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氷の街 《詩》

「氷の街」

静かな午後と夕暮れの一刻

太陽が僕に貸し与えた不確かな影

小天使は眠りを貪り 

名も無き花は
其の花弁を空に向けて広げる

記憶が呼び起こす微かな芳香


彼女の帽子のひらひらとした縁が
揺れている

灰薔薇色の風が丘の斜面を上る

この世で最も美しく名前を持たない
感情が夢と共に育つ

吐く息はくっきりと白い

彼女は子供の様に

宙に向け息を吐いて遊ぶ

僕は手に入れられる限りの
一番透明な氷を集めて街を作る

もともと人間よりも本を
友としている君が言う 

私と踊ってくれませんか 

耳の上に彼女の冷ややかな唇が触れて
鉄灰色の空が輝く

不確かな影が季節を越える

僕は確かに彼女と踊っていた

冬空を背景に氷の街がそびえている


とっくに滅びてしまった夢は
幻滅しようも無く 

僕の意識の深淵の中にひとつの
永遠をいつまでも残し続ける

永遠と言う一刻の中に全てが

微笑みも涙も吸い込まれて消える

季節外れに降る雪は僕を
御伽の国に紛れ込んだ様な感覚にさせる

夜と朝が入れ替わる
一瞬にだけ君に逢える

氷の街で 

この世で最も美しく名前を持たない
感情が夢と共に

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