イサオヒロミ
イサオヒロミの『人生万景』です。 仕事やプライベートで感じたことを書きまとめています。
その日、小堺一機さんはお休みだった。 演出家助手の男性が代役を演られた。 エピローグでその方が声を詰まらせた。 台詞が自分の心境と重なったのだろう。 誰もが一生懸命がんばって、何かまともなものになろうとしている。 その方は僕であり、皆でもあった。 泣いてもいるけど。物語を進められるのはこの方しかいなかった。終わらせられるのも。 僕達は静かに見守った。 手に持った台本を読んでいるだけなのに。 書かれた台詞はその方の言葉として僕たちに降り注がれた。 夜空が見えた。
「どんな曲聴くの?」と訊かれるのはあまり好きではない質問の一つです。それを答えるものなら人間性や価値観を勝手に相手に決められてしまいそうな気もしてくるんです。 そもそも僕はあまり曲は聴かなくて。あれば食べるじゃないですけど。流れていれば聴くような。出不精型の耳をしています。 それでも音楽は嫌いではないですし。むしろ好きだと思います。 イルカとかオフコースとか。そういう優しめのやつでしたらいいんですけど。ドラムの音がガシャガシャするようなのはどうも苦手で。何度も奇声をあげ
4月10日。 年が明けてから今日で100日目らしい。 風呂上がりの下の娘(4)に「パパのめんたまちょっときもい」と言われた。 ちょっととはどのくらいだろうか。 大黒摩季も「ちょっと待ってよ」とは言っていたけど。言われた本人はどのくらい待ったんだろうか。 ちょっとって。ちょっと教えてほしい。 #イサオヒロミ #大黒摩季 #イラスト #イラストレーション #イラストレーター #illast #illustration #illustrator
「いま描けえや。どうせ家帰ったらお前は描かんのんじゃけえ」 ガラーさんのアトリエで作品を完成させない限り家に帰してもらえないことになった。 車で来ているからいいんだけど、 「お前がそれ描いとる内に俺はお前の名刺つくっといちゃるけえ」 時計の針は23時をまわっていた。 ガラーさんのパソコン画面に目をやると名刺のロゴが。年末にデザインしてもらったものだ。 「何色が好きなんや?」 「……緑、ですかね」 パソコン画面に浮かぶロゴの色が緑色に変わった。 「仮ね。仮」 「……ガ
南風を待ってる 旅立つ日をずっと待ってる "オッケーよ"なんて強がりばかりをみんな言いながら 本当は分かってる 2度と戻らない美しい日にいると そして静かに心は離れてゆくと #さよならなんて云えないよ #小沢健二 #歌の挿絵 #イラスト #illust #illustration #illustrator #song #cat #isaohiromi
あの震災の数ヶ月前から。僕は作品契約でそのピアニストの付き人となった。 本番前は秒単位で業務があった。これは比喩でもなく、本当に秒単位だった。 舞台の本番直前になると、そのピアニストは洗面器の中に入れた熱湯に両手を入れる。浸ける、と書いた方が正しいかもしれない。その熱湯をつくるのも僕の業務の一つだった。 温度計で何度、とは教えられなかった。 「この温度」 そのピアニストに作ってもらった熱湯に自分の両手を入れて覚えるしかなかった。とにかく熱い。熱湯だから。痛い。
僕は賞味期限には簡単には負けない。冷蔵庫の彼方で見つけた2ヶ月過ぎたプレーンヨーグルトも平気で、ではないけど。賞味でしょ? 消費期限じゃないんじゃろ? と魔法のように唱えながら口に入れることができる。 度々あることではないけど。 数日前はボス戦だった。さすがの僕でも次の日の予定は確認した。相手は2ヶ月過ぎた卵6個だったからだ。 600円くらいしたやつじゃけん大丈夫じゃろ? 新宿伊勢丹で買ったやつよ? と魔法のように唱えながら口に入れた。 今日も僕は元気です。 #
「トークショーに参加してもらえませんか?」 映画監督の曽根剛さんからご連絡を貰った。 僕が主演した映画が15年越しに公開されるらしい。横浜で撮影した映画だ。 そういえば、完成したものを僕は観ていない。 いくつかの海外映画祭で受賞をしていることもそのご連絡で知った。 「僕、いま108kgあるんですけど。大丈夫ですかね?」 「ギャップがあって面白いんじゃないですかね?」 15年前の曽根さんは京都から出てきたカメラ小僧だったけど、 「劇場に伝えておきますね」 超がつく程の話題作で
