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観光 | weekly

「何万光年もの距離を経て降り注ぐ満天の夜空の星の輝きの下、標高の高い場所特有の冷涼な空気の中、夜露が静かに草木を濡らす頃に、その作業は始まる。防寒着に身を包み、荷台から取り上げた小さな台車と包丁を手に畑に人が集まってくる。整然とした畝の上には、ゴロリ、という音が聞こえてきそうな、はち切れんばかりに丸々と育ったキャベツが並んでいる。夜露が折り重なった葉の隙間に入り込むが、それは瑞々しい表面を伝って茎の方に流れていく。包丁で茎の根元をグッと持ち上げて切り取ると、ブツンという音が聞こえてくる。台車に腰を下ろしたまま次々とキャベツを茎から切り離しては箱に収めていく。畑のそこかしこから、台車の軋む音、茎から切り離されるキャベツの骨太な音、そしてズッシリとした重みのある箱いっぱいのキャベツを運搬するトラクターの重排気音が聞こえてくる。朝靄に包まれて山の稜線が明るくなり始める頃には作業は終わり、同じ姿勢ですっかり痛くなってしまった腰をさすりながら帰路につく人々の姿が見える。

昼間はキャベツ畑人形を作る。これは観光に来た人が、牧歌的な景色としてキャベツ畑を眺めた記念に購入するためのものだ。キャベツ畑人形という名前だが、なぜキャベツ畑人形のかは誰も知らない。元々手慰みで作られた人形が適当に名付けられただけなので、由来などという高貴なものはない。そもそも、旅行者はキャベツがどう生えているかをよく知らないし、中にはレタスと区別がついていない人間もいる。とうもろこしだってそうだ。畑になっているとうもろこしは、皮に包まれていることを知らなかったりする。世の中には黄色くないとうもろこしだってある。品種改良は常に進んでいるのだ。キャベツ太郎だってそうだ、キャベツはなんの関係もない。」

彼女は音読を止めタブレットから顔を上げると、窓の外に目をやり、こちらに向き直って、軽く微笑んだ。最近は音読を続けているせいか、声帯ユニットの調子もよくなったようで、自分の声が想像していた通りに聞こえるという。どういう声が自分の想像通りの声なのか、というのは考えたこともなかったが、声というものが発せられる構造から、自分に聞こえる声と他者が受け取るそれは感じ方がだいぶ異なるはずだ。想像上の声というのは、そうした物理的な制約を考えた場合、自分に聞こえる自分の声なのか、他者に聞こえる自分の声なんだろうか。いずれにしても自分の録音した声を聞いた時の違和感というものは生きている間に味わう、自分のものなのに自分のものではないという感覚の一つであろう。

労働力としてのロボットが普及することによって、農業や漁業、畜産というものはすっかり変わってしまった、と記録には書かれている。ロボティクスの進展と並行して環境に配慮した農作物の育成法というものも変わっていったので、変化の過渡期にいた人は大変だっただろう。今となっては食糧生産に人間が介在する余地はなく、家庭菜園はもとより、ベランダで植物を育成することすら違法になっている。生物多様性の観点から動植物の育成は厳格に管理され、水をやったりやらなかったり、肥料をあげたりあげなかったり、あるいは一緒に育ててはいけないものを並べたり、といった人間の適当な扱いによって発生するリスクを極力排除するようにという配慮がなされている。

農業改革は農地の改革ももたらした。バイオリアクター型の畜産は高層ビルの中でも可能になり、湾岸のタワマン廃墟群は今では全て食肉生産エリアになっている。元々非人間的な間取りであったので、人間が暮らすのには向いていなかったが、構造的にバイオリアクター施設にするのには逆に適していたようだ。
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キノコです。

夏のせいなのか、引越し準備のせいなのか、コロナのせいなのか、テレワークのせいなのかは分かりかねますが、体調がいまいちな期間を過ごしております。うでさんが更新をしてくれている間に養生に励む予定がまあ上手くいかず、先日はうでパスタワンマンライブを強要することになってしまいました。いずれにしても健康というものは全ての礎なので、何はなくとも健康で丈夫な体、というものは万人が望むものでしょう。みなさまもご自愛ください。

さて、そうこうしている間にNASDAQ指数は10,000ポイントを超えていますし、東京の日々の感染者は200人を超えております。何事にも趨勢というものがあり、チャートを見るとトレンドを分析したくなってしまうのが相場師の悲しい性質ですが、いずれ何かの役に立つ日が来るのでしょうか。そもそも役に立つとは何なのでしょうか。

この気温なら東京オリンピックもできたし、なかなかいい結果も出たのではという話をしているひともいましたが、未だにオリンピックに執着しているというところに空気の読めなさを感じますね。先ほどのトレンドの話ではありませんが、話題の移り変わりは早く、旬はとても短いのです。ちょっと涼しいよね、というくらいでは体調も良くなりませんし、梅雨も明けません。

前置きはこのくらいにして、本日は旅の話です。

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