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散文詩

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青い森 《詩》

青い森 《詩》

「青い森」

僕と君はふたりきりで
限定された場所に居る

といっても僕等は全くの
ふたりきりでは無い

ふたりの間には 

もうひとつの別の世界の存在があり

それは暗闇の中にじっと
身を屈め潜んでいる

その場所では 

ゆっくりと美しさが損なわれていく

そんな世界である事を
僕等は知っていた

人混みの中で 
ふたりは名前すら持たない

唯一 限定された場所でしか

僕と君は細やかな解放感

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国境の街 《詩》

国境の街 《詩》

「国境の街」

国境の街 関税の煩雑 
密輸業者の黒い噂と政治工作

それは通り過ぎていく雲 
一片の薄暗闇

病気と言う名のカテゴライズ

率直さの奔流 ただの演技さ

そう退屈さの片鱗を漂わせながら
奴は言った

信念の欠如と月並みな警告

この街は何も嘘を
ついているつもりはない

ただ気が付かないうちに
嘘を繰り返しているだけなのさ

マリファナを出してきて
ジョイントを作る仕草

誰もが

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二月の残酷な月 《詩》

二月の残酷な月 《詩》

「二月の残酷な月」

僕等にはロマンスへの回帰が
必要とされている

二月の残酷な月 

愚行の後悔を映し出し
人の心を腐敗させてゆく

それはいつ果てるとも知れない
無力さとして

夜空を覆い尽くしていた

その場しのぎの礼儀が
愛想笑いをして通り過ぎてゆく

独善的で幸運に恵まれた女性

ロマンスや想い出を
もたらしてくれるかもしれない危険

珈琲に砂糖を入れないなんて
アナーキストだわ

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破砕物 《詩》

破砕物 《詩》

「破砕物」

紙にペンを走らせ自分の名を冠に
するに足る創作をなそうとする者よ

言葉の実験を繰り返し

型破りなストーリーを語る

高度にドラマチックな散文が
降り注ぐ

言葉の構築物は
ストーブの上で溶けていく

氷の様に跡形もなく消えていく

寄り道を拒絶する詩の定義

第一原稿が書き上がった時

夜を嘲笑う様に稲妻が光る

常識に始まり常識に終わる物語ほど
味気ないものはない

雑誌に掲載

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草の葉 《詩》

草の葉 《詩》

「草の葉」

僕の手に思考の電撃が走る

それは恋の始まりの様なものだった

君は途方に暮れ 

向かうべき道を示す
常夜灯を探し彷徨っていた 

それは想像もつかない程の
暴力を秘めた夜に似ている

巨大にして偉大な静けさを
もたらす夜に

人々は優しい夢を見るというのに

僕は路上で風に吹かれ

散っていくラブレターを
追いかけている

彼女の意識の中にある

うちなる両手が
僕を包み込んで離

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火遊び心中 《詩》

火遊び心中 《詩》

「火遊び心中」

僕の口からいちいち 
そんな事を言わせないでくれ

それこそ表から裏まで 
承知していたはずだ

君が欲しがるものを誰もが
迅速に届けてくれる訳じゃない

誰も君に

かしずいてはくれないって事さ

だいたい君が生きよが死のうが 

そんな事を皆んなが気にするとでも
思ってるのかい

君はいつか 違う奴と
違う詩を歌う事になるだろう

白昼の光の中に 

夜の闇の静けさの中に

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愛の外郭 《詩》

愛の外郭 《詩》

「愛の外郭」

波の砕ける音がする 
あれは海なのか

正義の道を踏み外さない様に 

真っ直ぐと防波堤は伸びている

僕は随分と長い間 
彼女の事を描写していた

そう 
描写と言う言葉が一番的確な表現だ

彼女の横顔 仕草 
指先の動きまでも克明に

彼女の微笑みは僕個人に
向けられたものではない

その事はわかっていたが

僕は彼女の微笑みに
合わせる様に微笑んだ

世界を終末に導く悪しき事

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愛しき街の愛しき人よ 《詩》

