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創作大賞、気になる作品

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創作大賞応募作から、個人的に応援したかったり、気になった方の小説やエッセイなど。
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【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』1章

【#創作大賞2024 #恋愛小説部門】『制服にサングラスは咲かない』1章

剣を振り下ろす。モンスターにダメージが入る。
モンスターが弱る兆しが見えた。
僕らは追撃を開始する。
どのモーションも全て無意識にコントロールできる領域だ。
人間の脳はすごい。
ゲームコントローラーを使用して、コマンドを入力。
あくせくと労働のようだ。
このままのペースでモンスターの体力を削ることができれば、あと5分と持たずに討伐できるだろう。

「そういや、ツリバリ」

マイクヘッドホンを通して

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猫のお化けがでるほこら。でもそれは会いたい猫のお化けです。

猫のお化けがでるほこら。でもそれは会いたい猫のお化けです。

いつもランニングで走る場所です。
犬の散歩にもここを通ります。この公園の中に、ほこらがあります。何が祀られているのかは知りません。でも私が小さい時からあります。

もう12年前、いや14年前でしょうか?ここで不思議なことがありました。嘘のような本当のお話です。

今いる猫の前、虎猫を飼っていました。そのとら猫の名前はチャーリー。うちの英語教室に通う生徒が拾ってきた猫です。
茶色いからブラウンにしよ

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言の葉ノ架け橋【第1話】

言の葉ノ架け橋【第1話】

第1話 かけはし
まだ夏は遠いけど、紫外線の強くなる季節。
首元に日焼け止めクリームを丹念に塗り込んでいると、「希生先生、希生先生」と庭から優しい声で呼ばれて慌てて振り返った。

「ヨウちゃん、そんなところにいたの。びっくりさせないで」
「希生先生、いそがんと学校に遅れるよぉー」

私はふぅと息を吐き、手の甲にもクリームをたっぷり塗り込んだ。
「サチ祖母ちゃんの声マネするのいい加減やめて欲しいわ。

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僕と鹿 (短編小説 I)

僕と鹿 (短編小説 I)

僕の父親は猟師。
小さい頃から僕はその様子を横目で見ていた。

僕の地元の長野はジビエという鹿肉の料理が有名で、僕の父の十朗は、地元の森の中にある夏の時期だけオープンする別荘客が多いレストランに鹿肉を提供している。
そのレストランのシェフとは高校の同級生で、昔は相当のやんちゃボーイだったらしいが、今となったら趣味のクラシックカーが似合わない二匹の小太りの小さなおっさんだ。
 

そんな父とは全く違

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【詩】天文学者

【詩】天文学者

わずかに前のめりで

街の人混みの中に立つ天文学者が

ぼそりと宇宙の秘密を呟くと

地球上の生き物が一斉に学者の方へ振り向いた

着古した天文学者の衣から

ぼたぼたと破れ落ちる真理の切れ端

黒いアスファルトに浸みこんでゆく純白の繊維

そびえ立つ高層ビル群が

ゆっくりと対角線上に歪みだす

突如として始まった地球文明の初期化

人類のあらゆる知的財産が

容赦なくゼロにリセットされる

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短いエッセイ|君の手紙と、金木犀

短いエッセイ|君の手紙と、金木犀

金木犀の香りがすると、君の手紙を思い出す。

それは春、新しい家に引越したばかりの日のこと。君から引越し祝いにプレゼントを渡したいと、電話がかかってきたのだ。私は「いいよ」と言い、君はやってきた。まだダンボールばかりの空っぽの部屋に、君と私の2人きり。

そして帰り際、君は玄関で恥ずかしそうに

「今は読まないでね」

そう言って私に手紙をさしだした。なんだか甘い香りのするそれは、白地に黄色の花の

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ぐりとぐらのカステラを探しに、絵本の世界を散歩する。

ぐりとぐらのカステラを探しに、絵本の世界を散歩する。

本棚から取り出したる1冊の本。

絵本「ぐりとぐら」のすべて。

と銘打たれたこちらの本が、今回のお散歩のガイドブックである。

ぐりとぐらのカステラ

子どもの頃、もしくは子どもと一緒に、はたまた大人になってから、耳にしたことはないだろうか。

〝ぼくらのなまえは ぐりとぐら
 このよで いちばん すきなのは
 おりょうりすること たべること〟

というあの歌を。
作者の中川李枝子さんは、節をつ

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絵本テキスト「ぐるんぐるん〜パパにプレゼントする絵本〜」

