えるも

変な小説を書いています。

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    どっから読んでもオッケーです。

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    note的にはちょい長めですが、一般的には短い小説

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三階の部屋

「三階の部屋」  会社の使いに出されたさきで、いつも見かける三階建てのビルがある。  左右を高層ビルにはさまれた、東京でよく見かけるタイプの細くて小さな建物だ。  屋上には老舗のせんべい会社の看板 がかかっており、一階と二階は、どこかの会社のオフィスに使われているようだ。奥の方にスチールラックがあって、そこにはぶあついファイルや段ボール箱が置いてある。彼女は一度、パソコンをのせたデスクに座っている人を見かけたことがあった。    ビルの横から会社の名前のついた出っ張りが出て

    • 【小説】奇妙な会社 「真夜中に始まる」

      「奇妙な会社」  うちの会社って真夜中から始まるんだよね、と高梨が言った。 ★ 「時間をなくした高梨」  その一月前のこと。  高梨の目覚まし時計が鳴っていた。デジタル時計じゃなくて、ええっと、丸い形の文字盤の上にボクシングのゴングのようなものがふたつ並んでいて、約束の時間が来るとゴングの真ん中にあるトンカチの役目をした小さな棒が、かんかんと左右に振れて音を鳴らす、とてつもなくうるさいやつ。こんな説明でわかります?  高梨は布団から右手だけ出すと、畳の上をさぐるように

      • 9月はじめにぶつけた足が、捻挫かと思ったら骨折でした。 完全に治るまで時間がかかるそうで、しばしお休みします。 たまにのぞくけども… 今後は、投稿ものんびり、読むのものんびりしようと思います。

        • 奇妙な会社「誤配達社員」

          午後、会社に宅配人がやってきた。 お荷物です。 荷物はどれですか? これです。サインをおねがいします。 はい。 サラサラと、秋田さんがお気に入りのボールペンでサインを記す。 それで、荷物はどこです? ここにあります。 え?これって? 荷物はこの人です。この、青白い顔をした女の人です。 ええっと、そう言われましても。 配達人は出ていく。 あのう、あなたはどなたですか? 頭ををふらふらさせて倒れそうになる女の人だ。 どうしようと、どうしようと課内は大騒ぎになる。といっても秋田

        • 固定された記事

        三階の部屋

        • 【小説】奇妙な会社 「真夜中に始まる」

        • 9月はじめにぶつけた足が、捻挫かと思ったら骨折でした。 完全に治るまで時間がかかるそうで、しばしお休みします。 たまにのぞくけども… 今後は、投稿ものんびり、読むのものんびりしようと思います。

        • 奇妙な会社「誤配達社員」

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          奇妙な会社「白いタオル」

           ベランダにはもうこれ以上干しきれないほどの洗濯物がたなびいていたが、新しい洗濯物は待ってくれず、彼女が乾きはじめたタオルに手を伸ばして空間を作り出そうとした瞬間、真っ白いタオルがひらひらとベランダから落下していった。  庭の植え込みの間にとどまってじっと動かないタオルはもはや土にまみれてしまったのだから、もう一度ざっと手で洗って脱水をかけて他の洗濯物に紛れさせてしまおうと思ったところで、猛烈な眠気に襲われた。  それは毎日同じ時刻にやってくる悪魔のようなもので、彼女には慣

          奇妙な会社「白いタオル」

          奇妙な会社「身長」

           その会社は遠いところにあったのですが、いまでは遠くはありません。でもそのころの私は 遠距離通勤に憧れて、遠い町まで面接を受けに行ったのです。面接室は、寒くて広い部屋、背の低い男の人が面接官でした。 「わが社はでんとうてきに、身長百五十・1センチ以上ある人は採用しないのです」   平仮名と中黒と漢数字とアラビア数字の混同した答えが帰ってきて、私はとっさに答えていました。 「私の身長は、百四十九てん七です」 「いえいえ、あなたはたしかに百五十てん二せんちあります」 「どう

          奇妙な会社「身長」

          【小説】 変心 

           小さな飲み屋で、男が一人酒を飲んでいる。仕事が終わると毎晩ここで一杯ひっかけて、部屋に帰って眠る。その繰り返しだったが、その夜はいつもとすこし違っていた。  常連だらけの店に、背の高い髭もじゃの男が入ってきたのだ。どうやら異国の人のようだ。まっすぐ男のところにやってくると、 「となりに座ってもイイカ?」  そう尋ねられた男はすこしばかり妙な気がしたものの、遠い国にきて人恋しいのかもしれないと荷物をどけて髭男の席を作ってやった。 「日本語は喋れるのかい?」 「だいたい、ダイ

          【小説】 変心 

          【短篇小説】 夜明けの引越し屋

           半額まで値切った引っ越しが、何度もキャンセルがあってようやく日程が決まったのはいいんだけど、開始は朝の七時になりますって言われたときはさすがの俺もあせった。焼き菓子を持ってアパートの住人全員にお詫びがてら配ったりして、結局高くついたよ。  真夜中に抜き足差し足で荷造りを済ませると、なにもなくなった部屋の壁に寄りかかって、約束の時間を待つことにした。すぐに眠りがやってくると思ったのに、かわりに押し寄せてきたのはこの部屋で過ごした歳月だった。  不動産屋から鍵だけ預かってひと

