『出前』 〜人生万景〜
「ごめん、外食べに行く時間あれだから今日は出前にしよう」
仕事先で出前を注文することに。ここの出前屋は初めての利用だった。
メニュー表を睨むように見た先輩は「俺は炒飯」と言った。
「普通の炒飯頼むんならこの四十円高いオム炒飯のほうがよくないですか? 炒飯の上に玉子が被さってて色ありますよ」と僕は勧めた。
到着したオム炒飯。玉子のシートの下にオレンジ色が少し見えた。オム炒飯の中身がまさかのチキンライスだった。
なんだか怒られるような気がした。
僕は出前屋に電話した。
「いまオム炒飯注文した者なんですが。オム炒飯の中身ってチキンライスなんですか?」
「ハイ。ソオデスヨ」
なんとかしないといけない。
僕が注文した五目炒飯に、オム炒飯の玉子のシートを移植させて「オム炒飯です」と先輩にそれを渡した。
ただのチキンライスになってしまった元オム炒飯をしょうがなく僕が食べていると「なんだよお前、それ寂しくないか? それこそ色ねえじゃん」と先輩が話しかけてきた。
「俺の玉子やるよ。上にのせたらオムライスになるじゃん」と、さっき僕がこっそり移植させた玉子のシートを先輩が投げるようにくれた。
再び、正規のオム炒飯ができあがった。
こわいのは「出前、この前のとこにしよう」と言われること。「俺、この前のオム炒飯ね」と言われたら僕は毎回、五目炒飯を注文しなくてはいけない。