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2024年2月の記事一覧
【短編】『後回し症候群』
後回し症候群
やらなければいけない作業をほったらかして、あるいは手つかずの状態になってしまい、それを後回しにする。その時の自分は現実からの逃れられるものの、未来の自分にツケが回り責任を負う羽目になるのだ。そして、その時の自分が責任を負えなくなった矢先には、さらに未来の自分に責任を投下することで、最終的に期限直前の自分が全ての責任を負わされるのだ。これが後回しの表面的なからくりである。誰しも生き
【短編】『時代の先へ』
時代の先へ
どうすれば今の時代、先駆的な作品を作ることができるだろうか。真新しいことをしようとしてもすでに誰かが考えついたものばかりで、何も先駆的ではないではないか。そもそも、先駆的になろうとすること自体が今の時代、先駆的ではないのかもしれない。と皮肉を込めて言い訳を呟いても仕方がないので、ここで一度真剣になって考えてみようと思う。
そもそも、今までの時代で先駆的と言われてきた作品たちはど
【短編】『真っ暗な壁』
真っ暗な壁
私は気づくと身動きの取れない場所にいた。周りは真っ暗で何も見えなかった。四方壁に囲まれ、まるで自分が干からびた井戸の中にでもいるように思えた。しかし上から光が差し込む気配はなくかといって天井すらはっきりと指し示すことはできなかった。唯一感じ取ることができたのは中にこもる冷たい空気と終始漂う何かが焦げたような匂いだった。周囲からはなんの音も声もなく、この世にこのような静けさが存在した
【短編】『三文の徳』
三文の徳
私は常日頃頭を抱えながら小説を書いているのだが、時にこういう質問をされることがある。あなたはどこから話のネタを集めてくるのかと。そして私はこう答えるのだ。私はネタを集めたことはないが、タネを集めることはあると。すると、その者ははてなという顔をするので、私はこう続けるのだ。タネとは、辞書で調べると出てくるはずだが、植物が発芽するためのものであって、それ以外に仕掛けやからくりといった意味
【短編】『恋は難問』
恋は難問
試験監督の号令で試験は開始した。教室は私服を着た若者たちに埋め尽くされ、腕時計の針が動く音、ペンを走らせる音、ページをめくる音が同時に部屋中に響き渡っていた。私は一秒たりとも時間を逃すまいと開始の号令とともに問題用紙をめくりあげ、問題文の方に視線を走らせた。この日のために今日まで勉強してきただけに緊張で頭が真っ白になりそうになりながら、必死に脳内の文字認識機能を働かせた。読解文の頭を
【短編】『ウソの中のほんと』
ウソの中のほんと
あなたは日頃、ニュース番組やドキュメンタリー映像、新聞やネットなどで目にするあるいは耳にする情報を、どれくらいの割合で信じているだろうか。新商品が発売するというプレスリリース。物価が上昇したという報道。午後から悪天候になるといった天気予報。どれも人々の生活には欠かせないことばかりであるが、果たしてそれら情報というものは確実に信頼して良いものなのだろうか。最近では、炎上や誹謗中
【短編】『旋律の響き』(後編)
【前編】はこちら
旋律の響き(後編)
※この作品内には、一部性的な描写が含まれます。
私は彼女の思惑にのってやると言わんばかりにすぐに身に纏っているものを脱ぎ捨てた。毛布の中に入ると、酔っているためか彼女の体が暖かく感じた。彼女は私の下敷きになりただ私を見つめるだけで何も言わなかった。しばらく互いに動きを合わせていると、私は発情して彼女に言葉を投げかけていた。
「君が欲しい」
しかし彼
【短編】『旋律の響き』(中編)
【前編】はこちらから
旋律の響き(中編)
※この作品内には、一部性的な描写が含まれます。
彼女の体格は演奏の時に着ていたロングドレスから細身の印象があったが、意外にも胸からヘソ下にかけて肉付きがあり、しかしくびれにはしなやかさもあった。腰から足先にかけては細く、若干胴体と比べると不釣り合いにも見えるが、しっかりと難解な姿勢を保ちながら綺麗な形をレンズに向かって見せつけていた。こちらに送る笑
【短編】『旋律の響き』(前編)
旋律の響き(前編)
彼女の鍵盤を叩く姿はある時にはまるで天使がハープを弾いているように美しく見え、またある時には殺し屋のように猛烈に激しく恐ろしくも感じられた。しかし、いざ鍵盤から指先を離すと全くもってそれらの面影は消え去り、存在感すら感じられないほど別人へと様変わりするのだ。私は毎度、ステージの裏から彼女がピアノを弾き終わりこちらへと戻ってくる姿を見ながら、ピアノを前にした彼女とそうでない彼
【短編】『長い一日』
長い一日
昔からいつも母に起こしてもらっていた私は次第に寝起きが悪い体質なってしまって、母がそばにいない今毎日が自分との闘いなのだ。もちろん、まだ寝ていたいと言い張るずぼらな自分に勝てるはずもないのだが。寝起きが悪いと言っても、目覚ましが鳴っているのに気づかないのはもちろんのこと、火災報知器が鳴っていてもすやすやと眠っているほどなのだ。いつか大災害が起きた日には夫がまだ家から出ていないことを願