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九段下パルチザン / ビブリオテーク・ド・キノコ・マガジン

九段下の図書室・ビブリオテーク・ド・キノコを主催するふたりが発行する書籍と読書・蔵書に関するマガジンです。購読後1ヶ月無料で読むことができます。 新しく入庫された本や、最近読んだ…
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#100日チャレンジ

味覚と記憶 | weekly vol.0096

味覚と記憶 | weekly vol.0096

今回はエッセイ風味です。

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「生まれたときからアルデンテ」という本があるが、食に貪欲なひとというのはけっこう多く、食い意地というのはただお腹を満たせばいいというわけではなく、より美味しいものを、より美味しい方法で、と欲深くなっていくものらしい。そして、食べ物の恨みは恐ろしい、という言葉があるが、それほど食い意地の張っている人の執着は凄まじいということだ。実際に、自分のことを反省してみても、

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幻想 | weekly vol.0094

幻想 | weekly vol.0094

「だから言ったじゃないか」
これは私が嫌悪している彼の口癖の中でもトップに位置するセリフだ。
この一言には自分は予めこうなることを予知していたという傲慢さと、それを忠告にも関わらず実行し、予知された結果を甘受せざるを得ない私への嘲笑が込められており、とにかく言われると腹が立つのだ。それなのに私は反論もできず、呆然としてしまう。しかし、そのような日々も間もなく終わりを告げる。そう、私は彼をおいて一人

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戦争がはじまってから、終わるまで。|BiblioTALK de KINOKO vol. 010

戦争がはじまってから、終わるまで。|BiblioTALK de KINOKO vol. 010

この告知は、うでパスタが書く。

この記事は、ウィークリー・マガジン「九段下パルチザン」の定期購読者限定YouTubeLIVE配信の告知記事です。
YouTubeLIVE配信「BiblioTALK de KINOKO vol. 010」は、2021年3月22日(月)20:00より配信予定です。配信URLはこの記事の末尾に掲載されています。

仕事を休んでフェスに行くだけなのに「参戦!」とか投稿する

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妖怪 | weekly vol.0092

妖怪 | weekly vol.0092

「その姿を見たものは数日間高熱を出し、緑色の汗をかくと言われている。時折そのまま死に至ることもあるが、たいていはそれ以前より健康で丈夫な体になると言われている。高熱の期間に記憶が薄れてしまうのか、遭遇の前後の記憶は曖昧になり、人によってサイズ感や色、形の特徴の表現は大きく異る。こうした口伝による奇怪な現象の記録は古今東西に見られるが、伝言ゲームの要領で伝えられる内容は変異していく。何が正しいのかと

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比べる不幸知らない幸福 | weekly vol.089

比べる不幸知らない幸福 | weekly vol.089

「誰もが疑うことはなかった。後の世にはそう伝えられるのかもしれないけれど、実際には多くの人がいつまで続くのかと疑心暗鬼でいたし、最後に散りゆく時にも、やはりこうなるのか、という感慨があったのだろうと思う。世界中の誰も疑いを持たないなどということはないし、もちろん、過剰に表現して伝えていくのが歴史であり教訓だと言われてしまえばそうなのかもしれないけれど、少なくとも、21世紀以降のリベラルさを少しでも

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仮定 | weekly vol.087

仮定 | weekly vol.087

「The LOST以降世界の地理情報システムは国家管理化に入った。その当時、全世界では24億のドローンが飛行中で、それが一斉に位置情報を失い行方不明になったのだからその衝撃は大きかったのだろう。配送や点検、監視のためのドローンは年々増え続けており、生活に欠かせないものになっていた。物流量は年々増え続けていたが、人口は減っており、労働力は慢性的に不足していた。つまり、ドローンを始めとするロボットの導

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集め、積み上げ、繋げる。| weekly Vol. 080

集め、積み上げ、繋げる。| weekly Vol. 080

「遠路はるばる来てくれてありがとう。」
ぼくは久しぶりに会う友人を労いつつも、遠路という言葉にやや力を込めつつ言うことで、自分の境遇を説明するための弾みをつけたかったのだと思う。今年採れた蕎麦の実を炒って作った自家製の蕎麦茶はとても香ばしく、初冬の外気に晒された身体を優しく温める。友人はお茶を一口飲むと、窓の外の景色を眺めつつ話を促した。
「で、どうなの。自給自足の生活は。」
友人に会うのは実に1

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匂いより、深く染みつくもの。|負債論|weekly

匂いより、深く染みつくもの。|負債論|weekly

今週は、うでパスタが書く。

僕は二〇一八年の初頭、そのとき保有していたビットコインをすべて売却しておよそ一億円の収益を得た。これについてはまたいつか書く。どうかこのnoteのサブスクリプションを手放さないでほしい。
なぜ僕がビットコインを保有していたのかという理由の半分は、こちらの本に収録されている「だって人生はほら、RPG。」で読める。

あと正直に言えば以下のブログでも無料で読める。

しか

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branch | weekly

branch | weekly

「画面の右上に、新たなメッセージが届いていることを知らせるバナーが表示される。プレビューを見る限りでは急ぎではなさそうだけれども、通知は見る間に20、30と重なっていく。何か障害が起きているのかもしれない、と一瞬嫌な予感がしたので、システムの稼働状況を確認するコンソールを開く。いまのところ障害が起きている様子はないものの、何かトラブルがあったのかもしれない、と思いビジネスチャットアプリをメインウィ

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BiblioTALK de KINOKO YouTubeLive Vol.003のお知らせ

BiblioTALK de KINOKO YouTubeLive Vol.003のお知らせ

この告知は、うでパスタが書く。

※2020年8月20日(木)配信URLが急遽変更されました。ご注意ください。

子どもの頃を思い出すと、果たしてあれほどの膨大な時間が一日のどこに、それも決して長くはない子どもの一日のいったいどこにあったのだろうかと不思議に思わされることしきりだ。
そんなときにはあの頃の僕たちが、まさに文字どおりの永遠を生きていたのではないか、そしてその永遠がある日を境に終わりを

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life and technology | weekly

life and technology | weekly

 「もし自動車がなかったら、道を清潔に保つために馬糞を効率的に集めて掃除をする技術が発達していたかもしれない。高速で走る馬車を描いた当時の未来図を笑うことは簡単だけれども、10年後、20年後、あるいはその先の未来の技術について私達が今言えることはなんだろうか。技術が先行するのか、人々の描く未来像が先行するのかは分からないけれど、分岐した先にある未来をよりよいものにするために、今ある技術をどう変えて

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観光 | weekly

観光 | weekly

「何万光年もの距離を経て降り注ぐ満天の夜空の星の輝きの下、標高の高い場所特有の冷涼な空気の中、夜露が静かに草木を濡らす頃に、その作業は始まる。防寒着に身を包み、荷台から取り上げた小さな台車と包丁を手に畑に人が集まってくる。整然とした畝の上には、ゴロリ、という音が聞こえてきそうな、はち切れんばかりに丸々と育ったキャベツが並んでいる。夜露が折り重なった葉の隙間に入り込むが、それは瑞々しい表面を伝って茎

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