マガジンのカバー画像

散文詩

285
運営しているクリエイター

#刹那

昨日の午後に 《詩》

昨日の午後に 《詩》

「昨日の午後に」

私達の言葉はだんだんと
小さくなっていく

ふたりの書き残した文章に彼等は
何の興味の片鱗も
示さなかったからだ

世間には噂が流布する 

残酷性が強ければ強い程

人々は群をなし 
汚れた手で指を差す

それは欲するべき特定の悪だ

退屈しのぎの悲劇を
高架下にぶら下げ嘲笑う

私は貴方の書いた
詩の一節を読んでいる

貴方は私が敬愛する詩人だった

私は貴方の幻想の中に居

もっとみる
立ち入り禁止の其の先で 《詩》

立ち入り禁止の其の先で 《詩》

「立ち入り禁止の其の先で」

「立ち入り禁止」という札のかかった
金網の下を潜り抜け

なだらかな坂を上がった

僕は歩を止めてアスファルトの
割れ目に咲いている

何本かの花を見た

そして丘の上に浮かんだ雲を見た 

太陽はもう其処に沈みかけていた

僕の君を呼ぶ声は
希薄な冷たい空気の中で弧を描く

風は無く 空気は静止している

地上の全ての万物を
ぐっと押さえつける様に

春が芽吹き 寄

もっとみる
国境の街 《詩》

国境の街 《詩》

「国境の街」

国境の街 関税の煩雑 
密輸業者の黒い噂と政治工作

それは通り過ぎていく雲 
一片の薄暗闇

病気と言う名のカテゴライズ

率直さの奔流 ただの演技さ

そう退屈さの片鱗を漂わせながら
奴は言った

信念の欠如と月並みな警告

この街は何も嘘を
ついているつもりはない

ただ気が付かないうちに
嘘を繰り返しているだけなのさ

マリファナを出してきて
ジョイントを作る仕草

誰もが

もっとみる
二月の残酷な月 《詩》

二月の残酷な月 《詩》

「二月の残酷な月」

僕等にはロマンスへの回帰が
必要とされている

二月の残酷な月 

愚行の後悔を映し出し
人の心を腐敗させてゆく

それはいつ果てるとも知れない
無力さとして

夜空を覆い尽くしていた

その場しのぎの礼儀が
愛想笑いをして通り過ぎてゆく

独善的で幸運に恵まれた女性

ロマンスや想い出を
もたらしてくれるかもしれない危険

珈琲に砂糖を入れないなんて
アナーキストだわ

もっとみる
火遊び心中 《詩》

火遊び心中 《詩》

「火遊び心中」

僕の口からいちいち 
そんな事を言わせないでくれ

それこそ表から裏まで 
承知していたはずだ

君が欲しがるものを誰もが
迅速に届けてくれる訳じゃない

誰も君に

かしずいてはくれないって事さ

だいたい君が生きよが死のうが 

そんな事を皆んなが気にするとでも
思ってるのかい

君はいつか 違う奴と
違う詩を歌う事になるだろう

白昼の光の中に 

夜の闇の静けさの中に

もっとみる
愛の外郭 《詩》

愛の外郭 《詩》

「愛の外郭」

波の砕ける音がする 
あれは海なのか

正義の道を踏み外さない様に 

真っ直ぐと防波堤は伸びている

僕は随分と長い間 
彼女の事を描写していた

そう 
描写と言う言葉が一番的確な表現だ

彼女の横顔 仕草 
指先の動きまでも克明に

彼女の微笑みは僕個人に
向けられたものではない

その事はわかっていたが

僕は彼女の微笑みに
合わせる様に微笑んだ

世界を終末に導く悪しき事

もっとみる
愛しき街の愛しき人よ 《詩》

愛しき街の愛しき人よ 《詩》

「愛しき街の愛しき人よ」

恋人はやって来て
貴女を彼方へと連れて行く

それでも私は
何も知らないふりをする

貴女は彼の為に詩を唄い

私は貴女の為に詩を唄う

私的な思考を涵養する為にだけ
時を費やし

磨き抜かれた個人主義は
私自身の世界の歌であり

何十万と言う言葉で
それを綴り続ける

前衛的ではあるが決して自己本位
ではない風が街に吹き付ける

