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境界文学館

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記事一覧

【エッセイ】「ゴレンジャー」のお面

【エッセイ】「ゴレンジャー」のお面

四十年以上前、父と近所の夏祭りに行った。お盆で、公民館の敷地が会場だった。いくつも夜店があって、市民たちはグラウンドに設えられた櫓の周りで盆踊りを始めていた。当時「あとの祭り」などということわざを、筆者が知っていたかどうか。

幼少期の私は、よく女の子に間違えられていた。それでも筆者が好きなのは男の子向けとされる少年マンガや戦隊もので、特に当時流行りの「秘密戦隊ゴレンジャー」は、大のお気に入りだっ

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【エッセイ】父との思い出②「父が手を擦るゴマをする」

【エッセイ】父との思い出②「父が手を擦るゴマをする」

前回、父といた最初の記憶について書いたと思う。だがさらに昔の記憶があった。これより古いのは無いから、正真正銘最初である。それを書いておきたい。

たいしたことではないから、自分がどうしてこんな記憶を保持しているのかは分からない。そのとき父は家のリビングで、道具(ゴルフクラブ?)を分解していた。掃除するためなのか、組み立て直していたのかは不明である。父の横にはネジの山がふたつあった。

私は物心つい

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【詩】「厳冬一顧」

【詩】「厳冬一顧」

暮れゆく冬空は
東に月を擁し
清らかに澄む

西の雲は柔らかく
暖かそうな桃色で
入日の後髪を引く

藍色の頭上には大粒の
一番星が

絶景に預かれるのは
私だけではあるまいが

遠くの人々も
しばし足を止め
空を仰ぎますように

【エッセイ】父との思い出①「美とはナニか」

【エッセイ】父との思い出①「美とはナニか」

亡き父はサラリーマンだった。いま思えば、どこか子供のようなところがあって憎めない性格だった。それは欠点ではあったけれど、愛すべき点でもあったのだ。それだけに、私が心を閉ざして以来ほとんど話す機会が無かったのは至って残念である。子煩悩なところがあったので、私の小さいうちは可愛がってくれた。

父との最初の思い出ではないかと思う。一緒に風呂を上がって、髪の毛を乾かしていたときだった。父がいきなり、何の

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【詩】「気象予報夢」

【詩】「気象予報夢」

くたびれて寝落ちした夏の夜
夢に現れた人が出し抜けに
微笑んでこう言った
「もう六月も終わりですね」

そうですねと答えながら
夢の中の私はまだ汗をかいていた
テレビでの不快指数
遠くでは蝉の声

だが彼の台詞は私自身の
無意識が保証しているはず
覚醒時の私はそう分析する
もう少しの辛抱かもしれない

止まない雨は無いというが
只の希望的観測だろうか
人生を覆う長くて
蒸し暑い梅雨はどうだろう

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私としては note上で初めて、有料マガジンを公開しました。タイトルは『境界幻想文学 ある心象風景』です。すでに紙媒体で、地元で販売しているのとほぼ同じ内容。紙媒体よりもお手頃な価格でお読みいただけます。よろしくお願い申し上げます。

【詩】「私的十二月」

【詩】「私的十二月」

家路を急ぐ人々で
いっそう気忙しい駅構内
手袋はめて準備万端
縮こまってビルを出ると

あっ

冬空の穏やかな色
その移り変わりに
思わず息を呑んだ

もうすぐクリスマスだなあ

<エピソード>
中島みゆきさんの名曲のひとつに、「十二月」という題名の曲があります。鬼気迫る内容の歌詞(二番は削除されたというウワサ)だけど、大好き。まだネットで聴けなかった約30年ほど前に、大阪の電気街を一日中探し回っ

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【詩】「天恵拝受」

【詩】「天恵拝受」

いつものように絶望が
その淵を開いたとき

ひと筋の光明
ほんのひと筋の光明

美しい満月と目が合ったのだ

その優しい力強さに私は
ゆっくりと前を向いた

【詩】「懊悩」

【詩】「懊悩」

こんな不埒を考えて
地獄に落ちたりしないだろうか

貴女と世界を天秤にかけて
どちらか選べと言われたら

私は貴女を取るかもしれない

【短編小説】「Kの悲劇」

【短編小説】「Kの悲劇」

Kは耳を疑った。何だって?
「もう一度お願いできませんか」
同じ返答。
「も、もう一度」
相手の答えは同じだった。体をわなわな震わせると、Kは膝から崩れ落ちた。

         ◇

気がつくとKは、スタッフに囲まれていた。
「Kさん、大丈夫ですか」Sという女性が訊いた。聞き取りやすい、澄んだ声だ。
Kは微かに目を開けたものの、声が出ない。力の無い目に、見慣れた照明の白い光が飛び込む。「………

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【詩】「りふじんリムジン」

【詩】「りふじんリムジン」

りふじんリムジン異邦人
意外な生涯ウォール街
危険はっけん太極拳
四軒まわって追試験

捨て子みなしごイタリア語
イタチ逆立ち埋め立て地
きつね義経カンツォーネ
切手コヨーテ石つぶて

釜山デッサンえべっさん
おいどんカツ丼ポセイドン
桓武ドリーム明晰夢
ホームズむずむず親知らず

有為のおくやまけふこえて
虹が見えたらこっちへおいで
生まれかわったごほうびは
シュークリームと終結夢

遅くなりましたが、先日見知らぬアカウント様からサポートを頂戴しました。本当にありがとうございました。ほとんど頂いたことが無かったので感激。額もけっこう……。改めて御礼申し上げます。

店舗に並ぶ予定の私家本第二版。既にお買い求めくださった方がいらして、感謝感激です。50ページ少しのボリュームなのに600円+税という価格設定。かえって手に取っていただけるのでは、と考えて、あえてです。初版と同じく兵庫県西宮市甲子園近くの、「slow MoTioN」にて販売します。

【詩】「自分専用道路」

【詩】「自分専用道路」

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なかなかいいね
自分もと筆をとるが
思い直して置く
わが道を行こうと

世の美しい詩も
下手な絵も
すばらしい彫刻も
つまらない作文だって
誰もが綜苧(へそ)を巻いているのだ

今日も目を覚ませば
ベッドから広がる
私だけの原稿用紙

「人生」などという
ありきたりな呼び名にめげず
私だけが綴る
自分専用道路