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雑誌「1番近いイタリア」

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雑誌「1番近いイタリア」に関する記事。 マンマのイタリア家庭料理研究家Aoi Aurora、こと中小路葵が編集長を務める季刊誌です。 コンセプトは「日本の家庭で楽しむイタリア料…
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記事一覧

編集後記(「1番近いイタリア」2024年秋号より)

編集後記(「1番近いイタリア」2024年秋号より)

※こちらは「1番近いイタリア」2024年秋号の編集後記より抜粋です。

遠い父と母から、幼い私の写真が送られてくる。あと二十日後に迫る結婚式で、スライドショーを流せるように、頼んでおいたのだ。生まれた時の体重が書かれた新生児の私、初めて祖母が私を抱く姿、両親と両祖父母とのお宮参り、弟が生まれ、新築の我が家の玄関前で撮った幼稚園の制服姿の二人、お祭りの日の浴衣の二人、いとこ全員が並ぶ庭、幼稚園のお遊

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「1番近いイタリア2024秋号(Vol.19)」刊行!

「1番近いイタリア2024秋号(Vol.19)」刊行!

「1番近いイタリア」2024年秋号を刊行!

今号ではや第19号、温かい読者の皆様に支えられていることに感謝です。

イタリアで見つけた「土地と生きる食の豊かさ」を、皆様に生の魅力たっぷりでお伝えできれば幸いです。

さて、今号はいかに!

2024年秋号巻頭エッセイは「海のないボローニャに」、ボローニャから始まる物語の場面を綴りました。

マンマのレシピ集、今号のテーマ食材は「キノコ」。
キノコ

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海のないボローニャに

海のないボローニャに

※この記事は「1番近いイタリア」2024年秋号の巻頭エッセイからの抜粋です。

軽くグラスを合わせ、共鳴する音を楽しむと、目を合わせ、ゴクリと一口飲む。運ばれてきた魚のフリットを、すぐに竹串で口に運ぶ。泡のピニョレットがドライで心地よく、絶品の海の料理たちに心を踊らせる。今夜は特別にボトルで頼んだワインが底をつくまで、時折テラスに入る秋風が、色んな思い出を運んできてくれる。今日は私たちの記念日だ。

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編集後記(「1番近いイタリア」2024年夏号)

編集後記(「1番近いイタリア」2024年夏号)

※こちらの記事は「1番近いイタリア」2024年夏号の編集後記の抜粋です。

何でもない平日の夜、何をするわけでもない。エアコンを消して、窓を開け放すと、昼間の暑さが嘘のように、夜風が気持ち良い。普段はダイニングの置物になっているテレビだが、今だけはオリンピックの歓声が聞こえる。一緒に買い物行って、洗濯して、作ったご飯を囲んで、これからゴロゴロして、映画でも見ようか。そんなたわいもない、普通の日。そ

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「1番近いイタリア2024夏号(Vol.18)」刊行!

「1番近いイタリア2024夏号(Vol.18)」刊行!

「1番近いイタリア」2024年秋号を刊行!

今号ではや第18号、温かい読者の皆様に支えられていることに感謝です。

イタリアで見つけた「土地と生きる食の豊かさ」を、皆様に生の魅力たっぷりでお伝えできれば幸いです。

さて、今号はいかに!

2024年夏号巻頭エッセイは「エルバ島の月、太陽、また月」、お誕生日にエルバ島を旅した時の短編です。

マンマのレシピ集、今号のテーマ食材は「貝」。
貝を使っ

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エルバ島の月、太陽、また月。

エルバ島の月、太陽、また月。

※この記事は雑誌「1番近いイタリア」の巻頭エッセイからの抜粋です。

何ヶ月前のことだっただろう。お誕生日の前後の5日間は予定を開けておいてねと言われたのは。どこに行くかはシークレットで旅行を計画しているからと。海に行くから水着を持ってとだけ指示を受け、荷物は最小限にしてバイクで旅に出た。と思ったら、車庫の鍵を閉めたか思い出せないと、来た道を戻る。なんだか小さい頃、私の父が遠出をする時に度々同じこ

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「1番近いイタリア2024春号(Vol.17)」刊行!

「1番近いイタリア2024春号(Vol.17)」刊行!

「1番近いイタリア」2024年春号を刊行!

あっという間に第17号、温かい読者の皆様に支えられていることに感謝です。

イタリアで見つけた「土地と生きる食の豊かさ」を、皆様に生の魅力たっぷりでお伝えできれば幸いです。

さて、今号はいかに!

