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#川端康成

『雪国』終章の「のびる」時間

『雪国』終章の「のびる」時間

『雪国』の終章では二つの時間が流れています。「縮む時間」と「のびる時間」です。「縮む時間」については「伸び縮みする小説」と「織物のような文章」で詳しく書きましたので、今回は「のびる時間」に的を絞って書いてみます。

 ここからはネタバレになりますので、ご注意ください。

     *

「のびる時間」というのは、火事になった繭倉の二階から葉子が落下する瞬間が、くり返し描かれるという意味です。

 

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山の記憶、「山」の記憶

山の記憶、「山」の記憶

 今回は、川端康成の『山の音』の読書感想文です。この作品については「ひとりで聞く音」でも書いたことがあります。

◆山と「山」
 山は山ではないのに山としてまかり通っている。
 山は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通っている。

 体感しやすいように書き換えると以下のようになります。

「山」は山ではないのに山としてまかり通っている。
「山」は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通って

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うつす、うつる、うつってしまう

うつす、うつる、うつってしまう

 川端康成の『名人』には「うつす」と「うつる」と「うつってしまう」が出てきます。

 頼まれて「うつす」ことになった写真に「うつる」ものを見て、「うつってしまう」を感じたときの気持ちが文字にされているのです。「みる・みえる」について考えさせてくれる刺激的な記述に満ちています。

 なお、『名人』については以下の記事に書きましたので、よろしければお読みください。

写す・写る
 写真を撮る場合には、

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「似ている」を求めて(「客」小説を求めて・01)

「似ている」を求めて(「客」小説を求めて・01)

「客「である」、客「になる」、客「を演じる」(「物に立たれて」を読む・07)」の続きです。ただし、今回のこの記事は新しい連載の第一回として書きます。

 なお、「「物に立たれて」を読む」は続けます。

*前回のまとめ
 まず連載を始める切っ掛けになった前回の記事をまとめます。

*「客」小説、ゲスト・ノベル
 語り手をふくめ、主要な登場人物が「客」である小説はきわめて多いと感じます。こじつければあ

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「やま」に「山」を当てる、「山」に「やま」を当てる(言葉の中の言葉・02)

「やま」に「山」を当てる、「山」に「やま」を当てる(言葉の中の言葉・02)

 今回は「あなたとの出会い」で見た詩を、違った視点から見てみます。

*翻訳された詩
 上田敏訳の「山のあなた」(『海潮音』より)というカール・ブッセ(上田敏はカアル・ブッセと表記しています)の詩を見てみます。

 この詩は青空文庫でも読めますが、だいぶ下のほうにあって、探しづらいかもしれません。

     *

 まず、訳詩です。

 以下は、ドイツ語の原文です。

 残念ながら私はドイツ語に

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こわれる・くずれる(文字とイメージ・05)

こわれる・くずれる(文字とイメージ・05)

 体を壊す、体調を崩す。

 昨夜は寝入る前に、この二つのフレーズを転がしていました。

 こわす、壊す、壊れる、くずす、崩す、崩れる
 破壊、崩壊、崩壊感覚、環境破壊

 こういうのは寝入り際に転がすものではないと思い、他の言葉転がしに移りました。

 目覚めた頭で、あらためて転がしてみます。

見える「壊れる」、見えない「壊れる」
 こわれる。こわす。

 見えるものだけでなく、目でとらえられ

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うつす、ずれる

うつす、ずれる

 今回は「何も言わないでおく」の続きです。見出しのある各文章は連想でつないであります。緩やかなつながりはありますが、断章としてお読みください。

 断片集の形で書いているのは体力を考慮してのことです。一貫したものを書くのは骨が折れるので、無理しないように書きました。今後の記事のメモになればいいなあと考えています。

書く、描く
「書く」のはヒトだけ、ヒト以外の生き物や、ヒトの作った道具や器械や機械

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音もなく動くもの(スクリーン・06)

