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最後の紅葉 《詩》

「最後の紅葉」

ナイフで切れそうな程たちこめた煙

不確かな船出の時

君の唇に其の言葉が浮かんでいる

彼女は僕の人としての弱い部分を
本能的に見抜いている

其れを非難する事よりも 

受け入れてくれようと
寄り添ってくれていた

僕の人生からこぼれ落ちて
消えて行った人の数をかぞえた

心の痛む想い出の一部を譲り渡したまま

最後に残された紅葉が揺れている

人生の舵取り能力の弱さが致命傷だ

君の中に見出した両極端な資質

放縦への惑溺とは裏腹な

極めて個人的な護りの閉塞感が
強固な壁を構築する

僕等は一時的に現実の世界を離れ

人目につかぬ 
ふたりだけの小世界を創り出した

其処にふたりは落ち葉を敷き詰める

熱をはらんだ長い冬の間 

僕等はお互いの体温で温め合った

不透明なレースのカーテン越しに
外の世界を見る

貴方が戻るまで此処に居るわ

彼女はそう言い残した

何度も反射を重ねて
届く淡い光の様に

其れは消えゆかんとする
美しさに似ている

優しい嘘を含んだ光 

君の唇に浮かぶ言葉

求めずとして孤独となる者

僕は其の光に対して横向きに立つ

煙草の煙がたちこめた部屋

誰かに愛されてないと
幸せになれない

僕の弱さが蓋を開ける

不確かな船出の時 

僕は小世界のドアを閉ざす

Photo : Seiji Arita

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