「そういえば、そうだ。まっちゃん(僕のあだ名)これあげる。どこかに付けといてよ」 先輩のHさんは『MOTHER』というゲームが一番好きらしい。そのゲームの中でフランクリンバッヂという重要なアイテムがあるらしく、それを身につけていると即死してしまうビームや雷から守ってくれる。らしい。 「僕も『MOTHER 2』ならやったことあるんですけど。もう小学生か中学生くらいのときの話なんで……」 箱には3500円(税抜)と表記されていた。 いつも昼ごはんはカロリーメイト2本とおに
「これあげる」 20代前半。僕は池袋にある飲食店でアルバイトをしていた。そのお店で主任をしていた社員(僕よりも10個くらい年上男性)から手渡されたのはHMVのポイントカードだった。 「いえ、ここの僕も持ってるので、」 「知ってる。それはそれ。俊政(僕の本名)が映画に出るようになったことで全く映画を観てこなかった俺も映画を観るようになったの。趣味ができたお礼。受け取って」 一度、家に遊びに行ったことがある。ビデオ屋ですか? というくらいの量のDVDがあらゆる
3年前。お互いの背景を知らずに毎日のように顔を合わせていた。 「俺はお前のことは心許してるつもりだよ」 ある日の朝、砂利の駐車場でそう言われた。 その時にお互いの背景を初めて話し、知った。 僕の俳優としてのデビュー作は湘南乃風のMVだったこと。 https://youtu.be/UNzxqd2KiXI ゴキさんはGOKIさんで元湘南乃風だったこと。 https://youtu.be/QIyGdDdW_eY 「そ、そうなの!?」 いきなりメロンが爆発したかのような。お
建物を出ると、先輩と、先輩の子供・Yくんとバッタリ会いました。ゆっくり話がしたいなあ、と思っていたので驚きました。 先輩と僕は挨拶もそこそこに、それぞれ腕時計に目を落としました。僕はそのとき予定がありましたが、明日にズラすこともできるような予定でした。ただ、明日にズラすとバタバタしてしまうので今日の内に処理しておきたい用事でした。日も暮れかけていたので、先輩も早く家に帰りたいような顔をしていました。 こうもバッタリ会うと、話でもしなさい、と神様が言っているような気がしました。
東京に出てきてから8年間、僕はアメリカンショートヘアーの猫と住んでいました。名前はマルコ。まあるく太ってほしいことからそう名付けました。 そんなマルコはある日突然、星になりました。 朝起きて、トイレに行こうと寝室を出ると、廊下で横たわっているマルコを目にしました。 同じ場所で寝ていることもありましたが。そのときのマルコは見た瞬間に中身がない、肉体だけがそこに落ちているのがわかりました。 僕はかなり取り乱してしまいました。自分の言葉を聞いて混乱していくのがわかりま
とんでもなくこわい思いをしました。今まで生きてきた中で1位かもしれません。幽霊とかよりももっとこわいやつです。 今日、ガチャガチャが出てくるところに前の人が取り忘れたかのようにガチャガチャが既に出ていました。説明書みたいなやつが入っていて重さ的に中身が入っているように感じたので、「マジかラッキーじゃんこれ」と蓋を開けてみるとなんと黒いゴギブリが入っていました。古い家に出てきそうな黒よりも黒のゴギブリです。しかも生きているやつです。わかりますか? 生きているやつです。飛び出し
COOLに感じられるシーツがニトリにあると聞いたので来てみた。 側にいた女性店員に訊いてみると、「普通のクールで宜しいですか? クールの上のクールスーパーがありますが」と言われ「す、スーパー??」と狼狽えていると「クールスーパーはノーマルクールの1.5倍クールですがお客さんどのくらいクールさ求めていますか?」と訊かれたので「ペンギンと同じ気持ちです」と答えると食い気味に「そうしましたらクールスーパーのさらに上のものもあります」と言われた。 「名前はクールスーパーダブルです」