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妖怪 | weekly vol.0092

「その姿を見たものは数日間高熱を出し、緑色の汗をかくと言われている。時折そのまま死に至ることもあるが、たいていはそれ以前より健康で丈夫な体になると言われている。高熱の期間に記憶が薄れてしまうのか、遭遇の前後の記憶は曖昧になり、人によってサイズ感や色、形の特徴の表現は大きく異る。こうした口伝による奇怪な現象の記録は古今東西に見られるが、伝言ゲームの要領で伝えられる内容は変異していく。何が正しいのかというのを見極めるというよりも大事なのは、どうしてそういう口伝が生まれたのかということだろう。人は見たものをそのまま伝えることが得意ではない。また起こった現象の記録をすり合わせて最大公約数的なものを描こうとすると得てして失敗しがちである。平均値に当てはまる人間がいないように、集約して均してしまってはいけないということなのだろう。」

彼女は音読をやめるとその分厚い書籍をサイドテーブルに置くと、そっとその上に手を置いた。立派な装丁のその本はおそらく20世紀の後半に出版されたもので、当時はまだ皮革を本の装丁に用いることがそれなりにあったのだろう。人類学者や民俗学者というのはそういった事柄によりこだわりを持つのか、件の本もおそらく民俗学を研究していた人の著作物なのだろう。本の厚みにさらに重厚感のある皮革、そして金の箔押し文字は本の内容を読む以前に、手に取るものを圧倒するような威圧感を持っている。データ化される以前の書籍というものはその物理的な存在感というものも価値の一つで、0と1のデータに置き換えられない質感があった。データに置換された質感の情報は、現在では触覚デバイスを通して再生されることができるが、移行期の電子書籍においては画素上で描写されるデザインや質感というものはあくまで視覚情報としてしか伝達できていなかった。

本の装丁というのはそれだけでインテリアの一部になりうる美しさがある。このデータセンター兼図書室に所蔵されている本は全てデータとしてバックアップもしているが、根強い物理的な本のファンというものがいるために書籍そのものも丁寧に保管をしている。度重なる天災や移動にも関わらず、保管されている書籍群の状態はとても良い。根強いファンがいるとはいったが、人口激減後の世界においてその絶対数も激減し、数えるほどでしかない。

著作物の権利というものがパブリックドメインになり、要は世界で共有化されたこと、またデータ化されていく過程で人々の家から本棚というものがインテリアの必須アイテムではなくなっていった。一方で、飾る用のデザインをされたインテリアブックというものが過渡期には出現した。画像を多用した世界の街角、カフェ、絶景、といった無個性な美や郷愁というものを掻き立てるアイコンの羅列である。漂白されインテリアとなった画像や文字列には、とはいえ人間に共通するそれこそ最大公約数的な文化の匂いというものを感じさせるところがあった。部屋にそれを置きさえすれば、ルームフレグランスのように部屋に文化の匂いを漂わせることができるのだ。

湾岸のタワーマンション群の遺跡からはこのようなインテリアブックが大量に出土した。それは生活の記録とは直接結びつかないものの、マーケティングに毒され、ライフスタイルすらも消費の対象としていた世界の一面を覗かせる醜悪さがあった。個性的でいることができる家という空間においてさえ他者の視点を用いることでしか整えることができないというのはわびしいものがあろう。
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キノコです。色々あり何かをスキップしつつの更新です。
九段下パルチザンに改名してそろそろ1年が経とうとしておりますが、例のアレはどうなったのでしょうか。

そう、全てはコロナウイルスのせいだったのだ、と言ってしまえればいいのですが、もとより労働にすら追われていないキノコにとってそれは半年前までは通用した言い訳であり、2021年3月ではもう通用しない言い訳だということです。コロナが既に過去のこととして語られているはず、という予測は脆くも崩れ去り、未だに緊急事態宣言下にある東京では、桜が咲きつつあり、花見での宴会が禁止されるという状態です。そもそも花見で宴会をする習慣のないキノコにとってはどうでもいい話ではありますが、春の暖まった風に吹かれながら酔い醒ましの歩行をする気持ちよさを味わえないのは寂しくあります。とまあ春はいつものようにやってくるものの、進捗は以下ばかりか、という感じなのでお察しください。

そうは言いつつも、住んでいる界隈の店舗の入れ替わりは着実に進んでおり、パン屋さんとラーメン屋さんがまた増えました。黙々と食べる系のラーメン屋さんというのは感染リスクが低いのでしょうか。パン屋さんは惣菜パンばかりでイマイチな感じです。そして驚くべきことにスーパーが一店潰れます。これはなかなかに衝撃的ですが、まあまたすぐに似たような何かができるのでしょう。店員の質が変わった時点で何かが終わっていたのかもしれません。

さて、相場ですが先月に浮かれてNIKKEI30000というキャップを被っていたのが恥ずかしくなるような体たらくで、高値圏での乱高下というバブル末期の様相を呈しています。バブル末期の乱高下は資金がまだ市場から完全には出ていかずに循環しているからで、とはいえ、少しずつ各種パラメーターが崩れ始めていくという形で明確にダウントレンドに入っていくことになります。3月末は日本では年度末であり、機関投資家にとっては年度の締めでもあり、まあ色々と思惑もあると思いますので、往復ビンタをくらわないようにしたいところです。個別株は循環が効いているのか割安に放置されていた高配当銘柄が上がり始めたように見えますね。

みなさんが密かに気にされているキノコハウスの解体ですが、デベロッパー選定のための測量資料作りが始まりました。登記されているものとだいぶ異なるようなのですが、月内には測量が終わるようです。どこがデベロッパーになるのでしょうか。そしていくらで売れるのでしょうか。

というわけで、本日は、実体のない妖怪のようなものとどう付き合うか、という話です。

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