マガジンのカバー画像

きみとめ文庫

13
残しておきたい、クリエイターさんの作品。
運営しているクリエイター

記事一覧

「詩」 通路

 ホテルの食堂に向かう廊下で、知り合いに似た誰かとすれ違う。すれ違う瞬間、歩く速度を落とし、懐かしい髪や肩のまぼろしを通過させた、からだは知らぬ間に傷ついている。

 振り返っても、見覚えのある後ろ姿はすばやく角を曲がってしまい、誰もいない耳の通路を、しん、とした冷気が抜け、目の奥からしだいに音が聞こえてくる。じんじんじんじん、と、蟬の翅の震えのような、直射日光の熱の痛みが。

 これは死ぬまで寄

もっとみる
【創作】シェイクスピアの旅行記【幻影堂書店にて】

【創作】シェイクスピアの旅行記【幻影堂書店にて】

 
 
雨の日のいつもの帰り道、光一はその古書店を見つけた。
 
こんなところに本屋なんてあっただろうか。なぜ住宅街の真ん中にこんな古ぼけた書店があるのだろう。

光一はそう思う間もなく、吸い込まれるように、本屋に入っていた。

中は落ち着いたアンティーク調の家具や本棚に、本が山と積まれている。大きな蓄音機があり、壁には古い地図のような物も飾ってある。薄暗い照明で落ち着いていて、心地よい暖かさだっ

もっとみる
大奥(PTA) 第一話 【第一章 吹き矢のゆくえ】note創作大賞参加作品【ご紹介、大歓迎】

大奥(PTA) 第一話 【第一章 吹き矢のゆくえ】note創作大賞参加作品【ご紹介、大歓迎】

あらすじ

本編

【第一章 吹き矢のゆくえ】 <プロローグ> 

 大奥(PTA)、それはお子を人質に取られるがゆえ、一度入ったら二度と逃れる事が出来ない女の牢獄。女の怨みの骸が、そこここに散らばっておるのでございます。

 いづれの御代に御座いましたでしょうか。御吟味方(選出委員)が決まらぬ場合、吹き矢(くじ引き)にて選ぶ運びとなり、ここ大奥(PTA)は混乱の極みとなっておりました。

「どう

もっとみる
創作大賞2024「はらからの恋」一章前編

創作大賞2024「はらからの恋」一章前編

これは、同一タイトルで人物名や要素が共通する別の物語を展開して、見た人の感想が異なる状態を作ろうという試み、「玉虫企画」の一編です。
(今回は規約のためにタイトル名を分けています)

関連作:
消えた昨日の犯人(ミステリー)
雨の日の邂逅(スラップスティック)

あらすじ

一章前編
一章後編
二章前編
二章中編
二章後編 了

本文

 春。それは出会いの季節。
 めでたく高校に進学できた僕こと

もっとみる
行間男

行間男

 俺はいま本を読んでいるところだ。

 主人公は四十二歳の男で職業は会社員、いまのところわかっているのはそれだけだ。

 男の顔立ちや性格がわかるような、具体的な描写はいっさいない。作者が怠けているのか、それとも何か別の意図があるのかはわからないが、俺はそいつの顔を知りたいし、そいつと話をすることができたらいいのにと思っている。

 もちろん、そんなことができないのは知っている。ただ俺はいま、ずっ

もっとみる
【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』1章

【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』1章

剣を振り下ろす。モンスターにダメージが入る。
モンスターが弱る兆しが見えた。
僕らは追撃を開始する。
どのモーションも全て無意識にコントロールできる領域だ。
人間の脳はすごい。
ゲームコントローラーを使用して、コマンドを入力。
あくせくと労働のようだ。
このままのペースでモンスターの体力を削ることができれば、あと5分と持たずに討伐できるだろう。

