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珈琲のおとも

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「珈琲のオトも」にしたくなるような、心を動かされた素敵なnoteを集めました。何度も繰り返して読みたい、いつでも取り出して読みたい、私の大好きなベストエッセイ集です。
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記事一覧

産んだ人、産まなかった人

産んだ人、産まなかった人

16歳の時に出会った親友は、子どもを産まない人生を選んだ。

私は20歳の時に、予定外の妊娠で子どもを産む人生を選んだ。

それは、人生のそれぞれの選択であり、互いに悩み、苦しみ、辛さも喜びも比較できない。

子どもをほしいってことは、あった?と東京の横断歩道で信号待ちをしている時に聞いた。

30代まではあったよ。パートナーがどうこうより、子どもは興味があったよ。

ただ40代を迎えてからは、も

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何もしなかった夏に、家族の幸せを見つけた。

何もしなかった夏に、家族の幸せを見つけた。

今年の夏は、家で安静にしていた。

というのも、
7月に入って体調を崩したのに無理をしたら、
産婦人科の先生から

「切迫早産になりかかっているから、
安静にしてください!
仕事休めますか?
動いてしまうなら診断書、書きますよ?
切迫早産になると入院ですからね?」

と、かなり強めに言われたからだ。

職業柄、ついつい動いてしまう。
横で一緒に聞いていた旦那の
〝ジロリ〟という音が聞こえてきそうな

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メロンソーダは苦く大人の味がした

メロンソーダは苦く大人の味がした

初めて炭酸を飲んだのは小学3年の夏のことだった。

スポーツ万能な上にユーモアもあるソウスケ。お互い転校生だったこともあり自然に距離が縮まり、すぐにお互いの家を行き来するような関係になった。

内弁慶だった私にすぐに友達ができたこと、そしてソウスケが当時所属していたサッカーチームに誘ってくれたことを両親はとても喜んでいた。

当時アニメの”キャプテン翼”が全盛期だったし、ソウスケと一緒に過ごせるこ

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ドーナツ、穴と夏休み

ドーナツ、穴と夏休み

ドーナツが浮かぶ。

いや正確にはドーナツの穴の部分、カッコよく言えばドーナツホールが気になって仕方ない。

ドーナツは穴があるからドーナツたらしめるのだし、「ドーナツの穴 哲学」「ドーナツ 名言」など検索すればざくざく出てくるし、いつの世も語りぐさになるものと思っている。

なぜ、気になるのだろう。

凶悪な夏休みのせいだと思う。

穴に逃げ込みたいのか。
私自身が食べ尽くされて穴だらけなのか、

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君に謝りたいことがある

君に謝りたいことがある

君に謝りたいことがある。

ちゃんと一緒に見て、
言葉で説明すればよかった。

堪えられなければ、
涙を流せばよかった。

日曜日、市の文化センターでの習い事を終えて、活動場所の部屋を出て1階に降りた。広いスペースの壁の一部には、この時期に広く見かけるような、戦争に関するパネルが展示されていた。テーマは原爆だった。原爆により被災した人たちの写真が、大きなパネルになっていた。

子とふたり、おそるお

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卒業は突然に

卒業は突然に

その夜のデザートは、スーパーで買った4個パックのプリンだった。
食べた皿を、軽く流しながら食洗機の中に入れていく。
生ゴミを新聞紙でくるんで、ビニール袋へ。
白の食品トレーは洗って乾かして、次回、回収ボックスへ。
プリンの容器は洗って水切りカゴで乾かし、子ども部屋へ。

ちょっと待った。

一応、聞いてみることにしよう。

次男ー。さっき食べたプリンの容器、いるー?

「いらんー」

いらんよね、

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やさしい人ってどんな人?

やさしい人ってどんな人?