          【短篇小説】 夜明けの引越し屋

          【ショートショート】 真夏の買いものメモ

           真夏のなかでも、一番暑い日のいちばん暑い時刻にする買いものメモを、ここに発表します。  ガムボールマシンのガム(ただし白だけ)  正方形がただしくない折り紙百枚  元・校長先生のサイン入り鉛筆  品物をカゴに入れたら、「練習中」とかかれたバッジを胸につけた、ポニーテールが大きすぎる女の子のレジに並びます。  ただしその列は人気だから、とんでもなく長いんですよね。もし、どうしても待てなかったら(見たいドラマがあるのに録画を忘れたとか、炊飯器の保温スイッチを切り忘れたとか)

          【ショートショート】 真夏の買いものメモ

          【小説】 途中から見たドラマ

           一、  彼は左手でリモコンを手にとってテレビを点けた。利き手である右手にはコーヒーがたっぷりはいったマグカップを持ったままだったので、リモコンの操作がままならない。夜の十一時を過ぎていて、テレビからはドラマらしき映像が流れてくる。もはや物語は半ば近くまできてるな、と思いながら彼はコーヒーを口に含んだ。  ドラマの中では、なんのことかわからないセリフが飛び交っている。当たり前なんだけど、こっちの気持ちにおかまいなく、笑ったり驚いたり、突然走り出すものまでいる。  箪笥にしまわ

          【小説】 途中から見たドラマ

          【小説】眠れない部屋

          「眠れない部屋」  眠れなくなってから、ずいぶんになる。  ストレッチとか瞑想とか、眠るためだけにやっているのかと思うとなんだか腹が立って、俺は思わずベッドの上で大の字になってうなってしまう。  どうせ眠れないのなら、頭の中に自分だけの部屋をつくりだして、そこでだらだら過ごしている自分を想像して楽しむほうがいい。  最初はどでかくて豪勢な家具がならんでいる部屋にしたんだけど、いつも同じソファで寝転んでいることに気がついてやめた。試行錯誤のすえに出来上がった部屋は、寝室とリビ

          【小説】眠れない部屋

          【小説】五丁目のチラシ

           仕事から帰ってポストを開けると、一枚のチラシが入っていた。 「裏通り安全の日」  五丁目にお住まいの皆さんへお知らせです。毎月第三木曜日は、裏通り安全日です。  自転車で裏通りを心ゆくまで走れます。参加希望者は、下記の電話番号まで。   わら半紙に、そんなそっけない文言が印刷されている。  五丁目に住んで五年になるけれども、いままでこんなお知らせが届いたことはなかった。裏通り安全の日というからには、気兼ねなく裏道を自転車で走れるのだろうか?  ちなみに私は電車やタクシ

          【小説】五丁目のチラシ

          【小説】いたみおとこ

           今日も電車で、俺は最後尾の車両のいっちゃんはしっこの席を確保することに成功した。  席に座ったら、すぐに寝る。スマホなんか見ない。座っていられるのは6駅。ていうか、6駅で俺の住む家のある駅につく。寝過ごしたことは一度もない。  しばらくすると、へんな気配で目が覚めた。電車は止まっていてアナウンスが3つ目の駅にいることを告げているところだった。首を90度に曲げたまま薄目を開けると、擦り切れた黒の革靴が、踵を上げたり下げたり左に左にずらしたりしているのが見える。俺の前に立ってい

          【小説】いたみおとこ

          【ショートショート】罰待合室

           罰を受けることになった私は、「罰待合室」に入れられた。  誰かが廊下を歩いてくる足音が聞こえる。あれは看守だろうか。カツコツカツコツ。灰色の床に足音が響く。やがて、私のいる待合室の前で止まった。ついに罰を受ける時がきたらしい。震える手を、拳を握りしめることで抑え込んだ。  しかし、グレーの帽子を被った看守が口にした言葉は、私の予想を裏切った。 「罰までだいぶ時間がある。悪いがもう少し待ってくれ。これでも読んでいるといい」  看守は、小さな木戸から分厚い本を差しこんできた。

          【ショートショート】罰待合室

          【小説】見覚えのない写真 最終回 すべての景色は、間違っている 

           エレベーターが再び4階から下降したとき、小野は思い出していた。  Aと喧嘩をしたのは自分ではなく、Sだったことを。  ある冬の日に、ふたりは授業をさぼってドライブに行った。たしか、Sが兄だか姉に頼み込んで借りた車で。その車に、小野は乗っていない。  どこかのインターチェンジから首都高に乗って、川を超えたあたりでトラックが積荷を撒き散らす事故が起きたそうだ。それで首都高はひどく渋滞した。途中のドライブインで何か食べよってと言ったのにさ、どうせならもっとおいしいとこで食べたいっ

          【小説】見覚えのない写真 最終回 すべての景色は、間違っている 

          【ショートショート】あたらしい電話番号

           あたらしい電話番号になったら、朝から晩までじゃんじゃん間違い電話がかかってくる。    間違いだと言う前に、みんな人生相談をはじめてしまうので困る。どうやら人生相談屋と似ている番号で、チラシに間違って私の番号を印刷したらしい。なので片っ端から、適当に答えている。    それが先週から、一度も相談電話がかかってこなくなった。  相談屋、新しいチラシを入れたのかな。  ちょっとさみしいなと思いながら久しぶりの静かな家で、そうめんの薬味に悩んでいたら、相談屋が水ようかんを持って詫

          【ショートショート】あたらしい電話番号