2024年春号巻頭エッセイは「カーブを曲がると」、トスカーナ州をバイクで旅した時の短編です。

マンマのレシピ集、今号のテーマ食材は「リコッタチーズ」。

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編集後記「1番近いイタリアvo.17 2024春」

編集後記「1番近いイタリアvo.17 2024春」

雲に隠れまいと橙色の光を放つ太陽は、オリーブが所々見える平原の向こうの海に吸い込まれるように、あっという間に沈んでいく。5日前と同じ道を走る。今日は夕日を左側に見ながら。そして、今日は歳を1つ重ねた私が。島から本土に戻り、ボローニャに帰る道は、5日前と確かに同じ道で、でも不思議なことに、たった5日前が遠い過去に思えるくらいには景色が違って見えた。

30歳のお誕生日には、行き先シークレットの旅行が

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カーブを曲がると

カーブを曲がると

体を傾け、カーブを曲がっていく。顔を切っていく空気の味が知りたくて、鼻で大きく息を吸ってみると、新しいヘルメットの匂いと新緑の木々の香りが混ざり、とてつもない初々しさに包まれる。通奏低音のエンジン音に、風の音、時たますれ違う車の音が反響する。寒さと緊張でキュッと体をこわばらせ、そんな私を置いてかないように優しい足取りで進み続ける。再びカーブに差し掛かり、体を傾けて曲がっていく。

4月、バイクでは

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編集後記(「1番近いイタリア」Vol. 16 2024冬号)

編集後記(「1番近いイタリア」Vol. 16 2024冬号)

フェイスブックに「2年前の思い出」として、ボローニャに着いた日の写真が上がってきた。駅のホーム、赤い高速列車、食べたパニーニ。あれからちょうど2年。大学院を卒業して、ボローニャに残ることを決めて、ボローニャに家を買ったり、ボローニャ大学の博士課程に進学したり。広く17州の家庭を訪ねたり、深く農家料理を研究したり。失恋したり、新しい恋が愛に変わったり。自分にとっては激動の2年で、赤ちゃんが生きていく

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「1番近いイタリア2024冬号(Vol.16)」刊行!

「1番近いイタリア2024冬号(Vol.16)」刊行!

「1番近いイタリア」2024年冬号を刊行!

あっという間に第16号、4年目に突入しました。
温かい読者の皆様に支えられていることに感謝です。

イタリアで見つけた「土地と生きる食の豊かさ」を、皆様に生の魅力たっぷりでお伝えできれば幸いです。

さて、今号はいかに!

2024年冬号巻頭エッセイは「カターニャの煙」、シチリア島かターニャでの短編です。

マンマのレシピ集、今号のテーマ食材は「海の魚

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カターニャの煙

カターニャの煙

目の前の通りに出た大きな炭火焼きコンロからもうもうと上がる煙に、まだ高い太陽からの光が乱反射する。煙の向こうには大きな体をした肉屋の店主が忙しそうに手を動かす姿が霞んで見える。通りに並べられたプラスチックのテーブルには高校生くらいの若者が輪になり、たっぷり肉が詰まった大きなパニーニを頬張る。煙の中をテーブルを縫うようにウェイターさんたちが足早に料理を運ぶ。私たちのテーブルの横をまた一人、お皿を抱え

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「1番近いイタリア2023秋号(Vol.15)」刊行!🇮🇹🎉

「1番近いイタリア2023秋号(Vol.15)」刊行!🇮🇹🎉

「1番近いイタリア」2023年秋号を刊行!

あっという間に第15号。
温かい読者の皆様に支えられていることに感謝です。

イタリアで見つけた「土地と生きる食の豊かさ」を、皆様に生の魅力たっぷりでお伝えできれば幸いです。

さて、今号はいかに!

2023年秋号巻頭エッセイは「ボローニャの秋晴れ」、甘くて苦い、ボローニャでの短編です。

マンマのレシピ集、今号のテーマ食材はカボチャ。
豪華に10品

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ボローニャの秋晴れ

ボローニャの秋晴れ

※この記事は「1番近いイタリア2023年秋Autunno」の巻頭エッセイからの抜粋です。

数日前にボローニャに帰ってきた。つい先日までまだ真夏の暑さにうだる日本にいたのが嘘のようで、空高く乾いた涼しい風が木の葉の間を抜け、さわさわと知らぬ顔で音を立てるのが一層淋しい。眩しすぎる朝日に目を覚ます日はもうそこにはなく、目を開けば遠くから陽が差し込むだけだった。季節までもが私を置き去りにしてしまったよ

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