絵本テキスト「ぐるんぐるん〜パパにプレゼントする絵本〜」

「ぐるんぐるん」
〜パパににプレゼントする絵本〜

友人や家族の妊娠・出産祝いを贈る時、ママや赤ちゃんに対してのプレゼントの選択肢はたくさんあるのに、パパへのプレゼントの選択肢って少ないなぁと感じることが多々ありました。

パパへのお祝い絵本をつくりたい!
そう思ってこの絵本テキストをつくりました。

タイトル:ぐるんぐるん


おかおがぼくとそっくりで
こえがとってもやさしくて

「みーつけた

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三角形の玉子焼き

三角形の玉子焼き

おいしい記憶。皆をつなぐ、だし巻き玉子。
焼く人によって全く異なる、だし巻き玉子だ。

父方のだし巻き玉子は卸売市場で買ってきたものだった。祖父が魚屋だったため、いつも卸売市場に行き、買っていた。仕事で売れ残った時や、正月などのめでたい席でだけ食卓に並ぶ特別メニューだった。
今となっては魚屋もやめたので、食べられないメニューとなっている。

母方のだし巻き玉子はごくごく普通。けれどつくる人によって

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舐められない私になる。

舐められない私になる。

私の性格を一言で良く言えば、優しい。
でも、悪く言えば自分の意見が弱い、人に使われる。

では、生まれつきそんな性格だったのか?

そんなことは全くない。
むしろ、小さい頃は自分の意見がしっかりしていて
周りが右と言っても自分が左なら左にいくことができていた。

それが変わったのが「中学時代」
多感な時期、みんな一度は経験あるかもしれない、友達とのトラブル

きっかけは些細なことだった。
でも、そ

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能あるおじさんは爪を隠す。第1話(note創作大賞2024 お仕事小説部門)

能あるおじさんは爪を隠す。第1話(note創作大賞2024 お仕事小説部門)

あらすじ

「何だこれ??」

トイレから戻ってきた遠藤くんが自分の席に置いてあったメモ帳に目をやると、描いた覚えのないうんちの落書きがしてあった。
困惑しながらメモ帳を眺める遠藤くんに
「もう〜、ダメじゃん仕事中にこんな落書きなんかして〜。
まじめに仕事してよ、えんちゃん!」
遠藤くんの後ろの席からニヤニヤした大林さんがでかい声で話しかける。
どうやら犯人は大林さんのようだ。

「あ!もう〜、こ

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ADHDのADが三十歳で障害者雇用で働いた結果

ADHDのADが三十歳で障害者雇用で働いた結果

わたしは障害者手帳2級をもっている。
2年前に取得した。

病院でADHD(注意欠陥/多動性障害)と診断された。

思い起こせば幼少期からその兆候があった。右と左がわからなくて徒競走を逆走したり、幼稚園を脱走して勝手に家に帰ったり、時計が読めないから時間割がわからなかったり、人の話を聞いていても他のことに気を取られたりする子供だった。特に算数が強烈にできなかった。塾に通わせてもらったものの、ノート

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【連載小説】「心の雛」第一話

【連載小説】「心の雛」第一話



「はい、本日はありがとうございました。お大事になさってください」

 朗らかに笑って先生が患者様を見送っている。
 ペコリと患者様が——来た時よりは幾分明るい表情で——一礼して帰って行った。玄関のドアがゆっくりと閉じ、先生と私はほっと一息つく。
「あと二回、というところでしょうか、先生」
 私が尋ねると、先生はゆるゆると首を横に振った。
「さぁ、それは誰にも分かりません。あと二回の診療で卒業で

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日本で一番小さな県で育まれる愛のサイズ【一話】【創作大賞用】

日本で一番小さな県で育まれる愛のサイズ【一話】【創作大賞用】

完読時間目安:50分

あらすじ



去年の今頃は、まさかこんな状況になって桜を眺めているだなんて想像すらしていなかった。桜の満開を祝すかのように五年ぶりに開催される歌舞伎の旗が踊っている。

幸助が故郷の香川県琴平町に戻ってきたのは一年前のことだ。高校を卒業して以来の帰郷で、気づけば幸助は二十六歳になっていた。

◇ 春 4月

一年前のその日。

幸助はかつて祖父母とよく来ていた金比羅山の

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