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月のない夜 《詩》

「月のない夜」

シャボン玉が虹色に光る

危険であるほど燃える恋

境界線も標識もない大地に
足を踏み入れる

暗闇の中 時計が時を刻む音 
重なり合う長針と短針

男は女がいつまでたっても
変わらないと思い

女は男が常に変わり続ていると思う

でも本当はどちらも間違っている

彼女はキスされる為に眼鏡を外す

そして ゆっくりと息を吐きながら
ヒールを僕の革靴に気怠く擦り付ける

偽者はいずれ消えて行く 

彼女は僕の背中に
指先を這わしながらそう言った

だけど記憶は消えない 

僕は彼女の首筋に触れそう答える

散り残った最後の紅葉 

深いオレンジ色と
色褪せて消えそうな茶色

誰かが飛ばしたシャボン玉

しばらく空に留まり 
漂いながら沈み破れた

赤い薔薇が挿さったクリスタルの花瓶

僕は幾つかの 
確かに愛していた場面を想い出す

本当のものと本当でないもの

其の違いとは

どちらも間違っている 
どちらも正しい 違いなんて無い

僕等は何か特別で素敵な
別れ言葉を探していた

完全な形として始まってないものを
上手く終わらせる言葉を

僕は 月のない夜 そう囁いた

君は静かに同意する様に
其の言葉を口にする

人は想い出だけでは生きていけない

今夜も僕は夜空に月を探す

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