「そういや、ツリバリ」

マイクヘッドホンを通して

もっとみる
はじめてアニメを作りました。後生だから見て下さい。

はじめてアニメを作りました。後生だから見て下さい。

去年作り始めたアニメーションがやっと完成しました。
イラストを描いていたら
「これを動かしてみたいぜー!!」
と思って試行錯誤しながらコツコツ作ったやつです。

初めて作ったアニメーション。
胸を張って見せられる立派な物ではないですけど、我ながら頑張ったのでお披露目します!
音も付けましたのでぜひ音声ありでご覧下さい。
そして目を皿のようにして何とか褒められるポイントを探して僕を褒めて下さい(-᷄

もっとみる
マナリです。創作大賞への私の応募作をまとめました。

マナリです。創作大賞への私の応募作をまとめました。

マナリです。
いつもありがとうございます。
ここで今回の創作大賞への私の応募作を以下のようにまとめました。
ご興味にある方は、以下をご参照いただければと存じますので、何卒宜しくお願い致します。

恋愛小説部門1.マナリ恋愛短編集1【あらすじ】
私マナリが恋愛を色々な形であらわす短編集。 #1 . full moon #2 .  東京スィートコーヒー #3 . 寄り添う気持ち #4 . Just

もっとみる
海面清掃船の女

海面清掃船の女

「船長、あの噂本当なんかい?」
「ああ、本当らしいっしょ」
「でも、女で出来きるんかいのぉ。こん仕事」
 そう言って、航海士の杉山は双眼鏡を手にして浮遊ゴミの行方を追い始めた。昨日の大雨で紀ノ川が出水し、大量のゴミが海に流れ込んだ。海面清掃船「紀州丸」は小さな船体を揺るがせて速度を上げる。北港の魚釣り公園を過ぎた辺りまで達すると、杉山の視界に浮遊ゴミが現れた。
「おー、あったあった、あったっしょ」

もっとみる
ゴジラの夢1.原っぱの四季

ゴジラの夢1.原っぱの四季

 うすぐもりのある日曜日のことだった。
 原っぱに近所の男の子がほぼ全員集合した。大きい子たちが何やら話しあっていたと思ったら、突然全員が二大集団にわかれて、壮大なちゃんばらごっこがはじまった。棒切れをふりまわして、あっちの庭からこっちの庭へ、生け垣をのりこえてなだれこみ、便所の角で待ち伏せし、庭木をたてに対峙した。一年生のはなたれ坊主から、おとなに近い六年生まで、声をからして叫び、息を切らして走

もっとみる
ゴジラの夢2.山羊の記憶

ゴジラの夢2.山羊の記憶

 この世で最初の記憶は大きな白いヤギである。市場へ買い物に行く道すじにいつもいて草を喰っていた。ヤギは真っ白で、見上げるように大きかった。私はこわくて、母親の手にしがみつきながら通ったものだ。
 小学生になってから叔父さんの勤める大学の構内で、つながれて草を喰っているヤギを見た。
 「これ、こどものヤギ?」
 「おとなだよ」
 と叔父さんが言った。
 そういえばひげも角もあるからおとなにはちがいな

もっとみる
夏休みの読書感想文でお金を稼いだ思い出

夏休みの読書感想文でお金を稼いだ思い出

読書感想文がテーマのイベントをみかけると、いつも思い出すことがある。子供の頃、他人の読書感想文を書きまくって大儲けをした記憶だ。後にも先にも、人生であんなにたくさんの感想文を一度に書いた機会は他にない。

私が小学3年生の時だった。我が家はとても貧乏で、いろいろな事情により引っ越し、転校を繰り返していた。

どのくらいの貧乏かというと、家族4人で2LDKのアパート暮らしで、エアコンもなく、食卓には

もっとみる
100億円を捨てて僧侶になった東大卒の元IT起業家に会ってきた話。

100億円を捨てて僧侶になった東大卒の元IT起業家に会ってきた話。

小野龍光さんをご存知だろうか。彼はもともとの名前を小野裕史さんといい、数々の有名企業の設立に関わった起業家である。

ところが2022年に突如としてすべての役職を退任しインドで出家(得度)。現在は僧侶となっている意味不明の経歴を持つ方だ。

小野さんは北海道札幌市の出身で現在49歳。彼が設立した企業の中で有名なものを挙げると「17LIVE」そして「ジモティー」がある。

え? あの? そう、あの。

もっとみる