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『人生万景』イサオヒロミ

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イサオヒロミの『人生万景』です。 仕事やプライベートで感じたことを書きまとめています。
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#日記

『大昔から、僕らは夜空を旅している』〜人生万景〜

『大昔から、僕らは夜空を旅している』〜人生万景〜

その日、小堺一機さんはお休みだった。
演出家助手の男性が代役を演られた。

エピローグでその方が声を詰まらせた。
台詞が自分の心境と重なったのだろう。

誰もが一生懸命がんばって、何かまともなものになろうとしている。
その方は僕であり、皆でもあった。

泣いてもいるけど。物語を進められるのはこの方しかいなかった。終わらせられるのも。

僕達は静かに見守った。

手に持った台本を読んでいるだけなのに

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『シティハンターの、ってなに?』 〜人生万景〜

『シティハンターの、ってなに?』 〜人生万景〜

本屋で一人の男性客(40代前半)がレジの前で「シティハンターのください」と言った。
奥の棚から下敷きのようなものを店員さんがささっと抜きとり、素早く男性客に手渡した。
……裏メニュー? 店員さんが無言+あまりにもささっとその男性にブツを手渡したもんだから。見てはいけないものを見てしまったような気になった。
駅ビルでおにぎりを7個買って、商店街を歩いていると、さっきの男性客が不動産屋の前で賃貸情報

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『さよなら、SR』 〜人生万景〜

『さよなら、SR』 〜人生万景〜

何も知らない芋野郎だった僕は、Kawasakiのバイク専門店でなぜかこのヤマハのSRを注文し、購入しました。22歳くらいだったと思います。二輪の免許を取るために通う学校みたいなところの近くにたまたまそのKawasakiのバイク屋があり、これも縁だと信じ込み、初訪問でそのまま注文しました。そのときの担当者の方から「うちはKawasaki専門だからヤマハのバイクはヤマハで買ったほうが安いだろうしアフタ

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『漆黒の罠』 〜人生万景〜

とんでもなくこわい思いをしました。今まで生きてきた中で1位かもしれません。幽霊とかよりももっとこわいやつです。

今日、ガチャガチャが出てくるところに前の人が取り忘れたかのようにガチャガチャが既に出ていました。説明書みたいなやつが入っていて重さ的に中身が入っているように感じたので、「マジかラッキーじゃんこれ」と蓋を開けてみるとなんと黒いゴギブリが入っていました。古い家に出てきそうな黒よりも黒のゴギ

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Vol.2『西新宿/掌の記憶』 人生万景

Vol.2『西新宿/掌の記憶』 人生万景

恩人と西新宿で別れたあと、握手をした手の平を僕は嗅いだ。

恩人が吸った煙草の匂いがした。

煙草の匂いは消えるけど、それ以外は消えない。朝まで手を洗い続けたとしても。

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そのコーチは僕のことを下の名前で呼んでいた。しかも力強く。下の名前で呼ばれるのは初めてだったから。親以外で。最初は抵抗感があった。

ボクシングジムを辞めるとき、お

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『生きていても、死んでいても。』 〜人生万景〜

『生きていても、死んでいても。』 〜人生万景〜

お世話になっていた先輩が亡くなった噂を聞いた。本当かどうかはわからない。でもきっと本当だと思う。信じたくはないけど。本当だと思う。そんな気がする。

あそこに行って、そこで訊いてしまえばちゃんとしたことが判ると思うんだけど。行っていない。行けていない、じゃなくて、行っていない。これからも行かない。行っちゃうと本当が確定になっちゃうから。

時々、先輩が住んでいた家の近くを通ることがある。わざわさ通

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『時を超えた告白』 〜人生万景〜

中学一年生。
体育委員として初めての業務は、お昼休みに体育倉庫で生徒にボールの貸し出しをする、でした。受付係です。
お昼休み中に体育倉庫にボールを借りにきた生徒にサッカーボールであったり、バスケットボールだったり、バレーボールだったりと、そういった丸いものを次々と手渡し、お昼休みが終わる頃には次々とそれらを回収する、という業務だったと記憶しています。