愛しき街の愛しき人よ 《詩》

「愛しき街の愛しき人よ」

恋人はやって来て
貴女を彼方へと連れて行く

それでも私は
何も知らないふりをする

貴女は彼の為に詩を唄い

私は貴女の為に詩を唄う

私的な思考を涵養する為にだけ
時を費やし

磨き抜かれた個人主義は
私自身の世界の歌であり

何十万と言う言葉で
それを綴り続ける

前衛的ではあるが決して自己本位
ではない風が街に吹き付ける

表面的な見た目とは裏腹に

攻撃的でか

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ドストエフスキーを読みながら 《詩》

ドストエフスキーを読みながら 《詩》

「ドストエフスキーを読みながら」

貴方が居なければ 

僕の人生と作品は

もっと薄っぺらいものに
なっていただろう

その部屋には陽光が
たっぷりと差し込み

風に揺られる
樹々の影がちらついていた

馴れ親しんで来た十字架の横に
深層意識への入り口を並べる

死と同じくらい逆行不可能な
幾つかの悲しみについて 
僕は考えている

意図的に排除されたひとつの事実を
貴方と囁き合う

神のこだま

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蝶とリヴォルヴァー 《詩》

蝶とリヴォルヴァー 《詩》

「蝶とリヴォルヴァー」

一途に恋焦がれた理想郷

互いの瞳の瞬きと甘美なせせらぎ

三十八口径のリヴォルヴァー
弾丸を弾倉から抜き出す

まだ終わりを迎える訳にはいかない

彼女の暗い涙のあとが残る頬に
口づけをした日

僕等は未知数をXと置き 

其れを解き明かす為の
何らかの公式を探していた

そう 素敵な公式を

何ひとつとして傷つけられず
損なわれる事もなく
辛い思いも残らない

卑怯だ

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午前3時 《詩》

午前3時 《詩》

「午前3時」

熱き感情が暗流となり渦を巻く

細やかな霧の様な情念が

美しきベールとなり夜を
優しく包み込む

目に見える楽天性と

対極する自己破壊への欲望

僕の本能的弱さが
優しき霧を熱望し此処に生み出す

夢と幻滅の間にある 

巨大な空白を埋める文章を

ロマンチシズムの
最後の残滓を探し求めている

僕は金色の絵の具で
黄金の月を描いた

それもいつかは消えて行くだろう

現実との

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風の森と彼方に浮かぶ半月夜 《詩》

風の森と彼方に浮かぶ半月夜 《詩》

「風の森と彼方に浮かぶ半月夜」

孤独 或いは
無口な漆黒を切り裂く半月夜

月が遠く彼方に浮かぶ時

君は個性と方向性を具えた

存在感のある
文脈を独り立ち上げて行く

僕等は自分自身を守る事に
精一杯だったね

先ず周りの人達の顔色を
伺ってからじゃないと何も出来ない

周りを見て 場の空気を
読んで無難な事を発言する

お前 失礼な奴だ 
何様だと思ってるのか とか

そんな風に言われたり

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SO WHAT 《詩》

SO WHAT 《詩》

「SO WHAT」

そろそろ本当の話をしようか…

君はそう切り出した
いつだってそうだよね
だって君は何も知らない 
本当の事なんて
何ひとつとしてわかってない
ペラペラの薄っぺらい言葉の
羅列の中には何もない
強いて言うなら自己顕示欲
可哀想だね 格好悪いよ
皆んな気付いるって言うのに
其れを知らないのは君だけさ

小説を書いていたんだ
プア ボーイがリッチ ガールを
殺す物語 
君はそんな

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イングリッシュ ローズ ガーデン 《詩》

イングリッシュ ローズ ガーデン 《詩》

「イングリッシュ ローズ ガーデン」

長く続いた雨も止んだ

フロントガラスの枠から
雨漏りをしていた
バンデンプラス プリンセス

コーキング剤で漏れ箇所を塞いだ

小さな白い薔薇が 
何かを思い出す様に咲いている

厚い雲間から太陽の光が溢れる 

ほんの一瞬の事だ

わからないものは
永遠にわからないまま時は流れ

いつしか其の事自体も薄れ
記憶から消え去って行く

簡単に読み飛ばせる文章

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