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2023年12月の記事一覧

【読書ノート】『最後は臼が笑う』

【読書ノート】『最後は臼が笑う』

『最後は臼が笑う』
森絵都著

「人間は完璧ではなく、けれどそれが魅力だ」と桜子は理解している。彼女は、妻子持ち、借金持ち、変わった性癖を持つ男たちに繰り返し騙され、傷つけられても、彼らの中に見つけた一点の"愛しいところ"のためにすべてを受け入れる。彼女にとっての"愛しいところ"とは、居酒屋で注文するとき、メニューの漢字を読めない高慢な男や犬に声にびくつく野蛮な男だったり、彼女が、虫刺にされたこと

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【読書ノート】『ハズバンド』(『我が家の問題』より)

【読書ノート】『ハズバンド』(『我が家の問題』より)

『ハズバンド』(『我が家の問題』より)
奥田英朗著

"どうやら夫は仕事ができないらしい"で始まる平和な夫婦の日常の物語を妻が語る。

仕事が出来なくても、腐らずに前向きで日々を過ごすことが、大事なことだと思わされた。

物語の主題は何か?
人の評価に左右されず、マイペースに日々、喜んで生きることが大切だということだと理解した。

生まれてくる子供にどんな名前をつけるか。問題になりがちな話題がなか

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【読書ノート】『芹葉大学の夢と殺人』(『鍵のない夢を見る』

【読書ノート】『芹葉大学の夢と殺人』(『鍵のない夢を見る』

『芹葉大学の夢と殺人』(『鍵のない夢を見る』
辻村深月著

主人公(二木未玖)が、ラブホテルの非常階段から転落し意識不明の重体となったところから物語は始まり、事件に至った経緯が、物語となっている。

二木未玖と羽根木雄大の出逢いは芹葉大学。

未玖には、デザインという夢があった。雄大は、医者になってから、サッカーの選手になるという途方もない夢をもっていた。いまは、芹葉大学教授殺人事件の容疑者になっ

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【読書ノート】『夏の少し前』(『つめたいよるに』より)

【読書ノート】『夏の少し前』(『つめたいよるに』より)

『夏の少し前』(「つめたいよるに」より)
江國香織著

三好達治の詩「いにしへの日は」という、非常に幻想的な詩をモチーフにした物語。

主人公の洋子は、過去や未来の一幕をみながら、時間を過ごしていく。

キーワードを探ってみる。

①タイトル「夏の少し前」

1. 移り変わりと流転の概念:「夏の少し前」は季節の変化の一瞬であり、風景や状況が瞬く間に変わっていくことを示唆している。これは、哲学的な観

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【読書ノート】『小さきものへ』

【読書ノート】『小さきものへ』

『小さきものへ』
有島武郎著

作者自身が物語のモデルらしい。
母親(主人公の妻)が、結核になって、幼子を残して、隔離され、死んで行くのだけど、子供たち3人は、母親が死んだことを知らせないどころか、葬式にも出させない。

そんな子供たちに向けて、父親が、
メッセージを残す形の物語となっている。

物語の締めくくりに以下のことばが綴られる。

"小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母と

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【読書ノート】『ルルちゃん』(『父と私の桜尾通り商店街』より)

【読書ノート】『ルルちゃん』(『父と私の桜尾通り商店街』より)

『ルルちゃん』(『父と私の桜尾通り商店街』より)
今村夏子著

主人公の「わたし」は、図書館で、安田さんと出会った。
安田さんは、どういうわけだか、自宅に「わたし」を招待してくれて、カレーを振る舞ってくれた。
その時、ソファに座っていたのは、知育人形のルルちゃんだった。
安田さんは、ニュースで、子供の虐待の話を見ると、ルルちゃんを撫でて、虐待への憎しみを吐き出す。過去、虐待を受けていたことのある「

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【読書ノート】『双子と沈んだ大陸』(『パン屋再襲撃』より)

【読書ノート】『双子と沈んだ大陸』(『パン屋再襲撃』より)

『双子と沈んだ大陸』(『パン屋再襲撃』より)
村上春樹著

『1973年のピンボール』の5ヶ月後の話。恋人の死、友人の失踪やその原因を作った自分の立場。

どう理解すればよいのか?
キーワードを追ってみた。

①双子:「1973年のピンボール』でも登場した双子の女の子。

1. 同一性と差異性: 双子は見かけ上は同じように見えるが、個々の性格や経験は異なる。

2. 二重性:生命と死、善と悪、光と

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【読書ノート】「かもめ食堂」

【読書ノート】「かもめ食堂」

「かもめ食堂」
群ようこ著

サチエがフィンランドで食堂を営みながら遭遇する出逢いを通してほのぼのとしたあったかい気持ちになれる物語。映画化もされている。さーっと読めてしまうのだけど、いくつか、キーワードを挙げてみる。

