【読書ノート】『ルルちゃん』(『父と私の桜尾通り商店街』より)
『ルルちゃん』(『父と私の桜尾通り商店街』より)
今村夏子著
主人公の「わたし」は、図書館で、安田さんと出会った。
安田さんは、どういうわけだか、自宅に「わたし」を招待してくれて、カレーを振る舞ってくれた。
その時、ソファに座っていたのは、知育人形のルルちゃんだった。
安田さんは、ニュースで、子供の虐待の話を見ると、ルルちゃんを撫でて、虐待への憎しみを吐き出す。過去、虐待を受けていたことのある「わたし」にしてみれば、そんな安田の行動は、子供にとって迷惑でしかないことを悟って、安田さんからルルちゃんを解放する。
主人公(「わたし」)
親から虐待を受けていたこともあり、親に対する期待が皆無、自由奔放で独立心が強く、自己啓発とスピリチュアルへの興味を持つ、自己完結的な存在。
安田さん
見た目は、上品であり、彼女の生活や趣味からは、社会の中で決まった役割を果たすことに満足感を見い出している。彼女は従来のジェンダーロールに準じた生活を営みつつも、自身が充実した人生を送れるように希望している。残念なことに、おそらく、子供ができなかったため、夫は、子供の代わりとして、「ルルちゃん」を与えた。そして、それが原因で、夫とは半ば別居状況なのだと思った。
ルルちゃん
幼児向けの知育人形なのだけど、安田さんにとっては、依存の対象の存在だった。「わたし」は、そんなルルちゃんを救い出さなければならないと思ったのだろう。
この物語の主題は、何か?
家族という関係性とその中での役割について考えさせる。主人公「わたし」は、過去の虐待体験から自己を守るために家族から距離を置き、自分自身で生きて行く姿勢を示しています。一方、安田さんは、夫に距離を置かれて、また、子供がいないことを補うために、人形のルルちゃんを子供と見立て、自己の依存の対象としている。
物語は「わたし」と安田さんの違う家族観を通じて、親と子の間でどのような関係が存在するべきなのかが、問われる。安田さんはルルちゃんに取り憑く。一方、「わたし」はルルちゃんを保護するために、安田さんから引き離す行動を取る。
つまり、この物語は、家族の中での相互の関係性や役割、またそれに伴う葛藤や対立を描きつつ、家族とは何か、親子とは何かという問いを投げかけているのだと思った。
私が、子育てを通して思ったことは、子供は自分の人生を切り開いていくものだということ。もしろ、子供が、存在することで、人間的に成長するのは、親の方なのだということ。そして、おそらく、子供は、親になった時、生まれてくる子供によって、人間的に成長していくのだということ。