お昼休みが終わるまでは密室である体育倉庫の中

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『責任者』 〜人生万景〜

『責任者』 〜人生万景〜

デパートの上の本屋で立ち読みしていると、「羽生結弦の本あります?」と如何にも金持ちそうなお婆さんが、本の整理をしていた男性店員(20代前半)に声をかけたのが横目に入った。
意外にも近くに羽生結弦特集というかフィギュアスケート特集みたいなコーナーがあり「あ、羽生結弦が書かれている本はこれと……これ……もですね」とお婆さんに羽生結弦の自伝本みたいなやつと羽生結弦が表紙の雑誌を手渡した。
「ねえ、ちょっ

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『必然な風』 〜人生万景〜

『必然な風』 〜人生万景〜

3年前。お互いの背景を知らずに毎日のように顔を合わせていた。

「俺はお前のことは心許してるつもりだよ」
ある日の朝、砂利の駐車場でそう言われた。
その時にお互いの背景を初めて話し、知った。

僕の俳優としてのデビュー作は湘南乃風のMVだったこと。
https://youtu.be/UNzxqd2KiXI

ゴキさんはGOKIさんで元湘南乃風だったこと。
https://youtu.be/QIyG

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『らしい』 〜人生万景〜

『らしい』 〜人生万景〜

京都にある親戚の家に泊まっている。そのことを起床時に思い出した。

布団から体を起こすと……水槽が目についた。

水槽に顔を近づけて覗いていると、「ウーパールーパーやで」という声が肩を叩いた。

振り向くと、目を擦りながらの姪っ子が立っていた。

「そいつらすごいで。ノウ食われても再生するんやで」

「ノウってこの脳?」

「そうやで。その脳やで」

調べてみると、心臓や目の水晶体、脊髄までも再生

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『出前』 〜人生万景〜

「ごめん、外食べに行く時間あれだから今日は出前にしよう」

 仕事先で出前を注文することに。ここの出前屋は初めての利用だった。

 メニュー表を睨むように見た先輩は「俺は炒飯」と言った。

「普通の炒飯頼むんならこの四十円高いオム炒飯のほうがよくないですか? 炒飯の上に玉子が被さってて色ありますよ」と僕は勧めた。

 到着したオム炒飯。玉子のシートの下にオレンジ色が少し見えた。オム炒飯の中身がまさ

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『待ち合わせ』 〜人生万景〜

『待ち合わせ』 〜人生万景〜

原宿駅で待ち合わせだなんて。どれくらいぶりだろうか。しかも竹下通り口だなんて。記憶にない、くらいない。ないのかも。待ち合わせしたことなんて。ここで。

……いや、ある。あるような気がする。思い出せないだけで。まだ竹下通りを歩いても許される年齢のときに。

大人になったら忘れてしまうようなネバーランド的なあれなのかもしれない。ここは。
……いや、ウェンディは憶えていた。大人になっても。実写版のやつで

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『無量』 〜人生万景〜

『無量』 〜人生万景〜

東京から広島へ。車で移動している。

京都にある親戚の家に寄った。休憩がてらに泊まらせてもらえることに。

窓を開けると、まとまった水のように風が入り込んできた。

「あれ? 目の前の診療所って、」

「閉まってるやろ? 死んだんや。先月。いきなり。お金死ぬほど稼いだから老後を楽しむ言うてたんやけどな。7月いっぱいで病院閉める言うてたんやけど、それを待たずに死んでもうたんや」

「……こんなこと言

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『忘れられない味と道』 〜人生万景〜

『忘れられない味と道』 〜人生万景〜

「五反田なら、大江戸線から浅草線で移動しますか?」と訊くと、「いや歩き。ここから20分くらいだから」と先輩は答えた。
……20分? と疑問には思ったけど、「まあ話しながらいこうぜ」と数歩先を歩く先輩を追いかける形で僕は六本木ヒルズを出た。

全く車に興味がない、と言っている先輩が、ランボルギーニの横幅について語っていた。

40分くらい歩いたところで「正味な話、あとどれくらいで着きますか?

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