①かもめ
自由、孤独、存在の本質を象徴する。かもめは空を自由に舞い、独自の世界を持ちながらも他の鳥と交わることもある。このようなかもめの行動や姿勢は、哲学的な視点から自由な存在と

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【読書ノート】『美弥谷団地の逃亡者』(『鍵のない夢を見る』より)

【読書ノート】『美弥谷団地の逃亡者』(『鍵のない夢を見る』より)

『美弥谷団地の逃亡者』(『鍵のない夢を見る』より)
辻村深月著

DVの彼(柏木陽次)と主人公の女性(浅沼美衣)が、何の準備もせず、行き当たりばったりに九十九里界隈を旅しているという物語。

陽次とは、携帯のご近所サイトで出逢った。きっかけは、陽次が語る相田みつおの詩。

物語は、美衣の過去を行ったり来たりしながら、二人は何故、旅行の準備もせずに旅をしているのかというなぞに迫る。

①「うそはいわ

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【読書ノート】『日曜日はどこへ』(『愛の夢とか』より)

【読書ノート】『日曜日はどこへ』(『愛の夢とか』より)

『日曜日はどこへ』(『愛の夢とか』より)
川上未映子著

その小説家が亡くなっていたことをネットニュースで知ることになった。高校生の頃、その作家の作品がきっかけで、雨宮くんとお付き合いすることになったことを思い出した。

①日曜日
休息、再生、家族や社会とのつながり、そして精神的な更新を象徴する。日曜日に植物園に行く行為は自然とのつながり、静寂と平和を求める、そして生命の美と多様性を理解し尊重する

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【読書ノート】『偽ガルシア・マルケス』

【読書ノート】『偽ガルシア・マルケス』

『偽ガルシア・マルケス』
古川日出男著

ガルシア・マルケスの作品から多くの影響を受けた作者が、ガルシア・マルケス論を展開する。

「読書の染み」とは?
読んだ後に心に残るイメージや印象のことを指す。数時間後、一日後、一週間後にまだ心に残っている情景や感じた感情などがそれに当たる。

本を読むと、読書は染みになる。長篇は、たぶん粗筋のように言える。ちゃんとした粗筋にはまとめられないにしても、こんな

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【読書ノート】『夢の殺人』

【読書ノート】『夢の殺人』

『夢の殺人』
浜尾四郎著

藤次郎はバイト先で出逢った可愛らしい女性、美代子に恋をしていた。意外にも、美代子は、藤次郎と付き合ってくれるのだった。藤次郎は、勇気がなくて彼女と一線を越えることができないでいる。そんな折、バイト先に新人(オーナーの親戚)の要之助が現れた。藤次郎よりいくつか若いのだけど、見た目が、何とも美男子。ちなみに藤次郎は、不男。美代子は、要之助に鞍替えする。
面白くない、藤次郎は

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【読書ノート】『おばあちゃんの家』(『あひる』より)

【読書ノート】『おばあちゃんの家』(『あひる』より)

『おばあちゃんの家』(『あひる』より)
今村夏子著

みのりとは、血のつながりのないおばあちゃんは同じ敷地の離れ(通称:インキョ)に住んでいる。そんな、おばあちゃんに纏わる不思議な物語。

なかなか、主題が掴みにくい物語なので、キーワードをいくつか上げてみる。

①(スーパー)おおはしとは?
結びつきや結合、または異なる要素間の接続や移行を象徴する。

②(みのりは)孔雀を見つける
1. 現在の瞬

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【読書ノート】『身内に不幸がありまして』(『儚い羊たちの祝宴』)

【読書ノート】『身内に不幸がありまして』(『儚い羊たちの祝宴』)

『身内に不幸がありまして』(『儚い羊たちの祝宴』)
米澤穂信著

大富豪の令嬢吹子と使用人夕日の物語。吹子は完璧な令嬢であり、夕日とは姉妹のように親密に育つ。そんな中、事件が起こる。吹子の兄である宗太が乱心状態で、屋敷を襲撃し、夕日と吹子は応戦するというもの。その後、連続殺人事件が起きる。という話。

①夜の怖さ

1. 暗闇: 夜は一般的に暗くなるため、視覚的な情報が制限される。暗闇には見知らぬ

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