優しい人ってどんな人?
あらためて聞かれると、はっきりとは答えられない。
優しいってどういうことなんだろうか。

わたしが思う、優しいひと。
それは、幼稚園から中学校までを過ごした友達のことだ。
彼女とは、幼稚園のお遊戯会から、中学校の部活で汗を流すまでを共にした仲でした。
子供時代の楽しかった思い出に、いつも登場する彼女。

そう書くと、悩みとか、恋バナとか、そういうことを共有して、青春!という

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中3最後の運動会での3秒間の出来事

中3最後の運動会での3秒間の出来事

「あばらいってぇ~!リレー走れるかな、ほんと出たいし、マジで」

ダイニングテーブルに腰をおろした瞬間、中3の長男が騒ぎ立てる。3日前に友達と遊んでいる際にアバラを強打したそうだ。

「ほんと大丈夫…?病院行った方がいいんじゃないの?」

心配するでない妻よ。心配ないさー。
さっきまで友達と公園で全力サッカーしておったぞ。これは運動会見に来て欲しいフラグを発生させているだけだ。

夕飯を食べ終わり

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豆を煮る

豆を煮る

ちいさなマンションの玄関から続く狭い廊下の向こうで、シャリシャリ、カラカラと乾いた音が聞こえている。ときどき「もう1回?」とか「ちょっと待ってね」などと声が聞こえている。

廊下からつながるリビングで、千佳子は7才の息子の拓と遊んでいる。
千佳子は胡坐座になって、組んだ足の上に拓を背後から抱いて乗せ、左腕を子どもの前にまわして支えている。右手で、拓の前に置いた大きなタッパーの中身をかき混ぜている。

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病気にかかるのは迷惑なのか

病気にかかるのは迷惑なのか

以前こんな記事を書いた。

高齢者向けの保険CMに出てくる「家族に迷惑かけたくないから、お葬式代ぐらい用意しておきたい」というセリフに疑問を持ったことをキッカケに書き連ねたものだ。

そしてコロナ禍において「罹ると周囲に迷惑をかける」という風潮にも疑問を抱き、持論を書きかけたのだが時勢も鑑みて下書きに留めておいた。

さて先日のこと。
とあるフォロワーさんが「好き勝手な食生活をして病気に罹ると周り

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E162:思てたんとちゃう息子

E162:思てたんとちゃう息子

【連続投稿80日目】

今年も、父の日が終わった。

当日、爽やかに「父の日だね!」なんて言えるほど、
私は立派な息子ではない。

毎年、短く体調を気遣うLINEを送る以外、
これといった事はしていない。

向こうからも、
「ありがとう。元気やで」と短い返答。

たまに電話をしても、2分で終わる。
それでも、今、親子関係はとても良好だ。 
そこが、若い人たちの親子関係とは違うかもしれない。

父と

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賑やかで慌ただしい朝時間は私たちの人生のハイライトかもしれない

賑やかで慌ただしい朝時間は私たちの人生のハイライトかもしれない

我が家は私、妻、そして5人の子どもたち【長女(17)次女(15)長男(14)三女(8)次男(2)】の家族7人暮らし。賑やかな毎日を送っている。

今日もいつもの朝が始まる。

6時 朝の始まり

起きたての静寂。

身体にまとわりつくひんやりとした空気が好きだ。白湯を一口飲み、40代のカラカラに乾いた身体を潤す。前日、使った山積みの食器を前に深呼吸。

さぁやるぞ。

食器を元の場所へ戻す。家事の

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吸引力の強い男

吸引力の強い男

 その日、私はショッピングカートをゴロゴロ引っ張っていた。
 月に2回ほど開催されるワイン2割引の日を目当てに、近所のスーパーマーケットに、買い物に来ていたのだ。

 会計を終え、カートに戦利品のワインをつめていると、真横から独特な匂いが漂ってきた。
 ポマードだろうか。
 スーパーマーケットという場にそぐわない重たい独特な匂いに、思わず目をやる。
 するとそこには、スーツをビシッと着て、頭をビタ

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シンデレラ・パジャマ

シンデレラ・パジャマ

「あなた、お名前は?」

3年通っているが、名前を覚えてもらったことはない。あまりに久しぶりに尋ねられて、しばし面食らった。

彼女は私をケアさんと呼んでいる。

私も別にそれで困らないし、ちなみに毎週2回来ている看護師さん達もケアさんである。

私と看護師さんの区別がついているかも微妙だが、彼女はそこをうまく取り繕うことに長けている。

彼女の一人暮らしには、ケアさんが複数必要になってきていた。

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