ってくれ、私たちは世話をした ある日、いつものように懐の中に雛を入れて、私は部屋の前に立っていた 万代はおらず、影の薄い方の万代がいた

第二十五話 縛り曼陀羅① 近頃、黒いものが目の端をよぎる すばしこく、必ず目線を当てた方に出る 細かな黒虫が浮遊した場合は、身を引き締めねばならぬが、蝶々は寄りもせず白蛾はよく死に絶えている (地鼠め) 影身だけは送ってくる 万代が茶を淹れてくるが機嫌が悪い 悪いが私も機嫌が悪い

幻想小話 第三十八話

幻想小話 第四十二話

第三話(1) ひだるい さて諸君、第三夜にもなると 夜中にうろつく私の正体が気になってはこまいかな なに、夜中に天井に集り家族会議をする茶羽根虫 台所の欠けた砂糖甕に進軍する茶蟻だよ 切っても切っても切れぬタチ 学者の父の歩いた道辿り ここに地終わり叢に飴を落とす ひだる神の為に

第十三話 問答 「君もとうとう嫁を貰ったか」 普段寄り付かない奴がくる 障子の向こう側で声真似か 「僕は文学を解さない奴は人と思わない」 「親切で言っている」 「仕事の邪魔するな」 「影踏まれたくせに」 「しっぽは掴んでいる」 私は空瓶を外に放る 「走って汗かいて解毒してこいよ」

幻想小話 第四十五話

第三十話 縛り曼陀羅⑥ 襖障子を開けると曼陀羅布は人の形をなして座している 頸 胴 大体の所ではた結びされた紐を区切りに、丁度良く膨らんでいる 畳の目を手繰ってもぐり込んで来たのだろう 御堂と言う男が新しい硯屏風を持ってきた 「頼んではいないが」 男はまあまあ怪しいが 縁であろう

第二十九話 縛り曼陀羅⑤ しばらく穏やな日々を送る 万代が面白い帯を見つけたそうだ 予言獣「件」の手描きの帯だという 「面白そうだけど使用頻度優先。あと好みと直感。朱い松の帯も良かったのだけれど」 朱い松か 朱とは元々色を示す漢字ではない 赤も・・ 座敷のソレは曼陀羅布を見つけた

第十四話 同化 気配が消えた 障子の隙間を覗くと、白塗りの裸があたふたと走ってゆく。 頭がないがな それでよく走れるものだ 眠れない つらつら考える じゃあ眠るな 走って汗をかけ そのうち眠ってるさ 三文小説とはよくいったものだ 物理的な話、書かねば作は生まれぬ 眠らねばいられぬ

第十九話 路地裏④ この目の前にいる不可解な男は誰だ 「亜巻が暗闇で迷うこと自体が変なのだ。お前誰だ?」 妙なことに口が引っ張られるように力のある男だ 「鍋嶋・・ゆたか」 「バカ野郎!人の名前返しやがれ」 男は私から名前の入った守り袋のヘソの緒を踏んだくると 走って行ってしまった

第十八話 路地裏③ 寝静まる長屋の前で、私はひそひそ話す 妙な違和感を覚える 「お前、撫嶋か?」 「いや、じいさんが憑依している」 あっさり答えた 「憑依していたら口は割らんだろ、からかうなよ」 「そういうお前は、本当に亜巻 ソウイチロウなのか?」 逆に聞かれて面食らう

第七話 ひだるい(2) その山男は言い伝えを守り 山に仕事に行く時は必ず、弁当を一口残して山を下りる 下りきった後に、残した一口を子に与えていた 一口残した弁当はひだる神のため 山を下りた後 ひだる神も一緒に下りたのかも知れぬ 娘は年々痩せ細り、年頃だと言うのに枯れ木のようである

第十二話 穴埋め 我が家では雨戸のことを、戸ぼうを閉める(しまう)という 今夜は障子の向こう側で月夜に照らされ明るい 私は身体の下に組敷いた陶器のような女の顔を見る 触れるとしっとり冷たく心地よい 先頃庭にいた女の名は『万代』 家系の辻褄合わせに貰い受ける 埋める穴などないのだが

第四話 道返り 「どう見ても棒なんだが玉だと言うのかね」 私はそれを握って宙に振ってみる 道返し玉 躯から離れそうな魂を引戻すと言う神宝 この男が持ち歩くことに 私はいささかの疑念もない この男が持っていてもなんの違和感もない 間違った者が相応しい使い方をすると この国は混乱する

第九話 生き写し 「ねぇ先生殿、あなたおとつい、揚げ饅頭屋の前にいませんでしたか」 私は首を振る ここ数年聞かれることが多い こんな狭い町で、両隣とその隣の町まで、私にそっくりな人間がいるとは 六人がそう言うのだから、そうなのだろう ただ不思議にもその『私』は違う名で暮らしている

第十七話 路地裏② 暗くて顔が見えないのだが、髪・顔についている眉毛・歩き易そうに絞り縫いされた袴姿の輪郭は、なるほど撫嶋だ 「何をしている、こんなところで」 声のでかい撫嶋にハラハラし小声で 「いや明るい所を探しているのだ」 「やっぱりおかしい奴だな。堂々と歩けぬなら出歩くな」

第五話 金縛り(1) オン コロ コロ センダリ マトウギ ソワカ・・ 私は密かな願いを込めるが、とたんに口が重くなり 所詮無い物ねだりと諦める 濃い闇の中で、空気に押さえつけられた身体は重くなり、動かない 耳元に見なくてもわかる、いる 私はきっちりと両目を閉じる眉間に力を込めた

第十一話 門違い 私は夏の午後たもとに両手を入れて組み さてどうしたものかと思案顔 道端の屋敷の垣根に一ヶ所 裏からの出入りに使ったものだろう 木板と鉄棒でバツ印に封印がされている 二匹の蛇がバツ印をなぞるように這う 日陰で居心地が良いとみえ寛いでいる 君らは門兵申請してないぞ

第六話 金縛り(2) 黒い筋肉質のタールのような人の型をしているが、人ではない。おそらく口から上はない (声が・・出ない。く・る・し・い。恐ろ・し・い) それでも恐怖と戦う (か・・ん・・じ・・ざい・・ぼー・・さつ・・はん・にゃ・・ 一語一語振り絞る やがて滑り出し、空気が斬れた

第二十六話 縛り曼陀羅② 《ジー‥ワワ‥ ジー‥ワワワ》 うだりかけた夏 私と万代は連れ立つ 「腹は空きませんか」 私は万代に聞いてみた 暑いので要らぬだろうが、水菓子でも 万代は顔を上げて古本屋を指す なぜか『氷』の垂れが なんとも 私と万代は顔を見合せて、入り口をくぐる

第八話 寒気 ジジジジジジジジ 虫が鳴いている 夏、ではないと思うのだが 森のような庭ではあるし 気温が高いと冬だろうが鳴くのだろう 鶏でさえ昨今は夜中から鳴く なにかがやって来たのかも知れぬ 私も莫加ではない 美しい女が庭にいたら可笑しいだろう いっそ妻に娶るか

第十六話 路地裏① 東向島の夜は暗い しん・・・と寝静まる中 自分の足音がいつしか後ろから聞こえてくる 闇の中でも黒く浮かび上がる軒沿いに蛇行する 私はその中にぼう・・と霞む白光の場所を覚えていて、探していた 「おい、亜巻」 ふいに呼ばれ、「俺だ、撫嶋だ」 「ああ、なんだ撫嶋か」