表面的な見た目とは裏腹に

攻撃的でか

もっとみる
メッセージ 《詩》

メッセージ 《詩》

「メッセージ」

水溜りに
ガソリンの虹が浮かんでいる
世界の果てまで届きそうな退屈
冒涜的な無神論者の僕でさえ
クリスマス イブを独りで過ごすのは
寂しいんだ

たまたまバスで隣りに座った娘が
僕と同じ本を読んでいて
それが縁で言葉を交わす
そして あっと言う間に
恋に落ちてしまうとか 
吐き気がする程ロマンチックだよね

ふたりは結婚して 
めでたし めでたし
映画や小説なら其れで
ハッピーエ

もっとみる
ライ麦畑で 《詩》

ライ麦畑で 《詩》

「ライ麦畑で」

何だか虹が見たい 
そんな気分の時ってあるだろ
だけど虹が出る前には必ず雨が降る
雨は嫌いなんだ

君に届け 此の想い…とか
君の為なら何処までも行ける…とか
簡単に言うなよ
舐めんじゃねーよ! そう叫んでる 
あの娘の方がよっぽど純粋だよ

おやすみ ずっと待ってたよ 
今日と言う日の終わりを
サンタクロースが死んだ朝に
真っ二つに引き裂かれた子守歌
うん 好きだよそう言うの

もっとみる
記憶の残滓 《詩》

記憶の残滓 《詩》

『 記憶の残滓 』

あまりにも残酷に思えた
記憶の欠片
広い集め全て灰にしたかった

然れど 時を重ね
記憶の残滓は
私の一部と化した

そう思えた瞬間
私の心は救われた

頬を撫でる冷たい風も
頬をつたう
涙のしずくの感触も

私が生きている証なのだ

Jun Takeici

「使いみちのない物語」

オイルの切れた機械の様に

ガチャガチャとうるさい音がする
どんよりとした灰色の雲

ソフ

もっとみる
夜の中に 《詩》

夜の中に 《詩》

「夜の中に」

夜の中にキスを投げるまで

ネックレスについた黒い星

僕は夏の火花の片鱗を見ていた

星は光を瞬かせ
海のまわりには灯火が煌めく

水面を渡る静かな風が旋律を奏でる

ある種の陶酔を僕の中に誘発する
一対の黒い瞳 

其れはただ得もいわれず美しかった

深い夏の情熱に満ちた
プラチナ色のさざ波

恋に落ちた男の気配を

君は感じ取っているはず

彼女の微笑みは
口づけへの誘いの様

もっとみる
最後の紅葉 《詩》

最後の紅葉 《詩》

「最後の紅葉」

ナイフで切れそうな程たちこめた煙

不確かな船出の時

君の唇に其の言葉が浮かんでいる

彼女は僕の人としての弱い部分を
本能的に見抜いている

其れを非難する事よりも 

受け入れてくれようと
寄り添ってくれていた

僕の人生からこぼれ落ちて
消えて行った人の数をかぞえた

心の痛む想い出の一部を譲り渡したまま

最後に残された紅葉が揺れている

人生の舵取り能力の弱さが致命傷

もっとみる
氷の街 《詩》

氷の街 《詩》

「氷の街」

静かな午後と夕暮れの一刻

太陽が僕に貸し与えた不確かな影

小天使は眠りを貪り 

名も無き花は
其の花弁を空に向けて広げる

記憶が呼び起こす微かな芳香

彼女の帽子のひらひらとした縁が
揺れている

灰薔薇色の風が丘の斜面を上る

この世で最も美しく名前を持たない
感情が夢と共に育つ

吐く息はくっきりと白い

彼女は子供の様に

宙に向け息を吐いて遊ぶ

僕は手に入れられる限

もっとみる
月のない夜 《詩》

月のない夜 《詩》

「月のない夜」

シャボン玉が虹色に光る

危険であるほど燃える恋

境界線も標識もない大地に
足を踏み入れる

暗闇の中 時計が時を刻む音 
重なり合う長針と短針

男は女がいつまでたっても
変わらないと思い

女は男が常に変わり続ていると思う

でも本当はどちらも間違っている

彼女はキスされる為に眼鏡を外す

そして ゆっくりと息を吐きながら
ヒールを僕の革靴に気怠く擦り付ける

偽者はいず

もっとみる