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数字や色、過去・未来の概念がない『ピダハン族』に学ぶ生き方/ダニエル・エヴェレット
こんにちは!
「noteの本屋さん」を目指している、おすすめの本を紹介しまくる人です。
あなたは、数、色、過去、未来、そして神という概念のない世界を想像できますか?
アマゾンの熱帯雨林の奥深く、そんな信じられない文化を持つピダハン族がひっそりと暮らしています。
いまから紹介する『ピダハン――「言語本能」を超える文化と世界観』は、言語学者ダニエル・L・エヴェレットが30年以上にわたる現地調査で明らかになった、ピダハン族の驚くべき言語と文化を綴った、世界的ベストセラーです。
ピダハンは、数や色、過去・未来、神といった概念を持たず、彼らの言語には再帰、数の表現、色を表す言葉が存在しないという、従来の言語学の常識を覆す特徴を持っています。
本書は、そうしたピダハンの言語と文化を詳細に描写し、普遍的な言語能力の存在を前提とするチョムスキーの「言語本能」論(人間は生まれつき「言語を獲得する能力」を持っている)に異議を唱えています。
主な内容は以下の通りです。
ピダハン文化のユニークさ 数や色、過去・未来といった概念を持たないピダハンの文化は、私たちが当然だと思っている世界の認識の仕方が唯一のものではないことを教えてくれる
ピダハン言語の特徴 再帰、数の表現、色を表す言葉がないんです!ピダハン語の特徴は、普遍的な言語構造の存在を疑問視させる
言語と文化の相互作用 ピダハンの言語と文化は結びついており、言語が文化を形成するだけでなく、文化が言語を形作るという相互作用を示す
言語学への新たな視点 普遍的な言語能力を前提とするチョムスキーの「言語本能」論に異議を唱え、言語と文化の多様性を重視する新たな視点をあたえる
本書は、言語学や文化人類学に関心のある方はもちろん、私たちが当たり前だと思っている世界の認識の仕方を問い直したい方にもおすすめです。
そのユーモラスな語り口は、読み物としても楽しめるものになっています!
著者と背景
ダニエル・L・ヴェレットは、アメリカ出身の言語学者・人類学者。1977年、キリスト教福音派の宣教師として妻とともにアマゾンの奥地に住むピダハン族と邂逅。当初はピダハン語を習得し、聖書を翻訳することでキリスト教に改宗させようと試みたが、彼らの文化と言語に触れるうちに、自身の信仰と西洋中心的な価値観に疑問を抱くようになる。その後、言語学者としての道を歩み始め、30年以上にわたってピダハン族の研究を続けた
ピダハン族の文化と世界観
ピダハン族は、ブラジルのアマゾン川流域に住む狩猟採集民で、人口は400人にも満たない少数民族。彼らは独自の文化と言語を持ち、西洋文明とは全く異なる価値観に生きている
「今、ここ」を生きる文化 ピダハン族は、過去や未来、抽象的な概念に関心を示さず「今、ここ」にある具体的な経験のみを重視する
所有欲の低さ 彼らは物資を蓄えることを試みず、必要なものをその都度調達する
平等主義 階級やリーダーが存在せず、全員が平等な関係を築く
自然との共生 自然を深く尊重し、自然の一部として生きる
ピダハン語の特異性
ピダハン語は、従来の言語学の常識を覆す多くの特徴を持っていると書かれています。紹介させていただきます。
再帰の欠如 他の言語では当たり前に存在する再帰(「彼が言ったと私が言った」のような入れ子構造)の概念が不在
数の表現の欠如 「1」「2」「たくさん」のような数の表現がなく、量的な概念を正確に表すことができない
色を表す言葉の欠如 色を表す言葉がなく、色に関する表現が限局的
時制の欠如 過去や未来を表す時制がなく、現在時制のみで動く
言語本能への挑戦
ピダハン族の特徴を通して、エヴェレットはチョムスキーが提唱した「普遍文法」理論、つまり全ての人間が生まれつき言語能力を持っているという考え方に疑問を投げかけます。エヴェレットは、ピダハン語の特異性は、彼らの文化と言語の相互作用によって生まれたものであり、普遍的な言語能力の存在を否定する証拠だと主張しています。
批判と論争
本書の内容は、言語学界に大きな衝撃を与え、多くの議論を巻き起こしました。一部の言語学者からは、エヴェレットの主張は誇張されており、ピダハン語にも再帰や数の表現が存在するという反論がなされています。しかし、本書は言語と文化の多様性、そしてその相互作用の重要性を再認識させるきっかけとなりました。
本書の意義
『ピダハン――「言語本能」を超える文化と世界観』は、私たちが当たり前だと思っている言語と文化の概念を問い直し、世界の見方の多様性を教えてくれる1冊です。言語学や人類学に関心のある方はもちろん、異文化理解を深めたい方にもおすすめです。
感想
驚きと発見
言語と文化の多様性 ピダハンが数や色、過去・未来といった概念を持たないという事実は、私たちが当然だと思っている世界の認識の仕方が唯一のものではないことを痛感させられました
言語の柔軟性 ピダハン語の特異な特徴は、言語がいかに文化と密接に結びついているかを示しており、言語の柔軟性と多様性に驚かされました
文化相対主義の重要性 ピダハンの文化を理解しようとする著者の姿勢は、異文化を尊重し、自文化中心主義に陥らないことの大切さを教えてくれました
疑問もあり
普遍文法の否定 チョムスキーの普遍文法理論を完全に否定するには、さらなる研究が必要だと感じました。ピダハン族の一例のみで覆すのは難しいかも……?
ピダハンの理想化 ピダハン文化を理想化しすぎているように感じられる部分(前回紹介したサイードのいう『オリエンタリズム』のような視座)があり、彼らの文化にも問題点や課題があるはずです
まとめ
本書は、言語学や人類学の知識がなくても楽しめる読み物です。ピダハンの文化と言語の特異性を通じて、私たち自身の文化や言語を見つめ直すきっかけを与えてくれるでしょう。
ただし、本書の内容を全て鵜呑みにするのではなく、批判的な視点を持つことも大切です。他の言語学者によるピダハン研究や、異なる文化に関する書籍も読んで、多角的に考察することをおすすめします。
個人的な感想
私自身、本書を読んで、言語と文化の多様性に改めて驚かされました。ピダハンが「今、ここ」を生きる文化は、現代社会のストレスや不安から解放されるヒントになるかもしれません。
また、ピダハン語の特異性は、言語の無限の可能性を感じさせ、言語学への興味を深めるきっかけとなりました。
本書は、読む人によって様々な感想を持つことができる奥深い作品だと思います。
ぜひ一度手に取って、ご自身の目で確かめてみてください。
数も色もない世界を知る冒険へ!
言語学の新たな境地にいざなう、ピダハンの世界に飛び込もう!
【編集後記】
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