音もなく動くもの(スクリーン・06)

「薄っぺらいもの(スクリーン・05)」の最後に書きましたが、その記事で紹介した川端康成の『名人』の一節に、私がどきりとしたと言うか、はっとした部分があるので、今回はそれだけに絞ってお話ししたいと思います。

静の描写 細かく見てみます。

・「二日目の対局室は、明治時代のさびのついたような二階で、襖から欄間まで紅葉づくめ、一隅に廻した金屏風にも光琳風のあてやかな紅葉であった。床の間に八つ手とダリア

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場を移りながら生きるものたち

場を移りながら生きるものたち

 今回は「薄っぺらいもの(スクリーン・05)」と「音もなく動くもの(スクリーン・06)」の続きです。

 両記事で引用した川端康成作『名人』の一節の最後のセンテンスを取りあげますが、話を広げるために、記事のタイトルから「スクリーン」というシリーズの枠は外してあります。

結論
 まず、引用します。

 引用文の最後のセンテンスですが、私にとっては衝撃的な一文なのです。

 私がどう感じたかの結論か

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日、月、明(「物に立たれて」を読む・03)

日、月、明(「物に立たれて」を読む・03)

*「「物に立たれて」(「物に立たれて」を読む・01)」
*「月、日(「物に立たれて」を読む・02)」

 古井由吉の『仮往生伝試文』にある「物に立たれて」という章を少しずつ読んでいきます。以下は古井由吉の作品の感想文などを集めたマガジンです。

     *

 引用にさいしては、古井由吉作の『仮往生伝試文』(講談社文芸文庫)を使用します。

     *

 まず、前回の記事をまとめます。

 

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「めずらしい人」(錯覚について・03)

「めずらしい人」(錯覚について・03)

 川端康成の掌編小説『めずらしい人』は次のように始まります。

 地の文で「めずらしい人」と括弧でくくることで読者の興味を惹いています。括弧付きなのですから、意味ありげで訳ありっぽく見えるわけです。

 めずらしい人に会うのはめずらしい出来事ではありませんが、それが度重なるとめずらしいことになります。しかも三日おきか五日おきにめずらしい人に会う人こそ、めずらしい人だと言えるでしょう。

 冒頭の数

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表、目、面

表、目、面

 今回の記事は、「立体、平面、空白(薄っぺらいもの・05)」と「「タブロー、テーブル、タブラ(『檸檬』を読む・02)」」の続きです。

 見出しのある文章は連想でつないであります。緩やかなつながりはありますが、断章としてお読みください。

表、表裏、裏表
 表。ひょう。おもて。あらわす。あらわれる――。

 表を分けてみると、このような言葉とイメージがあらわれてきます。

 いま私が興味を持ってい

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映・写、移・動(スクリーン・02)

映・写、移・動(スクリーン・02)

 今回は「さえぎる、うつす、とおす(スクリーン・01)」の続きです。

「リーダーズ英和辞典」(研究社)と「ジーニアス英和大辞典」(大修館書店)で screen を調べると、以下の日本語訳が目に付きます。

 1)さまたげるもの、さえぎるもの。ついたて、すだれ、びょうぶ、幕、とばり、障子、ふすま、仕切り、障壁、目隠し、遮蔽物、遮蔽、スクリーンプレー。おおい隠す、かくまう、かばう。

 2)うつすも

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わける、はかる、わかる

わける、はかる、わかる

 本記事に収録した「同一視する「自由」、同一視する「不自由」」と「「鏡・時計・文字」という迷路」は、それぞれ加筆をして「鏡、時計、文字」というタイトルで新たな記事にしました。この二つの文章は以下のリンク先でお読みください。ご面倒をおかけします。申し訳ありません。(2024/02/27記)

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 今回の記事は、十部構成です。それぞれの文章は独立したものです。

 どの文章も愛着のあるも

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