見出し画像

躁鬱経営統合への道 SOUとUTSU④

UTSUさんが部屋を出て行った後、ノートは静かに机の上に置かれたままだった。時間の流れはゆっくりと過ぎ、夕日が差し込む頃、再び足音が近づいてきた。今度は、軽快で、どこか鼻歌まじりの足音だ。SOUさんが戻ってきた。

「おー、UTSUはもう行ったか?相変わらず暗いなぁ。ま、いいか!それより、続き続き!俺の『ネクストステージ突入大作戦』、どう思った?最高だろ?」

SOUさんは、ノートを開き、UTSUさんが書いた几帳面な文字と数字の羅列を一瞥した。

「うーん…相変わらず細かいなぁ…こんなの見てると頭が痛くなってくるんだよなぁ…」

SOUさんは、ノートを閉じ、頭を掻きむしった。UTSUが言っていた「無駄な出費を減らす」という言葉が頭の片隅に残っていたが、具体的な行動に移す気にはなれなかった。

「ま、いっか!細かいことはUTSUに任せておけば大丈夫だろ!俺はもっと、でっかいことを考えなきゃ!」

SOUさんは、そう言い聞かせ、再び新しいビジネスのアイデアをノートに書き始めた。しかし、以前のような勢いは感じられない。UTSUの言葉が、小さな棘のように心に刺さっている。

数日後、SOUはUTSUの言っていた「無駄な出費を減らす」を実践しようと、いつものカフェに行くのを我慢し、家でインスタントコーヒーを飲むことにした。一口飲むと、顔をしかめた。

「なんだこれ…苦いだけじゃないか…やっぱり、カフェのコーヒーは違うんだよなぁ…」

結局、その日の午後にはカフェに駆け込んでしまった。美味しいコーヒーを飲みながら、SOUは自己嫌悪に陥った。

「ああ…またUTSUの言うことを守れなかった…俺って本当にダメだなぁ…計画性がないし、意志も弱い…」

夜、ノートを開くのが憂鬱だった。案の定、UTSUは新しい書き込みを残していた。それは、SOUの楽観的な考えを批判し、具体的な数字に基づいて現状の厳しさを説明するものだった。SOUは、その内容を読み進めるうちに、ますます落ち込んでいった。

「やっぱり…俺はUTSUには敵わない…あいつはいつも正しい…俺はただ、夢見がちなバカなんだ…」

SOUは、ノートを閉じようとした。その時、ふと、UTSUの最後の言葉が目に留まった。

「SOUの勢いは、私にはないものだ。私が足りない部分を補ってくれる。」

その言葉を何度も読み返すうちに、SOUの心に、今まで感じたことのない感情が湧き上がってきた。

「俺の…勢いが…UTSUの役に立ってる…?」

SOUは、初めて、UTSUの視点から自分を見た。今まで、UTSUのことを、細かいことばかり気にしている、暗い奴だと思っていた。しかし、UTSUは、自分の勢いを認めてくれていた。そして、自分にはない計画性で、自分を支えようとしていたのだ。

「そうか…俺たちは、違うからこそ、一緒にいる意味があるんだ…UTSUは、俺の足りないところを補ってくれる…そして、俺は、UTSUにないものを持っている…」

SOUは、初めて、UTSUの存在の大きさに気づいた。そして、今まで避けてきたUTSUの書いた表や数字を、もう一度じっくりと見てみようと思った。今度は、頭が痛くなることはなかった。UTSUの書いた数字の一つ一つが、自分たちのためになる計画だと、少しずつ理解できるようになってきた。

いいなと思ったら応援しよう!